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アシェルとの報告会

 セイディが公爵邸に戻ると、空はすっかりオレンジ色に染まっていた。


 あのあと神官たちに聖女の指導に当たりたいということを伝えると、彼らは顔を見合わせたものの了承してくれた。


 聖女たちにもやる気があり、オフェリアがサポートをする――となると、断る意味もなかったのだろう。


 公爵邸に戻り、クリストバルに言付けを頼んだ。彼は現在近くの街の視察に出向いているというので、返事があるのは早くても夕食後だろうか。


 そして、王国の面々にはセイディ自ら指導のことを報告することにした。


「――ということで、今後しばらくクリスティーン神殿に通おうと思います」


 淡々と報告すると、話を聞いていたアシェルが額を押さえた。


 明らかに疲れた様子に、セイディは申し訳なくなる。


「お前は本当に厄介ごとに首を突っ込むのが得意だな」


 大きなため息をついて、アシェルがガシガシと頭を掻く。


「俺としては公爵閣下の許可を得ることができたなら、好きにしたらいいと思う。公国に保護されている間、俺たちに行動を制限する権利はないからな」


 彼は腕を組み、椅子の背もたれに背を預ける。


 今いるのは客人用の食堂だ。長方形の巨大なテーブルをはさみ、アシェルとセイディは向かい合わせに座っていた。


「ただ、話を聞いているとそこの筆頭聖女は危うい存在だ。……気を付けておけ」

「承知しております」


 真剣な表情でうなずいた。


「公国での生活が不慣れなのに、さらに慣れないことを重ねると疲れも出やすいはずだ。……無理だけはするなよ」


 彼の気遣うような言葉に、セイディは頬を緩めた。首を縦に振ると、彼は天井からつるされたシャンデリアを見上げる。


「俺は必要以上に口出しするつもりはない。……団長とセイディが決めたことを尊重するだけだ」

「アシェルさま」

「だから、俺たちの意見はいちいち求めなくていい。報告はあったほうが助かるがな」

「……はい」


 最後の言葉はセイディが変に気を遣わないように付け足したのだろう。


 意見を求めなくていいと言われたままなら、セイディは彼らに報告をしなくなってしまう。時間の無駄かもしれない――と思ってしまうからだ。


「アシェルさまは、本日はなにをなさっていたのですか?」


 セイディの問いかけに、アシェルは表情を消した。


 もしかしたら、地雷を踏んだかもしれない――。


「今日は持ってきた仕事を済ませる予定だったんだ。公爵閣下と次に話すのは明後日の予定だ。その間の時間を有効活用しようとしていたんだ」


 彼の手がテーブルをバンっとたたく。


 大体察した。


「ま、またミリウスさまが?」

「そうだ。リオたちに街の見学は頼んでいたというのに、自分で行くと言い出して――窓から逃げ出した」


 アシェル自身も、まさかミリウスがここまでするとは思わなかったらしい。普段ならまだしも、ここは一応他国なのだから――と。


「結果、俺とジャックさまは捜しまわる羽目になった。一日これで丸つぶれだ」


 聞こえてきた大きなため息に、セイディは「聞かないほうがよかったかもしれない」と思う。


 でも、ミリウスの考えも少しくらいわかったかもしれない。


(もしかしたら、アシェルさまやジャックさまを無理にでも休ませるつもりだったんじゃないの? ミリウスさまがいないとお仕事が成り立たないというなら――)


 こうでもしないと、生真面目で仕事熱心な彼らは休まないだろう。


 もちろん、ミリウスがそこまで考えているのかは定かではない。


「けど、ゆっくりできてよかったじゃないですか? 王国にいたころのように働きづめにならないじゃないですか」

「……それはまぁ、そうだが」

「ミリウスさまもお二人をゆっくりさせるために逃亡したのかも――」


 一応フォローしておく。……ミリウス自身がこのフォローを台無しにしないことを願う。


「そんな考えもできるだろう。だが、だったら逃亡せずにさっさと済ませてほしい」

「それを言い出したらきりがないです」


 表情を引き締めてすぐに返事をすると、アシェルは「それもそうか」と声をあげる。


「団長の仕事嫌いにも困ったもんだ。……セイディがいないとなると、とっ捕まえておくことも難しいしな」

「私は役に立ちませんよ」


 苦笑を浮かべる。アシェルは首を横に振った。


「セイディは案外団長に気に入られていると思うぞ。――俺は、確信している」


 アシェルの言葉にセイディは目を見開いて――間抜けな声をあげてしまうのだった。

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