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奇跡よりも、今信じるべきものは

「……え、えっと、ジャック様? そちらの方は……その、騎士団のメイドの人、ですよね?」

「あぁ、そうだな。……少し、試してみたいことがある。お前たちは、出て行ってくれ」

「か、かしこまりました」


 解毒に当たっていた王宮の人間たちが、ジャックの指示により医務室の奥の部屋を出ていく。その間にも、セイディは魔法石を握りしめていた。部屋は異様なまでに重苦しい空気に満ちており、窓もカーテンも閉められていることから日の光一つ入ってこない。それに息をのみながらも、セイディは寝台の上で眠るミリウスの顔を見つめた。……ミリウスの鋭い目は、今は閉じられており迫力などない。……普段は、怯むぐらい迫力がるというのに。


「セイディ、始めてくれ。俺は邪魔にならないように待機している」

「……は、はい」


 ジャックが近くの椅子に腰を下ろしたのを見て、セイディは光の魔力を指輪を使って増幅させていく。ありがたいことに、フレディに貸してもらった魔法石のおかげなのか、普段よりもかなり力が湧き出ているような気もする。魔法石を右手に握りしめ、指輪に意識を集中させる。治癒や解毒に最も大切なのは、集中力だ。集中力が崩れれば、出来るものも出来なくなる。


(次に、増幅させた魔力を注ぎ込む)


 そう思い、ミリウスに手をかざし、手のひらから光の魔力を発する。はっきりと言って、力業でごり押ししようとしていることもあり、上手くいく保証などない。もっと、知識があれば。そう思うが、ジャックやアシェルでもわからないことともなれば、セイディにわかるわけがない。それに、今するべきことは後悔するよりも、奇跡を信じることよりも。奇跡をごり押しでつかみ取ることだけなのだ。


(出来るとかじゃない。やるしかない。……私は、ここで良くしてもらったのだから)


 いつかは、間違いなく自分は出ていくだろう。それでも、お世話になった分だけは恩返しがしたい。ミリウスとセイディには、あまり関わりがない。それでも、良くしてもらったことに間違いはない。……アシェルやリオは、なんだかんだ言ってもミリウスのことを慕っているし、悪態をつくジャックもそうだろう。口では、絶対に言わないだろうが。


(光の魔力の量は問題なし。……でも、まだうまくいっていない。問題があるとすれば……)


 この毒が、特殊なものだということなのだろう。ミリウスほどの人間が、どう隙を突かれたのかはわからないが、それでもこの毒は間違いなく強力なものだ。……そして、予想するにこの国の物ではない。あまり考えたくはないが、何処かに他国の刺客が忍び込んでいたと考えるのが妥当だろうか。


 そんなことを考えていれば、セイディの身体がぐらっとふらつく。それは、魔力がいきなり体内から消え始めたことによる、ある意味当然のこと。それでもぐっと踏みとどまっていれば、ジャックが少しだけ支えてくれた。その支え方は出来る限り触れたくはないとでも言いたげだったが、それでも支えてくれていることに間違いはない。


「……セイディ」

「大丈夫、です」


 ジャックに名前を呼ばれるものの、セイディはそれだけを素っ気なく返し、また解毒に集中する。無意識のうちに力いっぱい握っていたからなのか、魔法石が熱くなっている気がする。それでも、徐々にミリウスの顔色がよくなっているのを見れば、セイディは心の中でホッと一息をついて安心できた。もうすでに五分以上光の魔力を注ぎ込んでいることもあり、身体は疲れ切っている。それでも、あと少しだと信じて行動を続ける。


「……っつ」


 そして、それからまた五分程度経った頃。セイディの手のひらの中にあった魔法石が、パリンと音を立てて割れてしまった。手の中で割れた魔法石のかけらは、砂となって床に零れ消えていく。それとほぼ同時に……セイディは、その場に座り込んでしまった。


「大丈夫、か?」

「わ、たし、は。ミリウス、さま、は?」


 ジャックの言葉に、覇気なく返事をしセイディは呆然と砂になった魔法石を見つめていた。フレディに、返すつもりだったのに。砂となって消えてしまっては、もう返しようがないではないか。そう思いながら呆然としていれば、ジャックは「……殿下の方も、もう、大丈夫そうだ」と告げ、セイディに視線を合わせてしゃがみ込んでくれた。


「……よ、か、った」


 そんなジャックを見て、セイディはそれだけをつぶやく。すると、徐々にその場に意識を保っているのが難しくなる。強烈な眠気が身体を襲い、そのままばたんと倒れてしまいそうになる。大方、身体の中から魔力がなくなってしまったのが原因だろう。


(……眠たい)


 考えられることは、それだけだった。しかし、どれだけの時間が経っても床の感触はしない。するのは、誰かの手で支えられているという感触だけ。


「……お疲れ」


 眠りに落ちていく前に聞こえたのは、そんなジャックの声だった。そのジャックの声は……今まで聞いた中で、最も優しくて。それを聞いた時、セイディの口元は自然と緩んだ。そして、そのまま――眠りに、落ちてしまった。

あと少しでミリウスのターンは終わりになる予定です(´・ω・`)

あと、来週の更新は一度だけの予定です。火曜日と金曜日、どちらを休むかは未定ですが。


引き続きよろしくお願いいたします(o*。_。)oペコッ

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