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ジャックの言葉


「あ、あの……」

「何だ!?」


 沈黙に耐え切れず、セイディがジャックに声をかければ、ジャックは驚愕の声を上げる。そのため「いえ、本当に挨拶に来ただけで……」ということしか出来なかった。本来の予定ならば、「よろしくお願いいたします」の一言を告げ、さっさと退散する予定だった。しかし、話をする暇もなくリアムに連れ込まれたため、結局こうなっている。


(ジャック様は、女性慣れしていらっしゃらないのよね……。うん、長居は出来ないわ)


 元から、長居などする気はなかったのだが。そう思いながら、セイディは「とりあえず二週間、よろしくお願いいたします」とだけ告げ、静かに頭を下げた。そうすれば、ジャックは狼狽えながら口を開いたり閉じたりを繰り返す。


「た、頼んでなど、いない。……周りの奴らが、雑用が面倒だとうるさいから……」


 そして、ジャックが絞り出した言葉が、コレだった。ジャック自身、セイディに興味が歩かないかと問われれば、一応「ある」方なのだろう。しかし、好意を抱いているかと訊かれれば答えは「否」。嫌悪感は抱いちゃいないが、好意も抱いちゃいない。好意と嫌悪感、どちらに天秤が傾くかと問われても……微妙な反応しか出来ない。多分だが、天秤はそのまま動かないだろう。


(お、俺は、そもそもこんな……)


 そんなことを思いながら、ジャックはセイディから視線を逸らし続ける。セイディ「自身には」興味がない。興味があるのは――セイディが持つ聖女の力についてだ。セイディがヤーノルド神殿に従事していたことは、ジャックも情報として手に入れている。そして、ヤーノルド神殿には「凄腕」と名高い聖女がいるという噂も、ジャックは小耳にはさんでいた。その聖女についての情報、さらには聖女の力についての情報が、欲しい。それしか、考えちゃいない。


(というか、リアム早く帰ってこい! 本当にこういう時には使えない奴だな……!)


 セイディと二人きりの空間が、辛い。そんなことを思い、髪の毛を掻き、窓の外を眺め、リアムが帰ってくるのを待つ。だが、何かトラブルでも起きているのか、はたまた近くを通りかかったメイドでも口説いているのか(後者の方が確率は高い)、なかなか帰ってこない。


「……俺は」


 ついにジャック自身も沈黙に耐え切れなくなり、ゆっくりと息を吐いてセイディを見据えた。元々女性慣れしていない自覚は、ある。というか、自覚しかない。だから、こういう時にどういう話をすればいいかは想像もつかない。今まで何度か見合いはしてきたものの、その時も沈黙はずっと辛かった。


「お、俺は、お前のことを――ヤーノルド神殿の元聖女としての価値しか、見出しちゃいないからな!」


 その後、出た言葉はコレだった。そうだ。セイディは、聖女の力を持つ女性。それ以上でも、それ以下でもない。だからこそ……別に、緊張する必要などない。


「はぁ」

「そ、そもそも、わざわざ挨拶になど来なくてもいいだろう! 騎士団ではそれが普通かもしれないが、魔法騎士団ではそのルールは適応されない」

「……はい」

「俺は……聖女の力以外、お前に価値など見出していない」


 ジャックは、そう言ってしまった。そして、その後「やってしまった」と思う。女性は、こういうことを言えば泣き出してしまう可能性がある。少なくとも、ジャックが今まで関わってきた女性はこういうことを言えば、二パターンに別れる。「泣く」もしくは「怒る」である。その二択しか、ない。


「そ、その……だな」

「いえ、それで全然いいのですが……」

「……はぁ?」


 だが、セイディの次の言葉にジャックは素っ頓狂な声を上げてしまう。何故、泣くこともしなければ怒ることもしないのだろうか。そう思いながら、ぱちぱちと目を瞬かせていると、セイディは「仕事に差し支えがなければ、何を思われても構いません」とだけ付け足した。


「そもそも、私はここに仕事をしに来ています。お金目当てで、働いています」

「そ、それは、そうだが……」

「そのため、別にそれで構わないのです。……ですが、最後に一つだけ」


 ――どうか、リアム様とは出来る限り関わらずに済ませてください。


 セイディは人差し指を立て、一言それだけをジャックに告げた。その瞬間、リアムが「お待たせ~」と紅茶とお茶菓子を持って現れる。そして、ただ視線を合わせたまま黙り込む二人を交互に見つめ「……どうしたの?」ということしか出来なかった。


「いえ、何でもございません。ただ、ご挨拶をしただけです」

「そ、そう。じゃあ、良いよ」


 リアムに適当な説明をし、セイディは目の前に出された紅茶を飲む。どこか上品な味がするのは、ここで働く者のほとんどが貴族だからだろう。……おしゃれではないとリアム入っていたが、セイディからすれば十分おしゃれだ。


(……リアム様の態度は気がかりだけれど、出来る限り無関心でいてもらいたい……)


 心の中でそれだけをぼやき、セイディはやたらと馴れ馴れしいリアムの質問に、適当に返事をしていた。塩対応。それも、必要なことなのだ。

ありがたいことに、総合評価は3万、ブックマークは9千を超えました。ありがとうございます(また、しばらく感想欄を閉じさせていただきます、すみません……)

それから、章タイトルではなく、第一部表記にしました(かなり長くなりそうだったので)

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