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お高めの服屋にて


 そんな活気に満ち溢れた王都を歩くこと、約十分。セイディが連れてこられたのは、平民が身に付けるには少々お高めの服が売ってある通りだった。その店たちのショーウィンドウに飾ってある服は、どこか気品に満ちており値段と合わさり、どちらかと言えば平民向けといよりも下位貴族向きのようだ。よくよく見れば、レイラが身に付けていたワンピースの類も売ってある。


(まぁ、オフラハティ子爵家は貧乏だったし、既製品ばかりだったものね)


 それでも、新品がもらえるだけマシだと思うのだが、レイラはそれさえ嫌がった。自分は聖女だ。高位貴族の様にデザイナーを邸に呼び、ワンピースやドレスを仕立てたい。そう癇癪を起こしていたものの、両親はお金がないということからそんなレイラを必死に宥めていた。……セイディは、それを冷たい目で見ていただけだ。


「行くよ、セイディ」

「あ、はい」


 過去に想いを馳せていると、アシェルが一つの店の前で立ち止まる。店の看板には「フリューゲル」と書かれており、その店名にセイディは覚えがあった。……そう、レイラが気に入っている店だ。


 その店に複雑な思いを抱えるセイディを他所に、アシェルは店の中に入っていく。アシェルにしっかりと手首を掴まれていることもあり、セイディは渋々ついていくことしか出来なかった。


(うわぁ、なんて言うか……王都の服屋ってこんな感じなのね……)


 そして、店内を見渡してセイディはそんな感想を抱いていた。店内にはところせましと服が並べられている。ワンピースなどの普段着から、下位貴族向きのドレスまで。さすがは王都の服屋と言うべきか。ヤーノルド伯爵領にあった服屋とはいろいろと違う。一番違うのは、デザインが最先端だということだろう。


「いらっしゃいませ……アシェル様、と、そちらは……?」


 セイディが店内を見渡していると、不意に一人の女性の店員がアシェルに声をかけてきた。二十代後半ぐらいに見えるその店員は、セイディを見てぱぁっと表情明るくする。……なんだか、とんでもない勘違いをされている気がする、とセイディは思っていた。


「アシェル様の……!」

「い、いえ、仕事仲間……と言いますか! 仕事関係の……!」


 絶対に、彼女とか婚約者とか思われた。そう判断し、セイディは顔の前で手をブンブンと振りその言葉を否定する。それを見たからだろうか、アシェルは「……そんなに否定しなくても」とぼやきため息をついていた。


「仕事仲間なのですか?」

「まぁ、そんなところ。騎士団の寄宿舎で雇ったメイド」

「あぁ、そうなのですね」


 店員はそう言った後、表情を一変させ「何をお求めでしょうか?」と商売人の表情になる。その表情はとても真剣であり、セイディは「……オンとオフの激しい人なのね」という感情を抱いていた。


「とりあえず、全身のコーディネートをしてあげて。この子、まともな服がないらしいから。全部で二、三セットのコーディネートを作ってくれたらいいから」

「え?」

「はい! 承知いたしました!」


 アシェルの言葉にセイディは戸惑うものの、店員はそんなセイディを気にもせず。「行きましょ~!」と言ってセイディの背を押す。それに戸惑いながら「話が違いませんか!?」とセイディはアシェルに視線を向けた。しかし、アシェルはそんなセイディを見てもどこ吹く風である。


「どれぐらい買うかなんて言っていないでしょう? 量を決めたのは今だし」

「詐欺です!」


 セイディの心の底からのそんな叫びも虚しく、店員に背を押され奥へと連れていかれる。このままだと、もみくちゃにされるのではないだろうか? そう思ったものの、セイディは思い切り抵抗することはしなかった。なんだかんだ言っても、こういう好意は素直に受け止めておいた方が良いと知っているからだ。……あと、純粋に後でお金を返せばいいかと思う気持ちもあった。


「貴女、お名前は?」

「……セイディ、です」

「そう、セイディね。私はフリューゲルの店員のララって言うの。これからよろしく」

「……よろしく、お願いします」


 いや、それではまるでこれから末永くこのお店にお世話になるみたいじゃないか。こんなお高めの服を売っているような場所、そうそう来ない。そうセイディは思うものの、店員――ララはセイディを試着室に連れ込むと、「待っててね」と言って試着室を出て行ってしまう。どうやら、服を持ってくるようだ。


(いや、お高めにも程があるでしょう……! はぁ、後で高くつきそう)


 アシェルは買ってくれると言っていたが、セイディには素直に甘えるという選択肢はない。それはきっと……今まで、誰にも甘えずに生きてきたからだろう。


(そう言えば、ヤーノルド神殿は大丈夫かしら?)


 そして、一瞬そう思ってしまった。まぁ、追放に近しいことをされた以上、もう関わることはないのだが。というか、頼まれても関わるつもりはない。なんといっても、セイディは――もう、ここで生きていきたいと思っているから。


「セイディ! 持ってきたわよ!」


 そんな風に想いを馳せていれば、ララがたくさんの服を試着室に持ってきた。その量に……セイディは、唖然としてしまった。

ブックマーク6000超えました(n*´ω`*n)誠にありがとうございます。まだまだアシェルのターンです(o_ _)o))

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