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セイディの帰る場所


「おかえり~、セイディ」

「俺、てっきりセイディって今日も仕事なのかと思ってた」

「本当にな。馴染みすぎだろ」

「……ただいま、戻りました」


 セイディとアシェルが寄宿舎に戻れば、丁度訓練が終わったところのようで。数人の騎士がセイディとアシェルを出迎えてくれる。……誰かが出迎えてくれるのは、少しだけ嬉しくなるな。そう思いながら、セイディは軽く頭を下げる。


「あ、あと、副団長。今度の合同訓練のことで団長が……」

「……あぁ、分かった。すぐに行く」


 そして、一人の騎士がアシェルに何かを耳打ちする。そうすれば、アシェルは「じゃあ、セイディ。悪いけれど、俺は団長と合流するから」と言って颯爽と立ち去ってしまう。……本日は、アシェルも休暇なのでは? そう思ってセイディがアシェルの後ろ姿を眺めていると、騎士の一人が「副団長にまともな休みなんてないに等しいから」なんて苦笑を浮かべながら教えてくれた。


「あ、そうだ。宮廷魔法使いがさ。セイディのことを訪ねてきたぞ。伝言で『待ってるから』って伝えてくれって……」

「あ、そうなのですね」


 その騎士は、さらにそんなことをセイディに教えてくれた。そのため、セイディは騎士たちにまた一礼をして、私室として与えられた部屋に戻っていく。宮廷魔法使いとは、フレディのことだろう。いいや、そもそもフレディがほかの宮廷魔法使いを追い出したというのだから、彼しかいない。


(フレディ様、一体どんなご用件なのかしら?)


 心の中でそう思うが、特別約束をした覚えはない。たまに道ですれ違う、もしくは休憩時間にお茶をするぐらいだ。その際にフレディが一々花を魔法で渡してくれるので、セイディの部屋に花が飾られない日はない。


「……確か、窓を開けるんだっけ」


 私室に戻り、セイディはゆっくりと窓を開ける。そうすれば……「おかえり」なんて言う声が、背後から聞こえてきた。それに驚きもせずにそちらに視線を向ければ、そこにはいつも通りのフレディが、いた。


「フレディ様。待ってるから、なんておっしゃっても……」


 セイディはそう言いながら、やたらと近いフレディの身体を押して遠のけようとする。しかし、フレディは見た目に寄らず体格がいいらしく、セイディの力ではびくともしない。それを憎たらしく思いながら、セイディは「何のご用件でしょうか?」とフレディの顔を見上げ、問いかけた。


「特に用事なんてないよ。単に、僕がセイディとお茶がしたいなって思ったからね」

「用事がないのならば、来ないでいただけると」

「……本当にさ、セイディって僕にだけ塩対応過ぎない?」


 フレディはそう言って、図々しくもセイディの私室のソファーに腰を下ろす。それを見て、「これは長居する気だ」と思い、セイディはため息をついて対面のソファーに腰を下ろした。


「いや、用事がないって言うのは嘘なんだけれどね。……セイディの実家って、オフラハティ子爵家、だよね?」

「……まぁ、そうですね」

「それで、従事していたのはヤーノルド神殿」

「そうです」


 何故、そんなことを問いかけてくるのだろうか。そう思い、セイディが軽く小首をかしげれば「……いやね、オフラハティ子爵夫人が、王宮乗り込んできたんだよ」と告げてきた。その言葉を聞いて、セイディはただ目を丸くすることしか出来ない。


「いえ、あの、子爵夫人ごときが、王宮に乗り込んでくるなんて……」

「そうだよね。門番に追い払われちゃったけれど……どこかの情報で、セイディが騎士団に世話になっていることを知っちゃったみたいで。……うん、一応キミの耳にも入れておいた方が良いかなって、思って」


 フレディはそれだけ言うと、テーブルに手をかざしてティーセットを用意する。そのティーセットでお茶を淹れ、セイディの目の前に差し出してくれる。そのお茶を見つめていると、水面にはどうしようもないほど情けない表情のセイディ自身が、映っていた。


「言い分とか、聞いていますか?」

「言い分ねぇ……。セイディに会わせろって言ってるみたい。自分たちで勘当しておいて、なんて自分勝手なんだろうね」


 少しだけ笑いながらそう言うフレディに、セイディは「……あの人たちは」とポツリと零していた。その後、しっかりとフレディの目を見つめる。そうすれば、フレディの綺麗な青色の瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。


「あの人たちは、私がプライドを捨てて泣きついてくることを、望んでいたみたいです。一度勘当すれば、自分たちの思い通りに動いてくれる。そう、思っていたのだと思います」

「そう」

「けど……その予想以上に、私が逞しかったということだと、思います」


 お茶に口をつけ、心を落ち着ける。そう、彼らは、セイディのことをどこまでも――見下し、蔑んでいる。


「……まぁ、僕としてはお茶飲み仲間がいなくなるのが寂しいから、セイディにはずっとここにいてほしいんだけれどね。……ねぇ、セイディ」

「……お茶飲み仲間になった覚えはないのですが、はい」

「――キミの帰る場所は、オフラハティ子爵家じゃない。キミの帰る場所は――この騎士団の寄宿舎。なんて言ったら、図々しかったり、するかな?」


 そう言ったフレディの表情は何処までも美しかった。

明日まで一話更新になります(´・ω・`)ごめんなさい、体調が戻らないんです。

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