表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/259

守りたい


 リッテルスト伯爵家のパーティーホールに入れば、セイディは一瞬でその熱気に気を飛ばされてそうになってしまう。しかし、本日は仕事で来ているのだということを自分に言い聞かせ、グッとこらえた。隣では、エリノアが歪な笑みを浮かべている。大方、不安だが主催者側だから、と無理に笑みを浮かべているのだろう。それを理解し、セイディはエリノアを守りたいという気持ちを、強める。


「……エリノア様」

「大丈夫です。……絶対に、大丈夫、です」


 エリノアはそう言うものの、その言い方はまるで自分に言い聞かせているようで。セイディの心が、少しだけ痛む。レイラも、中身が伴っていればこんな感じだったのかもしれない。……まぁ、あの家庭環境でレイラがまともに育つとは到底思えないが。


「フレディ様もいらっしゃいますし、大丈夫、です。……私、頑張ります」


 そんなことを言うエリノアは、やはりとても痛々しかった。


 セイディは、とりあえず側でエリノアを守ることになっている。大したことは出来ないが、側に誰かがいればそれだけでけん制になる。そう、フレディは言っていた。フレディは今は別行動をしており、こちらに合流するのはもう少し先になるらしい。


「……彼も、頑張っているのだから」


 そんな時、ふとエリノアの口からそんな言葉が零れた。きっと、「彼」とは先ほどエリノアとの会話に出てきた、婚約が内定しそうな人のことなのだろう。どんな人なのかは知らないが、それでもこんなにも可愛らしいエリノアに想われているのだ。幸せ者だろう。そう、セイディは思っていた。


「セイディ、ごめんね、待たせちゃった」

「……フレディ様」


 それから十数分後。不意に、セイディとエリノアの後ろからそんな声が飛んでくる。そちらに視線を向ければ、そこにはやはりと言うべきかフレディがいた。フレディは、その美貌で女性の視線を一身に集めている。さすがは、絶世の美青年と言うべきだろう。


「エリノア様に近づいてくる、変な輩はいなかったよね?」

「はい、私がずっと側に居ましたが、変な人は今のところいません」


 フレディの問いかけにセイディがそう返せば、フレディは「……相手も、慎重なのかもね」とぼやいていた。その後、流れるようにセイディの手を取る。それにセイディが少し驚けば、フレディはセイディの耳に唇を寄せ「仕事、長引くかも」とだけ言う。


「どうにも、相手は慎重みたいだしね。……僕としては、さっさと済ませて帰りたかったんだけれど」

「仕事ですから、仕方がありませんよ」

「……そうだよね。セイディは真面目だし、そう言うと思っていたよ」


 セイディの言葉を聞いて、フレディが少しだけ笑う。もしかしたら、フレディも少しだけ緊張していたのかもしれない。そうセイディは思うが、そんなことは口には出さない。口に出したら最後、絶対に否定の言葉が返ってくるからだ。それは、セイディにも容易に想像が出来た。


「エリノア様。僕とセイディの二人で側にいるから。……何か変な人がいたら、言ってくださいね」

「……はい」


 フレディの言葉に、エリノアは少し俯きがちにそんな言葉を返していた。その姿はとても弱々しく、「彼女を守らなくてはならない」という気持ちが、セイディの中で強まる。何故、そんな気持ちになったのかは分からない。もしかしたら、心の中に眠っていた妹を思う気持ちが、エリノアに向かっているのかもしれない。その発想に自嘲気味な笑みを浮かべながら、セイディは辺りを見渡す。……今のところ、不審者はいない。


(……うん? あの人――)


 しかし、それからしばらくしたころ。不意に、自分たちをじっと見つめている一人の男性を、見つけた。年齢は二十代半ばぐらいだろうか。きっちりと着こなし対象は、真面目な印象を与える。だが、その目つきは鋭く、セイディたちを忌々しいとばかりに睨みつけている……気がした。一言で言えば、不気味だった。


「……あの、フレディ様」

「どうしたの、セイディ?」


 少しだけフレディを手招きし、セイディはその男性の居た場所に視線を向ける。だが、その男性はもうすでにそこにはいなかった。……移動したのかもしれない。そう思い、セイディは辺りをきょろきょろと見渡すものの、人ごみに隠れてしまったのかその男性は見つからない。


「……そっか。それだけ分かれば、十分だ」

「いえ、あれだけの情報で――」

「――大丈夫、僕に任せておいて」


 セイディの言葉に、フレディはそれだけを返すとエリノアの身体をセイディに押し付ける。どうやら、セイディにはエリノアの面倒を見ておけ、ということらしい。その考えを読み取り、セイディがエリノアの身体に触れれば、エリノアの身体は露骨に震えていた。


「……エリノア、様?」

「あっ、す、すみません……!」


 まだ、何も言っていないのに。そう思うのに、エリノアはがくがくと震え、目には涙をためていた。……何かが、あるのかもしれない。そう思い、セイディがエリノアに声をかけようとした時――。


「おい! 逃げろ!」


 そんな風に、誰かの叫び声が聞こえてきた。そちらにセイディが慌てて視線を向ければ、そこには――先ほどの男性が、刃物を持って立っていた。

次回更新日は未定です(o_ _)o))

活動報告にも書いた通り、しばらくの間すべての作品を不定期更新にします。作者の不調が原因ですので、ご心配なく。


(また、昨日は更新できずすみませんでした……!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ