表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/260

大好物のチーズケーキを


 それから約二時間後。ようやくアシェルが満足したころには、セイディはくたびれていた。そんな中、近くにあったカフェに入りそれぞれ紅茶とケーキを注文する。その後、セイディは柄にもなくテーブルに突っ伏してしまう。あまり、アシェルの前で弱いところなど見せたくないのだが。それでも、疲れてしまったものは仕方がない。


「セイディ、はしたない」

「分かっていますけれど……。疲れまして」

「体力ないね」


 そりゃあ、普段ハードな訓練を行っている騎士と違って、こっちはメイドだ。そう反論しようとしたのに、セイディの口からそんな言葉は出なかった。何故ならば……アシェルが、その手でセイディの頭をなでてくれたからだ。


「……アシェル、様?」


 アシェルの突然の行動に、セイディが瞳を瞬かせていると、アシェルは「気は紛れた?」とセイディに声をかけてくれた。その意味を、セイディは一瞬理解できなかったが……数秒後には理解できた。アシェルは、セイディの為を思って忙しなくさせていたのだと。


「私、そんなにもひどい表情をしていましたか?」

「結構ね。リオが一番に気が付いた。たまに、悲しそうな寂しそうな表情をしているって」


 そんな自覚、セイディにはほとんどなかった。実家にもジャレッドにも、未練などない。あえて言うのならば……たった一つだけ。今になって、大丈夫だろうかと思ってしまう人たちがいる。それは――ヤーノルド神殿にともに従事していた同僚たちのことだ。


「……私、神殿から追放紛いのことをされても、何も思いませんでした。婚約者を奪われても、何とも思いませんでした」

「そう」

「けど、今になって同僚たちのことが頭に浮かんだのだと思います。……いろいろと、思うことがありまして」


 セイディの同僚たちは力こそ中堅上位ぐらいだったが、優しい人間が多かった。まぁ、それはきっとセイディが彼女たちと歩み寄っていたからだろう。あの神殿の中で、最も力が強いのはセイディだった。それも、過去の話だが。


「……セイディが従事していたのって、ヤーノルド神殿でしょう?」

「そう、ですが」

「だったら、そこら辺にいる奴にいくつかの情報を手に入れるように指示を出しておいたから。また、いずれ分かるよ」

「……何故」


 何故、そこまでアシェルたちはセイディのことを気にかけてくれるのだろうか。やり方はちょっとどころかかなり強引だが、セイディのことを気にかけてくれていることは伝わってくる。それが、セイディには不思議で仕方がなかった。


「何故って……。騎士団は、真面目で実力のある人間を評価する場所だから。真面目で実力があるのに、それが報われないのは間違っている。だから……俺たちは、セイディの働きを認めている。それだけ」


 アシェルはそう言って、セイディの頭を軽く撫でてくれる。その手つきはとても優しく、どこか懐かしい感じがした。実家にいたころに、頭など撫でられた覚えがない。なのに、懐かしいと思ってしまう。それが、セイディにとって意味が分からなかった。


「さて、お茶とお菓子を食べたら、帰るよ。明日に響くから」

「……アシェル様って『お母さん』と呼ばれたりしませんか?」

「……よく言われるね。けど、その呼び方嫌だからやめてほしいっていつも言っている。男がお母さんなんて呼ばれて、喜ぶわけがない」

「まぁ、そうですね」


 そんな風に軽口をたたき合っていると、セイディたちの目の前に紅茶と注文したケーキが出てくる。セイディの元にはストレートの紅茶とチーズケーキ。アシェルの元にはミルクティーとイチゴのタルトが。それを見たセイディは、小さく「いただきます」とだけ言って、そのチーズケーキにフォークを入れ、口をつけた。


「……美味しい」


 そして、久々に食べたチーズケーキの味は……とても、美味だった。元より、セイディはチーズケーキが大好きだ。さらに、久々に食べたとなれば……その美味しさは天井知らず。気が付けば、もう一口もう一口と、アシェルが目の前にいることも気にせずに食べてしまっていた。


「……見た目が綺麗になっても、食い意地は変わってない、か」

「そうですか?」

「そうだよ。三日目にして騎士団の食事を完食したんだからさ」

「そう言えば、そうでしたね」


 そう言って、セイディが心の底からのふんわりとした笑みを浮かべれば……アシェルは、柄にもなく「妹みたい」なんてぼやいてしまった。そんなぼやきに自分自身で驚き、「はぁ」と誤魔化すようにアシェルはため息をついた。


「ため息をつくのはあまり良くないですよ」

「セイディの為を思って、ついているの」


 そう言ったアシェルは紅茶を飲みながら「……黙っていれば、綺麗なのに」と、本音を零してしまう。だが、それは幸いセイディの耳には届いていなかったようで。セイディは、美味しそうにチーズケーキを頬張っていた。その姿は小動物……特にリスを、連想させるような姿だった。

本日は作者の体調不良にて、一話のみの更新です。すみません。(o_ _)o))

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ