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セイディの結論


 ☆★☆


「あ、アシェル様……!」

「何、どうしたの、セイディ?」


 リオとの買い出しを終え、夕食時。セイディはアシェルの元を訪れていた。いつものように完璧なマナーで食事を摂るアシェルに悪いと思いながらも、セイディは「……お話が、ありまして」と真剣な面持ちで声をかけた。そうすれば、アシェルは「まぁ、そこに座りなよ」と声をかけてくれる。


「どうしたの? 急に改まって」


 アシェルはそう言いながら、セイディの目をまっすぐに見つめてくる。そのため、セイディは少しだけ息を飲み「……お仕事のこと、です」と小さな声で答えていた。


 リオとの買い出しの最中も、その後も。ずっと、セイディは考えていた。魔法騎士団のことを、だ。だが、ちょっと前。ふとセイディは自分の本心に気が付いた。それは――結構、世話を焼いたりするのが好きだということ。


「私、魔法騎士団の方のお仕事も、やります!」


 怪我を治癒した時、セイディは過去のことを思い出していた。聖女として、周りに感謝され続けた日々のことだ。当時は何でもない風に感じていたが……今思えば、それはやりがいとなっていたのだろう。


「……そう」


 セイディの答えを聞いたアシェルは、「じゃあ、あっちの団長にも伝えておく」と言ってくる。その言葉を聞いて、セイディはホッと一息をついて頷いた。


(私、自分で思っていた以上に人の世話をするのが好きなのかもしれないわ……)


 心の中でそうぼやき、セイディも夕食を摂ることにした。いつものように日替わりのメニューを注文し、いつもの席に着く。普段はリオと一緒に食事を摂ることが多いものの、本日リオは仕事があるらしく、あとから食事を摂ると言っていた。そのため、今日は一人。しかし、それを見かねてかアシェルが近づいてきてくれた。


「リオは?」

「……お仕事が、あると」

「そう。まぁ、うちは団長がデスクワークを好まないから、どうしても俺とリオに仕事が回ってくるんだよね」


 アシェルはそう言いながら、水を一口飲んでいた。騎士団本部の主な仕事はデスクワークらしい。だが、ミリウスがデスクワークを嫌うため、アシェルとリオの仕事が増えていた。……ミリウスは基本的に前線に立つのが好きなのだ。


「ところでさ、なんで唐突に仕事を引き受けることにしたの?」


 食事が半分ほど終わった頃だろうか。ふと、アシェルはそんな風にセイディに問いかけてくる。アシェルからすれば、昨日まで迷っていたセイディがいきなり答えを出してきたのだ。驚かないわけがない。だから、理由が気になっていた。


「……いえ、大したことではないのです。ただ……私、案外この仕事が好きかもしれないって、思っただけです」


 パンを口に入れ、咀嚼し終えた後、セイディは遠くを見つめながらそう言った。聖女としての仕事よりも、多分メイドとしての仕事の方が性に合っている。雑用業務も、割と好きだ。そして何よりも……給金が魅力的である。


「あ、そう言えば。魔法騎士団との合同訓練は来週から二週間ほどだから。まずはその間だけ、よろしくね」

「はい」

「リオが出来る限りサポートをしてくれるだろうけれど……大変だったら、ちゃんと言うんだよ。あと、あっちの輩は個性的な奴が多いから、出来る限り絡まれないように気を付けること」

「はい」


 リオも、アシェルと似たようなことを言っていた。心の中でそう思いながら、セイディはアシェルの言葉を真剣に聞く。どうやら、魔法騎士団に変な人が多いのは一般常識らしく、途中からほかの騎士も会話に加わり、アシェルの言葉に同意していた。


「あっちの団長に意見を言いにくかったら、俺か団長に言ってね。伝えておくから」

「……逃げられそう、ですからね」

「本当にね」


 そんなことを言ったセイディの頭の中には、ジャックの顔が思い浮かんでいた。美形だが、堅物。女性慣れしておらず、いろいろな面でセイディのことを避けている。仲良くなりたいとまでは言わない。ただ……避けられるのは、少々精神的にくるものがある。だから、出来る限り止めてほしいと思う。


(さて、来週からより一層頑張らなくちゃ)


 心の中でそう唱え、セイディは夕食のメニューの一つだったコーンスープを口に入れた。

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