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狙われた国と、名誉な役割

「別にアイツの扱いなんて、適当で構わないぞ。からかえば、結構面白いし。魔法騎士たちは、個性豊かだしな」

「……それは、ミリウス様の立場だからこそ言えることですよ……」


 正直に言って普通の小娘に、ジャックをはじめとした魔法騎士をからかうことはハードルが山よりも高い。まぁ、リアムの扱いが適当な自覚はあるのだが。ああいうタイプは調子に乗らせないためにも、塩対応に限る。いつだっただろうか、リオもそんなアドバイスをくれた気がする。


「……俺が振っておいていうのも変だが、お前結構本音を言ってくれるようになったな」


 そう言ったミリウスは、静かにセイディを見据える。……確かに、初めの頃のセイディはミリウスのオーラに臆していた部分がある。だが、関わってみればミリウスも身分で威張り散らさないいい人で。まぁ、立場的なものがあるため軽々しく扱うという考えはないが、それでもまだまともに話せるようになったのではないだろうか。


「……失礼、でしたよね」

「いや、全然。俺、本音とか取り繕われて称賛の言葉言われるの大嫌いだから。だから、ずばずばと言ってくれる人の方が好き」


 セイディが俯いてそう言えば、ミリウスはそんなことを言いながら口元を緩めた。多分、彼は本気でそう思っている。それが伝わってくるからこそ、セイディも少しだけ気を緩めることが出来た。……っはっきりと言って、この空間は慣れないものだ。というか、慣れるわけがない。たとえ、ミリウスと関わることに慣れたとしても。


「ところで、私に、何か……」


 話をしていると忘れてしまいそうだが、ミリウスはセイディに頼みがあると言っていた。まずは、それを聞かなくては何も始まらない。そう思い、セイディがミリウスに視線を向ければ、ミリウスはさも楽しそうに笑い始めた。……一体、何が楽しいのだろうか。それとも、何かおかしいのだろうか。彼の笑いの沸点が、分からない。


「いや、どうしてだろうな。真剣な話なのに、お前を見ていると落ち着くな。……どういっていいか……そう、どっしりとしているというか」

「……それは女性に対して失礼、です」

「そう言う意味じゃない。態度の話だ」


 ……全く、話が進まないじゃないか。そんなことを思いセイディが少し視線を逸らせば、ミリウスは「悪い悪い」と軽々しく謝ってくる。その後「……マギニス帝国って、知っているだろ?」と続けてきた。


「近隣の魔法の先進国で、武力国家の帝国、ですよね」

「あぁ、そうだ。実はな、あそこがリア王国を狙っているという話を聞いた。……あそこは血気盛んだし、いつだって他国を侵略する機会をうかがっている」

「……それって、かなりまずい案件では……」

「そうだな。俺もそう思うし、大臣たちもそう思っている」


 その割には、ミリウスは落ち着いているな。もしかしたら、何か考えがあるのかも……そう考え、セイディが真剣な表情を浮かべミリウスを見据える。そうすれば、ミリウスは肩をすくめながら「考えは、あるにはある」と言いながら天井を見上げた。


「だがな、上手くいく保証がない。王家としてはリスクのある方法を取りたくない。……そもそも、いろいろなうわさがある」

「うわさ、ですか?」

「あぁ、他国中に刺客を忍ばせているという、話だ。……多分、この国にも普通に紛れ込んでいる。だから、最悪の場合こっちの考えは筒抜けだということ」


 ……本気で、それはまずいのでは? そう思い、セイディは息をのむ。自らに何かが出来るわけではない。ミリウスはセイディのことを「王国最強の聖女」と言ってくれたが、自分ではそんな過度な自信を持つことは出来ない。ミリウスは、セイディの力を認めてくれているからこそ、この話を教えてくれている。それでも……自らの力を過信するのと、聞こえてくるのは滅びの足音。


「だからな、派手なことを避けるために『光の収穫祭』を中止するという案が出た。だが、そうすれば民たちに無駄な不安を与える。それは、避けたい。だから、セイディに一つ頼みがある」

「……私、に」

「あぁ、俺のことを助けてくれたお前ならば、信頼できるし力も認められる。だからな、お前――」


 ――今年の、『光の収穫祭』の代表聖女を務めろ。


 その言葉を聞いた時、セイディは目を見開いてしまった。ミリウスの言ったことは、聖女からすれば最高峰の役割である。それを務めるのは、決まって高位貴族の生まれの聖女。決して……子爵家の生まれで、現平民の人間が務める役職ではない。


「私に、それが務まると思いますか?」


 だから、セイディはそう問いかけてしまった。その役割に選ばれるということは、とても名誉なことだ。でも、選ばれることに一番大切なのは力よりも血筋。高貴な聖女を民に披露することで、聖女文化を廃れないようにするという意味合いも含まれているから。だから、みずぼらしい聖女が請け負える役割ではない。


「務まるさ。……いや、絶対に努めさせる。お前の力を披露して、この国は簡単にはやられないとマギニス帝国に示す。それに、俺ら騎士団も魔法騎士団も、王都の神殿も全力でサポートする。だから、務まる」


 そう言ったミリウスの眼力は、とても強くて。セイディはしばし考えたのち、静かに頷いた。自分に務まるかは、やってみないと分からない。それでも――務まるか務まらないかじゃ、ない。務めるしかない。いつもの考えに今回のこともあてはめ、セイディは「出来る限り、頑張ります」と言葉を返した。


「そう来なくっちゃ。……けどな、これ、アシェルとジャックの許可を取っていないわけだ。だから、俺は後で必ず怒られる。危険な目に遭わせるのは言語道断とか、言われるのだろうな」

「……それ、大丈夫なのですか?」

「全く。あの二人の説教は長い。長いから面倒だ」


 ミリウスはそう言いながら、「はぁ」とため息をついて額を押さえていた。その態度を見ていると……セイディの中の緊張が、解けた。なんだろうか。今までの緊張が、取れた。そして、覚悟も決まった。


(どうなるかは分からないけれど、頑張るしかない。お母様、見守っていて)


 記憶にない実母に心の中で声をかけながら、次に頭を抱え始めたミリウスを、セイディは見つめていた。

次回は久々にあのジャレッドの現状になります(o*。_。)oペコッ(多分)


こちら読み返していたのですが、普通に矛盾点あるので、またちまちま直していきます……! やっぱりゆるっとふわっと設定では始めるものじゃないですね……。


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします!

(あと、場合によっては九月いっぱいまで更新頻度が週一になるかもしれません……。そこら辺は、決めたらまたアナウンスします……すみません)

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