一緒に買い出しに行きましょう!
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「……買い出し、ですか?」
アシェルと共に出掛けてから早三日が経った頃。セイディはふと洗濯中にリオに声をかけられた。本日、リオは本部の方の仕事に当たっており、セイディと会うのは朝食時以来だ。初めは慣れなかった一人での仕事も、今ではすっかり慣れてしまった。そのため、一人での仕事もお手の物となり手を借りる回数はかなり減っていた。
「えぇ、そうよ。ちょっと備品とかいろいろね。普段は届けてもらったりするんだけれど、月に一回だけ街に買い出しに行くの」
「そうなのですか」
「その買い出しに……セイディもついてきてもらおうかなって思って」
リオはそう言うと、セイディに対して軽くウインクをする。しかし、セイディからすればその誘いの真意が見えない。買い出しともなれば男手の方が助かるはずだ。リオの指示ならば、誰だって手伝ってくれるだろう。セイディである必要がない。
「ですが、私よりもほかの騎士様に手伝っていただいた方が、助かるのでは……?」
「まぁ、それもそうなのだけれど」
セイディの言葉を否定することもなく、リオは頬に手を当てると「この間のお詫びも、兼ねているのよ」なんて言ってくる。この間とは、大方アシェルと出掛けた日のことだろう。……セイディからすれば、特にお詫びなど必要ないのだが。
「いえ、別にお詫びは必要なくて……」
「そう言うわけにはいかないわ。ここではそう言う礼儀はきっちりとするのがルールだから。あと、セイディは午後から暇でしょう?」
「……それは、まぁ」
そんなことを言いながら、セイディは洗濯場を見据える。昨日掃除をすべて終わらせてしまったため、本日はあまりすることがない。掃除は二日に一回程度で構わないと言われているためだ。
「それに、ほら。私が荷物を持って、セイディがメモを持ってくれれば助かるから」
「……そういうこと、ならば」
ここまで熱心に言われたら、断るのも悪いかもしれない。そう思い、セイディはリオの誘いに乗ることにした。そのためには、まずは午前中で洗濯を全て済ませる必要がある。魔道具の方に洗濯ものは放り込んだため、あとは終わりのを待ち物干し場で乾かせばいい。取り入れるのは買い出しが終わってからでも問題ないだろう。
「……セイディは」
「どうかなさいました?」
「いえ、セイディは好きな人とかいないのかしらって思っちゃって」
「……はいぃ?」
何故、いきなりそう言う話に変わる。そう思いながら、セイディが目をぱちぱちと瞬かせていると、リオは「いえ、深い意味じゃないのよ」と意味深に続ける。
「ほら、騎士団って結構見た目麗しい優良物件ぞろいじゃない。身分もいい人が多いし」
「そうですね」
「けど、セイディは玉の輿や恋愛に興味がないのか、みんなと平等に接するじゃない」
「それが、仕事ですから」
セイディはここに婚活をしに来ているわけではない。出稼ぎに来ているだけである。そのため、恋愛などしている暇は……ない。この間のフレディの言葉は、脳裏に焼き付いてしまっているが。
「私はここに婚活をしに来たわけではありませんから。……私は、ここでいつも通り仕事をするだけです」
「……そうなのね。まぁ、それは嬉しいことよ」
「だったら、いいじゃないですか」
確かに、アシェルにプロデュース(?)されてからセイディは綺麗になった自信がある。だが、決してそれは良い男性を捕えるためのものではない。仕事に差し支えないようにしたに過ぎないのだ。
「それに、私はもう婚約も結婚もこりごりなので。一度婚約を破棄されたら、良いところに嫁ぐなんて無理ですからね。何度も言っていますが」
男性ならば、婚約を破棄されようが新しい婚約にこぎつけることは容易い。しかし、セイディは女性である。それに、そもそもセイディは自身を貰ってくれる物好きがいるとは思えないのだ。
「……私は、セイディのこと、好きよ?」
「ですが、それは『友情』が第一前提にあるのだと思います。私とリオさんは友人としていい関係が築けているとは思います。でも、それは恋愛感情にはつながりません」
「……そう、かもね」
セイディの言葉に納得してくれたのか、リオは「でも、セイディのこと好きなのは本当よ」とだけ告げて洗濯場を出て行く。どうやら、買い出しの準備をするようだ。
「この間から、変な感じよね」
そして、リオのそんな後姿を眺めながら、セイディはそんなことをぼやいた。変に意識してしまうのは、フレディの言葉があるからだろう。……なんて余計なことを言ってくれたんだ。そう思いながら、セイディは露骨にため息をつくのだった。