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エリノア・リッテルスト


 リッテルスト伯爵家は、王国の東にある領地に邸を構えている。しかし、別邸は王都にあり、今回のパーティーは王都にある別邸で開かれることになっていた。


 別邸だという邸にたどり着いた時、セイディは視線を奪われてしまった。その美しい外観。広々とした敷地。……とてもではないが、別邸だとは思えない。そう思いながら、セイディはフレディと共にパーティーホールとは別の部屋に案内された。


「フレディ様。今回は、依頼を引き受けていただき、誠にありがとうございます。こちら、娘のエリノアです」

「エリノア・リッテルストでございます」


 そう言って一礼をする少女は、とても可愛らしくセイディの視線をくぎ付けにする。同性でさえ見惚れるのだから、この少女に惚れる男性は多いだろう。それは、容易に想像がつく。そう思いながら、セイディはエリノアに対して軽く頭を下げた。そうすれば、エリノアはその青い瞳を柔和に細める。その表情がとても可愛らしく、セイディは心の中で「可愛いなぁ」と思うことしか出来なかった。


「今回は、エリノア様を守ればいいのですよね?」

「えぇ、エリノアにはもうじき婚約が決まりそうなのです。なので、ことを大きくするわけにもいかず……」


 リッテルスト伯爵はそう言うと、エリノアのことを慈愛に満ちた視線で見つめる。それは、心の底から娘の身を案じているように見え、セイディは自分の父との差を感じてしまった。セイディの父は、セイディにとことん興味がなかった。たとえ、レイラや継母に虐げられようとも、無視だった。まぁ、今となってはそれもどうでもいいことなのかもしれないが。


「……セイディ。キミはとりあえず、エリノア様と会話をしておいて。僕は、伯爵と細かいところを詰めるから」

「……分かりました」


 フレディにそんな言葉を耳打ちされたので、セイディは渋ることなくただ頷いた。セイディだって、何かがしたい。しかし、足手まといになるのはもっと嫌だ。そう思うからこそ、セイディはフレディに従う。郷に入っては郷に従え。こういうときは先輩の言うことを聞いているのが、一番確実なのだ。


「では、伯爵。少し細かいところを詰めたいので、場を移動しましょうか」

「そうですな」


 リッテルスト伯爵とフレディは、そんな会話をして場を移動する。残されたのはセイディとエリノア、ただ二人だけ。いや、周りには侍女であろう女性が控えているものの、彼女たちは目を瞑って立っているだけであり、会話に加わってくる雰囲気はない。


「セイディ様」


 さて、何を話そうか。そう思っていた時、エリノアがふとセイディの名前を呼ぶ。そのため、セイディが「はい?」と返事をすれば、エリノアは「……騎士団の、メイドさんなのですよね?」とセイディに問いかけてきた。なので、セイディは静かに頷く。騎士団のメイドであることに、間違いはない。


「ところで、私が何故騎士団のメイドだと……? それから、名前……」

「いえ、フレディ様がカモフラージュ用だと騎士団のメイドさんを連れてくる、とおっしゃっておりましたの……。その時、名前も」


 そう言ったエリノアは、目をキラキラとさせていた。……なんだか、嫌な予感がする。そう思ってセイディが身を引けば、エリノアは「フレディ様とは、どういうご関係ですか?」とやはり問いかけてきた。……どういう関係もこういう関係もない。そう思いながら、セイディは苦笑を浮かべ「……良くて友人、でしょうか」と答える。そう、特別親しい関係ではないのだ。よく言って「友人」、悪く言えば「知り合い」だろう。


「……恋仲、ではないのですか?」


 だが、エリノアは心底不思議だとでも言いたげな目でセイディのことを見つめてくる。セイディは決して嘘など言っていない。本当に、それ以外の理由などない。


「そもそも、フレディ様は女性人気が大層高いではありませんか。……私では、似合いませんよ」

「……そうでしょうか?」


 そう言ったエリノアの目は、純粋なものだった。その目を見ていると、不思議な気分に陥ってしまいそうで、セイディは露骨に視線を逸らす。その後「……エリノア様は、どうなのですか?」と話を露骨に逸らすことにした。これじゃあ、図々しい女だが、それでもこれ以上深入りされるよりは。そう思い、セイディは出来る限りにっこりとした笑みを浮かべてエリノアに問いかける。


「……わ、私は……」


 セイディの問いかけを聞いて、エリノアは照れたように視線を逸らした。エリノアは、きっとその婚約者候補のことが相当好きなのだろう。それこそ、照れてしまうぐらいには。それは、セイディにもすぐに分かってしまう。


 ……自分とは、かなり違うな。一瞬そう思ったものの、セイディは「幸せ、そうですね」と声をかけていた。


「し、幸せ……なのでしょう、ね。私は彼のことが好きですし……」


 セイディのその声を聞いたエリノアのそんな言葉に……セイディは「やっぱり、可愛らしい」と思った。レイラとは違い、エリノアの場合は中身も可愛らしい。そんなことを、思っていた。

次回更新は木曜日か金曜日の予定です(n*´ω`*n)

また、昨日新作掲載開始しました(他サイトで先行公開しているものですが……)

『年の差十五の旦那様~』というお話です。作者ページから辿れると思いますので、気が向いたら読んでいただけると幸いです(o_ _)o))

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