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これじゃあある意味着せ替え人形


「あの~、もうそろそろ、終わってくれませんか?」

「まだまだよ! セイディみたいな子を着せ替えするのが、私は大好きなんだから!」


 そう言って、ララはセイディに新しいワンピースを押し付け、「次はこれ!」と言っていた。そのワンピースは明るい桃色のものだが、フリルなどはついておらずどこか上品な印象を与える。そのワンピースを見つめながら、セイディは「……アシェル様も、退屈していらっしゃるかと……」とララに声をかけていた。


 試着室に入って一時間半。ララはセイディをすっかり気に入ってしまったらしく、次から次へと試着するワンピースや普段着を持ってくるのだ。挙句の果てにはドレスを持ってこようとしたので、そこはセイディが丁重にお断りしておいた。ドレスなど、着る機会はないのだ。


「アシェル様、勝手に店内を見て回っていらっしゃるから、退屈はしていらっしゃらないと思うわ。あの人、店にいらっしゃると結構買って帰られるから」

「……買うって、何を?」

「いろいろ。女性モノのアクセサリーとか、結構買っていらっしゃるわよ。てっきり、恋人に渡すものかと持っていたんだけれど……」


 ララはセイディに視線を向け「本当に違うの?」と疑い深い視線を向けてくる。なので、セイディは桃色のワンピースに袖を通しながら「違います!」と全否定していた。


 そもそも、アシェルとセイディでは住む世界が違う。アシェルは名門伯爵家の令息であり、騎士団の副団長。それに引き換え、セイディはただのメイドで今は庶民だ。元々聖女だったり子爵令嬢だったりするのだが、それは過去のものであり今は意味などなさない。


「アシェル様に、恋人っていらっしゃるのかしら……?」

「さぁ……。私も、分かりません。騎士団のメンバーは寄宿舎で共同生活をされていますが、そんな素振りは……」


 騎士たちの中で恋人がいる人は、頻繁に相手に手紙を出している。しかし、アシェルが手紙を出していることは滅多にない。あっても、家に現状報告をする時のみだと言っていた。……それに、アシェルに恋人がいるなどいろいろな意味で……想像、出来ない。


「そうよねぇ。騎士団のメンバーって、結構人気が高いのに独り身が多いのよ。ま、ハードなスケジュールらしいし、恋人を作っている暇もないのかもね。それに、お貴族様が多いし政略結婚もあるだろうし」

「……そう、ですね」


 政略結婚。それに、やはりセイディは思うことがある。レイラは、ジャレッドとうまくやっているだろうか。一瞬そう考えてしまったが、すぐにその考えは振り払った。レイラはレイラ、ジャレッドはジャレッド。自分は自分だ。


「さて、今回はこれぐらいにしておくとして……。また今度、来てね!」

「……えーっと」

「私、セイディのこと気に入っちゃった。ほら、お友達サービスで割引してあげるから!」


 そんな権力が、ララにはあるのだろうか? そう思ったセイディの気持ちを読んだのか、ララは「ここ、私の親戚の店なんだ」とにっこりと笑って教えてくれた。


「えーっと……それでは、また?」

「それでよし。じゃあ、二、三セットのコーディネート考えたし、アシェル様にも一つ見てもらおう」

「い、いえ、それは……」

「いいから、いいから!」


 アシェルに見てもらうなど、勘弁してほしい。セイディのそんな気持ちを他所に、ララはセイディの背を押し、試着室から押し出す。店の奥から店内に戻れば、そこではアシェルが何やら真剣にアクセサリーなどを吟味しているようだった。


「アシェル様!」


 そして、ララがそんなアシェルに容赦なく声をかける。そうすれば、アシェルの視線がセイディに注がれた。その視線の心地がとても悪く、セイディは露骨に視線を逸らしてしまう。


(っていうか、確かに買っていただくのだから、見せる必要はあるかもしれないけれど……!)


 それでも、後でお金は返すつもりなのだから、アシェルの意見など必要ないのではないだろうか? セイディはそう思い、無言のアシェルに恐る恐る視線を向けた。アシェルのその紫色の瞳はセイディを射抜いており、やはりとても居心地が悪い。


「……うん、まぁ、似合っているんじゃないのかな」


 それから数分後。アシェルはようやく口を開き、そんな褒め言葉をセイディにぶつけてくれた。それにセイディがほっと一安心したのもつかの間。アシェルは「じゃ、これ着せて帰るから」と言ってささっとお金を支払ってしまう。


「さて、次は美容室に行くよ。残りのセットは騎士団の寄宿舎に宅配しておいて。お前のセンスは結構買ってるから」

「承知いたしました! ありがとうございます!」


 ララの喜んだような声が、背後から聞こえてくる。それを聞いて、セイディが「アシェル様?」と声をかければ、アシェルはまぶしいばかりの笑みをセイディに向けてくれた。その後――。


「さ、まだまだ連れ回すよ。まだまだ磨かなくちゃ」


 と、ある意味死刑宣告にも近しい言葉を、セイディに投げかけてきたのだった。

セイディは磨けば光るんです(普段磨いていないだけであって)(`・ω・´)

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