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甘い雰囲気と、微妙な会話


「貴方が、フレディですね」


 初対面の男性は、フレディのことを見据えてそう言う。その男性の眼光はとても鋭く、人々にかなりの威圧を与えるだろう。しかも、その容姿は漆黒色のさらさらとした髪と、紫色の目でどこか気品がある。だが、その反面その体格はがっしりとしており、まるで騎士のようだ。いや、実際に彼は騎士なのだろう。その男性の胸元には、騎士団のバッチが輝いていたためだ。


「……そうですよ」


 その男性の目には、フレディのことしか映っていないのか。はたまた、セイディに気が付いていないのか。そう考えられるほどその男性の目にはフレディしか映していない。一触触発の空気を醸し出す二人だが、ふと男性は口元を緩めると「エリノア嬢が、世話になった。感謝する」とだけ言い、軽く頭を下げてくる。その姿を見たとき、セイディはハッとした。


(……このお方、レイモンド様……東の隊長様だわ!)


 一度だけ、アシェルに騎士団の名簿を見せてもらったことがあった。その際に、辺境にいるという騎士の名簿も見せてもらったのだ。その名簿に、この男性は載っていた。しかも、隊長という役職の為肖像画もついていた。


 レイモンド・ファルケンベルク。それが、この男性の名前のはずだ。リア王国の名門公爵家ファルケンベルク家の次男。その剣の腕を見込まれ東の隊長に抜擢されている。……リッテルスト伯爵家が治める辺境の領地は東側。……それはもしかすれば、レイモンドとエリノアは出逢うべくして出逢ったのかもしれない。


「……おや、そちらは?」


 そんなことをセイディが考えていると、ようやくレイモンドの視線がセイディに注がれる。その目を見て、セイディはレイモンドに対して深々と頭を下げた。今のセイディは、所詮平民。公爵家の令息に強く出られる立場ではない。まぁ、子爵令嬢ごときでも強くは出られない。セイディは、強く出ようとも思わないが。


「レイモンド様。こちらは、セイディ様と言いますの。……私のことを、守ってくださいました」


 セイディが顔を上げれば、それとほぼ同時にエリノアが嬉しそうにセイディのことを紹介していた。それに心の中で感謝しながら、「セイディと申します」とだけ端的に伝える。


「セイディ……。あぁ、騎士団のメイドか」

「……存じていらっしゃるのですか?」

「ミリウス殿下からメイドを雇ったと聞いている。ついでに、名前のその時に教えてもらった」


 レイモンドはエリノアの質問には、優しい声で答えていた。フレディやセイディに向かって発した声には、何処か冷たい感じがしたのに。


(そう言えば、アシェル様によれば隊長たちはみな優秀だけれど、問題児らしいわね……。冷酷で、冷血な人間が多いと聞いているわ)


 そう思ったが、今のレイモンドにはそんな印象を抱けない。ただ、エリノアが心から愛おしいとばかりの態度と声音なのだ。


「エリノア嬢のことを守ってやれればよかったのだがな……」

「仕方がありませんわ。レイモンド様にはお仕事がありましたもの」

「……エリノア嬢は、とても優しいな」


 ……何かが、始まってしまった。エリノアとレイモンドは、もうすでに互いしか見えていないのか、そんな会話を繰り広げながら甘い空気を醸し出す。それを見ていると、胸焼けしてしまいそうだ。そう思ったセイディが隣を見れば、フレディも何処か微妙な表情を浮かべており、リッテルスト伯爵は苦笑を浮かべている。……もしかしたらだが、この二人は度々こんな光景を繰り広げているのかもしれない。


「……では、僕たちはそろそろお邪魔させていただきますね」

「え、えぇ、分かりました。……えっと、追加報酬の方は……」

「そちらは、王宮の方に支払ってください。僕の雇い主は、王宮……というか、王家ですからね」


 リッテルスト伯爵の言葉に、それだけを返したフレディは「セイディ、行くよ」とセイディに告げるとそのままセイディの腕を掴んでくる。……先ほど、セイディはこの人とは考えが合わないと実感した。でも、合わないのならば合わないなりに付き合っていくしかない。それに、拒否する意味もない。そう判断し、セイディは「承知いたしました」と言い立ち上がる。最後に、リッテルスト伯爵とエリノア、レイモンドに深々と一礼をした後、セイディはフレディに連れられリッテルスト伯爵家を後にした。


「……ねぇ、セイディ」

「どうかしましたか?」


 馬車に乗り込んで、数秒後。フレディはセイディの名を呼んでくる。その声には何の感情も籠っておらず、酷く不気味に感じられてしまう。今までのフレディは、フレンドリーで妙に馴れ馴れしい。しかし、今日の態度を見ていると「あれは作り物ではないのか」と、思ってしまう。それぐらい、今日のフレディは変だった。


「……何でもないよ。呼んでみただけ。今日はありがとう。分け前、明日渡しに行くから」


 そして、たったそれだけの言葉を残しフレディは黙り込んでしまった。そのため、セイディも黙り込む。それから、馬車が王宮にたどり着くまでの間、二人は何も話さなかった。

これにてフレディの回は終了です(n*´ω`*n)(滅茶苦茶長くなりました。作者も驚きです)


次回はあのジャレッドの場面になります。次の更新も次の金曜日になりそうです。

いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします!

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