表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/259

人それぞれのやり方


「フレディ様、お連れ様。今回は本当にありがとうございます……!」


 それから、一時間後。エリノアの誕生日パーティーは一旦解散となり、また別日に落ち着いたら再度開催ということになった。招待客たちが帰路につく中、セイディはフレディと共にリッテルスト伯爵に呼び出され、お礼を告げられていた。フレディは涼しい顔でリッテルスト伯爵と会話をしているものの、セイディは少しもやもやとしてしまっている。


(……フレディ様のやり方、ちょっと私には合わなかったわね……)


 そう、思っていたのだ。フレディのやっていることは、普通に正しい。現行犯で捕まえるのが一番だと、セイディだって理解している。しかし、エリノアはあんなにも怯えていた。今でこそ、遅れてやってきた想い人だという男性と一緒にいるため大丈夫だろうが、それでもあの怯えようはセイディから見て異常だった。……フレディは、少しでも彼女の不安を取り除きたいとは思わなかったのだろうか。


「あの、フレディ様」


 リッテルスト伯爵が少し席を外したとき。セイディは、意を決してフレディに改まって声をかけた。そうすれば、フレディは「どうしたの?」と言いながら、その綺麗な青色の目を細めてセイディを見つめてくれる。……だが、その目は何処か濁っているようにも見えてしまうのは、気のせいだろうか。この間まで、すごく綺麗な目だと思っていたはずなのに。


「私が、こんなことを言える立場じゃないって、分かっています」

「セイディ?」

「エリノア様を、守る方法はあれでよかったのでしょうか?」


 自分が、何かを出来たわけではない。だから、専門分野の人間にあれこれ言える立場ではないし、黙っておくに限るだろう。そう思っていた。でも、犯人が捕まった後のエリノアを見たとき、セイディはふと思ったのだ。……この人は、利益を優先して動いたのだと。


 確かに、それが間違っているとは言えない。だが、セイディは元聖女だ。聖女は、人々の傷を癒す。その傷は身体の傷であり、心の傷。傷は残さない方がいい。それが聖女や神官の考えである。そのため、利益や目的を最優先したフレディと、考えが合わないのは当然と言えば当然なのだ。


「私は、元聖女なのでこういう考え方をしているのかもしれませんが……エリノア様の心に、傷を負わせてまで、あの手段を取るべきだったのでしょうか?」


 刃物を向けられて、心に傷を負わない人間などいない。そう、セイディは考えている。そのため、フレディとはどこまで行っても平行線だろうとは思っている。しかし、思ってしまうのだ。利益や自分の目的を優先する必要はあるのか、と。


「……それは、どういうこと?」

「私は、エリノア様の近くにおりました。なので、彼女がどれだけ怯えていたかが分かっていたつもりです。……エリノア様は、犯人が確保されても震えておりました。エリノア様の心には、深い傷が残るのではないでしょうか?」


 ゆっくりとフレディの目を見て、セイディはそうかみしめるように言った。こんなことを思うのは、自分が元聖女だから。こういう考えが、騎士団の人や魔法騎士団の人、さらには宮廷魔法使いであるフレディに通じるとは到底考えちゃいない。だけど、言葉にしないと自分の気が済まなかった。もしも、エリノアと似たような状態の人が今後現れた場合、フレディにやり方を変えてもらいたかったのかもしれないし、ただこのことを伝えたかっただけなのかもしれない。それは定かではないが、セイディにだって譲れない部分がある。


「……あのね、セイディ。僕はそんな甘ったれた人間じゃないんだ。利益と目的を優先して、何が悪いの? 確かにキミは元聖女で、そう言う考えを大切にしていたかもしれない。それは分かる。でも、人にはそれぞれのやり方があるし、モットーがある」

「それは、分かっています」

「僕モットーは分かりやすく簡単に。その為だったら、被害者の心なんて後回しで良いんだよ。……仕事は、とっとと終わらせた方が良いんだ」


 ……やはり、フレディの考えとは合わないな。心の奥底でそう思いながら、セイディは「出過ぎた真似を、しましたね」ということしか出来ない。それでも、エリノアの恐怖におびえた顔。震えた身体は、今でも鮮明に思い出せる。……自分が、戦えれば良かったのに。そうとも、思ってしまう。


「そもそもね、戦闘をメインにした僕たちと、癒すことを一番に考えるキミたちじゃあ、考えが合わないのは当然だよね。……それに、僕さ――」


 ――そう言う被害者感情に流されるの、大嫌いなんだよ。


 そう言ったフレディの目は、柔和に細められているものの笑ってはいなかった。ただ、本当にセイディのことが煩わしい。そんな感情だけが伝わってきたので、セイディはゆっくりと口を閉じた。このまま自分の気持ちを伝えても無意味だと、分かったから。


(でも、それで当然よね。人には人それぞれの守り方があって、信念があるのだから)


 目を閉じて、そう思い直す。そうすれば、リッテルスト伯爵が部屋に戻ってくる。その側には、エリノアと見たことのない一人の男性が、いた。

しばらくの間は毎週金曜日更新にすることにしました(n*´ω`*n)落ち着いたら週に二回更新にします!


また、四月にやると言っていた感謝企画(ヒーロー視点の小話)を六月の頭にすることにしました。理由などは活動報告に書いていますので、気になる方は覗いていただければ、と。

次回でフレディの回は一旦終わりです。その次は……久々にあのジャレッドの視点になります。

最後に、外伝の方も本日は更新していますので、気が向いたらよろしくお願いいたしますm(_ _"m)


いつも読んでくださりありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ