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少年騎士の愚痴

(……しかし、仕事中にこんな風に寛いでいてもいいのかしら?)


 それから約二十分後。セイディは寄宿舎内の食堂にいた。先ほどまでは調理場で料理人たちが忙しなく後片付けをしていたものの、今はセイディ一人きりである。そんな沈黙の空間の中、セイディはカップに一杯分の水を入れ、クリストファーがやってくるのを待つ。クリストファーの分も用意するつもりではあるが、彼がいったいいつ来るかが分からないため、準備していないだけだ。どうせならば、冷たいものの方がいいだろう。


(……あっ、あのお花綺麗)


 ふと食堂の窓から外を見つめれば、寄宿舎の周辺が花で彩られていた。『光の収穫祭』は名前の通り豊穣に感謝し、聖女にも感謝をするお祭りだ。去年までのセイディは聖女としての準備に奔走していたため、街の様子に目を配ることはなかった。だが、今思えばもったいないことをしたと思う。仕事が忙しいと周りが見えなくなってしまうというが、まったくもってその通りだと分かったのだ。


(そう言えば、レイラはきちんと聖女をやれているのかしら?)


 そして、もうずっと会っていない義妹に想いを馳せながら、セイディはちまちまとカップを口に運ぶ。聖女の仕事はかなりハードなものだ。確かに周りにちやほやされるという点では、レイラが魅力を感じたのも分かる。しかし、レイラの聖女の力は微量でしかない。……このリア王国の聖女は質よりも量。そのため、力の弱い聖女が迫害されることはないのだが……それにしても、レイラの力は群を抜いて少ないはずだ。


「お待たせしました、セイディさん」

「……いえ、大して待っていませんから」


 そんなことを考えていると、食堂の扉が開きクリストファーがやってくる。待っていた時間は、単純に計算すれば十分程度だろうか。まぁ、それぐらいならば待っていた内に入らない。元婚約者であるジャレッドは、遅刻癖があった。それこそ、数時間遅刻してくることも多々あったのだ。比べるのも悪いと思うが、それでもそれに比べたらずっとマシだ。


「お水を入れますね」


 クリストファーが目の前の椅子に腰かけたのを見て、セイディは立ち上がり水を入れに向かう。その間にクリストファーは熱心に窓の外を見つめていた。その視線の先には、大ぶりの赤い花飾り。……やはり、クリストファーも街の様子が気になるのだろうか。


「綺麗ですよね、花飾り。……どうぞ」

「……えぇ、ありがとう、ございます」


 どこか寂しそうなクリストファーの目の前に水を注いだカップを置けば、クリストファーは軽く頭を下げてくる。やはり、その仕草は名門侯爵家の令息というだけはあり、上品で優雅だ。自分とは、大違い。そんなことを思いながらセイディは元の位置に腰かけ、「『光の収穫祭』、楽しみですか?」と何でもない風に問いかけてみる。セイディは聖女として人の悩み相談に乗ってきた経験がある。そして、こういう時は全く関係のない話題から入るのがセイディの常だった。


「そうですね。去年までは、何でもない風に楽しんでいましたし」


 セイディの問いかけに、クリストファーは苦笑を浮かべながら答えてくれた。その目は伏せられており、その綺麗な目は何処か悲しそうにも映る。やはり、何かがあるのは一目瞭然だ。そんなことを判断しながら、セイディは「仕事、ですものね」とクリストファーに言葉を返した。騎士や魔法騎士は、『光の収穫祭』では警護の仕事にあたることになっている。楽しむ余裕などないだろう。ちょっと、言葉を間違えたかな。そう思いながらセイディは窓の外に視線を移した。そこでは、青々とした綺麗な空が広がっており、雲は一つもない。


「セイディさんは、その日は仕事がないのですよね?」

「まぁ、そうですね。去年までは主催者側……聖女でしたから、仕事がたくさんあったのですが。今年は暇です」


 肩をすくめながらセイディがそう言えば、クリストファーは「誰かと、お出掛けしてみては?」と言ってくる。……興味のあることには、結構ぐいぐい来るタイプなのだな。なんだか、子供っぽくて可愛らしいな。そんなことを考えながら、セイディはテーブルに飾ってあるオレンジ色の花をつつきながら、「友人もいませんし、寂しいことに恋人もいないので」とにっこりと笑いながら答えた。セイディの友人は仕事であり、恋人も仕事。それは、自分で宣言できることだ。


「……話は、変わりますが、僕は家出しています。それを知っているのは、副団長だけです」

「……そうなのですか」


 少し躊躇った後、クリストファーはゆっくりと口を開いた。そのため、セイディも真剣な表情になる。まっすぐにクリストファーの目を見て、彼の言葉の続きを待つ。


「家での堅苦しい生活が、僕は嫌だった。そんな時、偶然副団長に出逢って……感心したのです。あの人は、あんなにも綺麗な顔なのに戦える。それに、強い。僕も、あんな風になりたい。そう、強く思いました」


 ポツリポツリとこぼれていくクリストファーの言葉に、セイディは耳を傾ける。話の途中で割る込むことは、しない。まずは彼の気持ちを聞くことが先決だ。それが分かっていたからこそ、セイディはただじっとクリストファーの言葉を聞き続けた。


「でも、両親に言えば『ふざけたことは考えるな』の一点張りでして……僕は、家出を決意してここの門をたたいた。今ならば、それは正解だと思います。ルディやオーティスみたいな、かけがえのない友人と出逢えたので」


 じっと俯き、クリストファーはそんなことをセイディに教えてくれる。その言葉の一つ一つには重みがあり、それだけクリストファーが思い悩んでいたということなのだろう。それは、容易に想像がつく。それを感じていると開いた窓から入った風がカーテンを揺らし、セイディの髪も揺らす。しかし、そんなことセイディが気にすることではなかった。今は、クリストファーのケアの方が大切だから。

もうしばらくクリストファーのターンです(o_ _)o))その後はミリウスのお話になりまして、ざまぁパート1がスタートする予定です。引き続きよろしくお願いいたします(n*´ω`*n)


あ、次回更新は何もなければ金曜日です。

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