魔法騎士団への挨拶?
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(一応挨拶を、とはなったけれど……)
騎士団と魔法騎士団の合同訓練を明日に控えたとある日。セイディは魔法騎士団本部がある部屋の前に、いた。引き受けることを決めたのだから、一応挨拶は……と思いここに来たものの、入るのを躊躇ってしまう。散々「変人の集まりだ」と脅しに近いことをされたのだ。いくら図太く逞しかったとしても、少々怯んでしまう。
(はぁ、素直にリオさんについてきてもらえばよかった……)
リオは一緒に挨拶に出向く、と言ってくれていた。だが、セイディはリオの仕事量を考慮して断ったのだ。本部にあるリオの机の上には、山積みの書類が置いてあった。さすがにそれを見たら……その提案を素直に受けることは、出来なかった。
「ううん、いつまでも躊躇っていても前に進まない――」
そうセイディがつぶやいて、ゆっくりとドアノブに手をかけたときだった。後ろから、誰かに肩をたたかれた。そのため「ぎゃぁ!」という女の子らしくない悲鳴を上げてしまう。その声を聞いてか、肩をたたいた主は「ごめんね」と謝り、セイディの顔を覗きこんでくる。だが……その顔は、全く知らない人だった。
「え、えっと……」
「魔法騎士団に、何か用? 俺、魔法騎士なのだけれど……。何か用事があるのならば、伝言ぐらいは引き受けれるけれど?」
その男性は深い青色の髪をかき上げながら、セイディにウインクをする。そのウインクに軽く引きながら、セイディは「……いえ、挨拶に、と思いまして」と視線を逸らしながらその男性に告げていた。
「挨拶? ……あ、もしかして、セイディ!?」
「は、はい」
「やった。俺、会いたかったんだよね! 騎士団のメイドさんでしょう?」
男性はそう言うと、セイディの手を取り勢いよく上下に振る。その動きに軽く怯えたセイディは、思わず後ずさってしまった。……何故、自分はこんなにも馴れ馴れしくされているのだろうか。フレディとは別の意味で、ちょっと苦手かもしれない。そう、思ってしまう。
「俺、リアム。リアム・ラミレス。これからよろしく、セイディ」
しかし、その男性の名前を聞いた時、セイディはハッとした。リオは確か「リアム」という名前の男性には特に気を付けておけ、と言っていた。……まさかだが、この男性のことなのだろうか?
「え、えっと……その」
「まぁまぁ、遠慮しないで中に入ってよ。団長は堅物だけれど、俺は女の子には優しいからさっ!」
……いや、これは優しいのではなくて馴れ馴れしいだけです。そう思い、セイディがリアムの言葉に戸惑いを見せていれば、リアムは容赦なく魔法騎士団本部の部屋の扉を開け、「団長、お客さん!」と叫んでいた。
「お客さん? それって、だれ――」
リアムの声を聞いて、部屋の奥から一人の男性が現れる。その男性は、セイディの顔を見て硬直していた。綺麗な赤い髪を持つ、美しい男性。……今は眼鏡をかけているが、それでも間違えるわけがない。……魔法騎士団の団長、ジャック・メルヴィルだ。
「な、な、何故、お前が、ここに……!」
「挨拶に来たらしいよ。ほら、魔法騎士団の方の面倒も見てくれるって言っていたよね?」
「そうだが! 挨拶に来るなど俺は聞いちゃいない……!」
ジャックは半ば叫ぶようにそう言うと、一歩一歩後ずさっていく。しかし、机に阻まれそこまで後ろには下がれなかった。
「……いえ、ミリウス様がお伝えしてくださるとおっしゃっていましたが……」
「お前は殿下をあてにしているのか!? あの人をあてにするなど、愚か者のすることだ!」
「……いや、そうおっしゃられても」
それは、一種の不敬罪では? そう思うが、あのミリウスが権力を振りかざす姿は想像できない。ミリウスは心も懐も広い。……自由すぎて、周りが迷惑を被っているのだが。
「まぁまぁ。団長、せっかく来てくれたんだから、お茶でもしていってもらおうよ。セイディ、紅茶で良いよね? そんなにおしゃれなものではないけれど」
「あ、はい」
狼狽えるジャックとは正反対に、リアムはセイディのことをソファーの方に手招きすると、紅茶を淹れに別の部屋に引っ込んでしまった。……そのため、残されたのはセイディと未だに狼狽え続けるジャックのみ。
(これは、どうしたものだろうか)
だからこそ、セイディはそう思ってしまった。そう思っても、おかしくない空間だった。
お読みくださる皆様のおかげで、こちらの作品に【書籍化】のお話をいただきました(n*´ω`*n)
刊行時期、出版社様はお口チャックですが、皆様にお届けできるように頑張っていきます!
(書籍化の発表については、担当様に許可を得て行っておりますので、ご心配なく)
また、四月からは予定通り二日に一回の更新になります。悪役令嬢離縁と交互に更新したいので、明日はお休みです(o_ _)o))