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宮廷魔法使いの仕事


 セイディとフレディが馬車に乗り込めば、馬車はゆっくりと走り出す。流れていく外の景色を眺めながら、セイディは相変わらずニコニコと笑みを浮かべ続けるフレディに視線を移した。


「……今回だけ、ですからね」


 その後、小さな声でセイディはそう言う。そうすれば、フレディは笑みを崩さずに「むしろ、今回ぐらいだよ」なんて言う。セイディはその意味を理解できず、目をぱちぱちと瞬かせながら頭上にはてなマークを浮かべれば、フレディは「こういう依頼は特殊だから」などと続ける。


「宮廷魔法使いは、いわば高位貴族限定の何でも屋だからね。手が空けば高位貴族以外の依頼も受けるけれど、基本的には仕事相手は高位貴族だけ。あと、僕はこう言う護衛関連は嫌いなんだ。……ま、今回は知り合いの家だから仕方がなくね」

「……何でも屋」

「そうそう。あんまり泥臭いことはしないけれどね。だって、料金高額だし」


 けらけらと笑いながら、フレディはそんなことを言った。


 それから、フレディはセイディに宮廷魔法使いの仕事についてを教えてくれた。宮廷魔法使いは、雇い主こそ王家であるものの、仕事の相手は高位貴族が多いということ。その仕事は多岐にわたり、魔法を使うものならば大体のことは出来ること。その反面、依頼料金は高額だということ。


 そんなことを聞いていると、先ほどリリスから聞いた「宮廷魔法使いは高給取り」ということにも納得できた気がする。そう思いながら、セイディが「そうなのですか」と端的に返せば、フレディは笑みを浮かべ続け「今回の依頼主は、リッテルスト伯爵家だよ」と教えてくれる。


 リッテルスト伯爵家は、このリア王国では辺境伯爵家に当たる家だ。王家からの信頼も厚く、その権力は下手な侯爵家を上回るとまで言われている。所有する武力もかなりのものであり、王家は度々その扱いに頭を悩ませている……らしい。それが、世間一般的に見るリッテルスト伯爵家への印象だった。


「そこのご令嬢……名前をエリノア様ね。彼女の誕生日パーティーの護衛が今回の仕事。彼女、何でも面倒な輩に付きまとわれているらしくて……脅迫状まで届いたらしいよ。そこで、僕に依頼を依頼してきた感じかな」

「……カモフラージュは、宮廷魔法使いだと、護衛だとバレないように、ですね」

「そうそう。僕、あんまり顔を出して仕事をしないから。普通だと適材適所なのだろうけれど、生憎今は僕しか宮廷魔法使いはいないからね」


 ……ならば、追い出さなければよかったのに。そう思うセイディだったが、その気持ちを口にすることはなく。ただ静かに「……私は、何をすればよろしいでしょうか?」と問いかけるだけにとどめておいた。カモフラージュ用のパートナーとはいっても、さすがに何かはしなくてはいけないだろう。そう思っていたものの、フレディは「僕の横でただ微笑んでいればいいよ」としか言ってくれない。


「僕はリッテルスト伯爵家の遠縁の親戚で、他国住まいの人間として参加することになっているんだ。そうだねぇ……ヴェリテ公国辺りが無難かな」


 フレディの出したヴェリテ公国という国は、リア王国の北側に位置する中堅国。だが、その国では力の強い聖女が生まれやすく、他の国から一目置かれている。それが、セイディの持つヴェリテ公国の知識だった。いいや、むしろリア王国人間ならば誰もがこれぐらい知っているだろう。


「ヴェリテ公国のことはある程度調べてあるし、多分大丈夫。……セイディは、僕の婚約者って言うことにしておこうか」

「……はい」


 依頼を引き受けるからには、きちんとやり遂げた方が良いだろう。それが、セイディの気持ちだった。そのためには、フレディと話を合わせる必要がある。そう考え、セイディはフレディに今回の設定について事細かく訊いてみることにした。……自主的に話す必要がないとはいえ、万が一あちらから話しかけられたら困るのだ。


「セイディって、結構真面目だよね。前から思っていたけれど」

「……そうでしょうか?」

「そうだよ。メイドの仕事もきちんとやっているみたいだしね。……辛くないの?」

「辛くありませんよ。皆様、良くしてくださいますし」


 実際、騎士団の面々はセイディに良くしてくれる。元より面倒見がいい人間が多いのか、年上の騎士たちはセイディのことを妹の様に扱ってくれたりする。それが、セイディからすれば心地よかった。特にアシェルに可愛がられているような気もするが、それは気のせいではないだろう。


「さて、王都にあるリッテルスト伯爵家の別邸まであと二十分程度かな。……その間、仕方がないから真面目に打ち合わせでもしようか」

「……真面目に、するつもりがなかったのですね」

「まぁね。ほら、僕って結構適当だから」


 ……それは、威張ることではない気がする。そんなことを思いながら、セイディは調子のいいフレディの話を聞いていた。……途中、フレディが何度か顔をしかめたような気がしたが……セイディは、それを気のせいだと決めつけていた。

ヴェリテ公国は第二部の舞台です(n*´ω`*n)もうしばらくフレディのターンです。お付き合いいただけると幸いです(o_ _)o)) 次回更新は火曜日か水曜日の予定です。

また、本日は外伝の方も更新しておりますので、よろしければ読んでくださると幸いです!

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