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絶対に守りたいから


「――っつ!」


 セイディの耳に、エリノアの息をのむ音が聞こえてくる。その男性は、エリノアを強くにらみつけながら一歩一歩踏みしめるようにこちらに向かってきた。その動きはゆっくりだが、誰も寄せ付けない迫力があって。


(大方、刃物は収納魔法で隠していたのね……!)


 そんなことを心の中でつぶやきながら、ガタガタと震えるエリノアのことをセイディは強く抱きしめた。エリノアのことを、守りたい。あの男性のことは、フレディが何とかしてくれる……と、信じたい。だから、今はとにかくエリノアを落ち着かせなくては。


(でも、さすがにここまでの殺気を向けられたら、正気じゃいることは無理よね……)


 男性の殺気は、全てエリノアに注がれている。側にいるセイディでさえ、その殺気に怯んでしまうのだからエリノアの感じている殺気はその比ではないだろう。そう思い、セイディはエリノアのことをさらに強く抱きしめ、背をゆっくりと撫でた。なんとしてでも、エリノアのことだけは守る。たとえ――この身が、犠牲になったとしても。


「――セイディ」

「フレディ様……」


 エリノアの身体を強く抱きしめたとき、耳元でフレディのそんな声が聞こえてきた。しかし、フレディはセイディたちの近くにはいない。それを不思議に思っていると、フレディの声は「そのまま、エリノア様を抱きしめていて」という。だが、フレディはやはり近くにはいない。


「――今、遠隔の通信魔法でセイディの耳元に声を送っているから。……まずはエリノア様がパニックにならないように、抱きしめて。あと――そのままで、いいから」

「……それは、どういう」


 本当に、意味が分からない。エリノアは殺されかけている。だから、このままでいいわけがない。そうセイディが思っていると、フレディの声が続く。


「防御魔法を、先ほどかけておいた。それも、強力なものを。だから、あの男にはセイディとエリノア様には指一本触れられない。……でも、捕らえるためには現行犯じゃないといけない。……そのまま『演技』をお願い」

「……はい」


 この国では防御魔法などを使える人間は、滅多にいない。攻撃魔法を使える人間は多数いるものの、防御魔法はとても珍しかった。セイディも『防御魔法』という概念があること自体は知っていたものの、使える人間を見るのは初めてだ。


(……演技って、エリノア様、こんなにも怯えているのに……)


 多分、演技などしなくてもエリノアの怯えようを見て、男性は勘違いするだろう。だが、それではエリノアが可哀想すぎる。苦しみや恐怖の時間は、少しでも短い方が良いに決まっている。しかし、フレディにはフレディの考えがある。……邪魔をすることは、得策ではない。


「エリノア様」


 だったら、自分が出来ることは。そう思い、セイディはエリノアの耳元でエリノアの名を呼ぶ。そうすれば、エリノアの顔がゆっくりとセイディの方を向いた。その潤んだ瞳。必死に声を出すまいと、一の字にされた唇。……きっと、守りたいと思ったのはエリノアの可愛らしさも、要因だったのだろう。


「エリノア様。大丈夫です。きっと、フレディ様が何とかしてくださいます」

「……は、ぃ」


 今は、少しでもエリノアのことを安心させなくては。そう判断し、セイディはエリノアのことを抱きしめたままそう言う。そして――あの男性が、行動に移した。


(――来るっ!)


 その男性は、無言で刃物を持ったままエリノアとセイディの方に走ってきた。その迫力は、防御魔法があると分かっているセイディでも怯む迫力で。セイディは、エリノアを抱きしめて彼女を庇う体勢を取る。……それは、演技ではなく身体が勝手に動いたことだった。そして――


「――なっ!」

「はい、現行犯で捕まえた」


 男性の持つ刃物が、セイディのドレスに触れそうなときだった。男性の動きが、ぴたりと止まった。それはまるで、時間を止められたかのようで。ピクリとも、動かない。しかし、その顔は驚愕の表情に染まっており、時間が止まったわけではないらしい。


「――フレディ様」


 その男性のすぐ後ろには、今まで見たことがないほどの真剣な表情を浮かべたフレディが、いた。それを見て、セイディは軽く驚いてしまった。――フレディも、こんな表情を浮かべることが出来るのか、という意味で。


「あのねぇ、好きな女の子を怯えさせてどうするの? そんなことをしたからって、エリノア様の心が手に入ると思うの? ……僕、そう言うの大嫌い」

「な、な、なっ!」

「本当に人間って自分勝手だよね。何でも思い通りになるって、思い込んでいる輩が多すぎる。……そう言うの、ごみだから。廃棄しなくちゃ」


 フレディはそうぼやくと、その男性の肩を掴み――そのまま、後ろに放り出した。そうすれば、その男性は床に強くたたきつけられ、痛みから悲鳴を上げる。……身体強化の魔法でも、使ったのだろうか。


「――セイディ、お疲れ様」


 だけど、次にセイディを労わるフレディの表情は、いつも通りで。セイディは「……お疲れ様じゃ、ないですよ」とぼやくことしか出来なかった。セイディの腕の中では、未だにエリノアが震えていた。

この度こちらの『逞し令嬢~』の総合評価が4万ポイントを突破しました(n*´ω`*n)ありがとうございます! 五月の間は不定期更新の予定ですが、引き続きよろしくお願いいたします!


(今回は、サブタイトルが決まらず三十分悶々としておりました……)


あと、しばらくの間は『年の差十五の旦那様~』という作品をメインに更新する予定ですので、気が向いたらそちらもよろしくお願いいたします(n*´ω`*n)

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