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休憩中(2)

(きっとそれは王国でいう『光の収穫祭』なのでしょうね)


 もちろん、違う部分もある。けど、聖女が主役という点では一緒――のように思えた。


 セイディが巡礼について考えていると、オフェリアの大きなため息が聞こえた。セイディは現実に戻ってくる。


「あれではどこかで粗相をしてしまいます。……今まではどうしていたの?」


 オフェリアの視線を浴びたソフィーアは、背筋を正す。そして、わずかに迷って口を開いた。


「アリシアさまは表に出ることはありませんでした。クリスティーン神殿からは私たちだけで……」

「……話になりません」


 カップをソーサーに戻したオフェリアの瞳はどこまでも冷たかった。


 セイディは知っている。オフェリアが聖女としての職に人一倍誇りを持っているということを。


 だから、アリシアの不真面目なところが許せないのだろう。


「とにかく、一度しっかり話をしないといけませんね。彼女には聖女たる自覚を持っていただかないと」


 オフェリアの言葉に、三人の聖女たちはうなずく。


 公国にとって、聖女とは貴重で尊い存在だ。王国のようにたくさんいる存在ではない。


 セイディにオフェリアの言葉が響かないのは、そういう点も関係しているのだろう。


「アリシアさんはどうしてあんな態度なのでしょうか?」


 小首をかしげてセイディはつぶやいた。


「彼女は大切にされ、期待されていたはずです。なのに、どうして不真面目な態度をとるのでしょうか?」

「……根が不真面目なだけでは?」


 ソフィーアが言葉を返す。


 でも、セイディはそうは思えなかった。


「彼女にもなにかあるのでしょうね。……たとえば、クリスティーンさまの末裔だからこその葛藤とか」


 セイディは公国に来て、パトリシアの娘として歓迎されている。でも、ゆえに無言の圧力も感じているのだ。


 神官たちの態度や、オフェリアの言動。ソフィーアたちの純粋な思慕……すべてが、人によっては圧力になる。


「私、一度彼女としっかりお話がしたいと思います。……話したら、なにかわかるかも」


 アリシアが自分の気持ちをしっかり伝えてくれるとは限らない。けど、話してみる価値はあると思うのだ。


 その言葉にオフェリアは軽くうつむいて、顔をあげた。


「わかりました。セイディさんにアリシアさんと話す機会を設けようと思います」

「はい、お願いします」


 場のセッティングなどはオフェリアが適任だ。彼女の連絡のおかげで、指導がスムーズにいっている部分もある。


(アリシアさんの心にあるなにかが、わかったらいいのだけど……)


 カップの中の水面を見つめる。揺らめく水面に映るセイディ自身の表情は浮かないものだった。


「――オフェリア」


 ライネリオが突然声をあげた。彼の視線はオフェリアに注がれている。対するオフェリアはきょとんとしていた。


「最近ここらへんで変な力を感じる。……気を付けておけ」


 彼は立ち上がり部屋を出ていった。皿とカップはきれいに空になっており、すべて食したようだ。


「変な力とは、なんでしょうか?」

「……さっぱりです」


 ソフィーアの問いかけに、オフェリアは首を横に振った。


「ただ、彼が気を付けておけというのなら、気を付けたほうがいいのでしょう。あなたたちも気を付けておいて」

「はい」


 オフェリアの言葉に聖女たちは素直にうなずいた。


(変な力……か。魔力かなにかかしら?)


 でも、ここは神殿。警備はしっかりしているし、変な人間が入ってくることはできないはず――。


(思い過ごしならいい。ただ、内部の人間がなにかを持ち込んだ可能性は――ゼロじゃない)


 そうなると、一番に思い浮かぶのはアリシアだった。


 彼女なら変なこともやりかねない。そんな危うい雰囲気がある。


「そろそろ、休憩も終わりましょうか。セイディさん、大丈夫ですか?」

「え、はい。大丈夫です」


 オフェリアの声に現実に戻り、セイディはぎこちなく笑ってうなずいた。


(深く考えるとドツボにはまってしまいそう。今はとにかく、警戒する程度にとどめておきましょう)


 自分に言い聞かせて、セイディは片付けをするオフェリアを手伝う。


 彼女はいつもセイディが手伝うことを遠慮するが、たまにはこういうこともしたい。


 だって、自分の本業は聖女ではなく――メイドなのだから。

新刊配信開始まで、あと約1カ月になりました。

WEB版も書籍版も、どうぞよろしくお願いいたします。

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