お茶会(3)
オフェリアに視線を向ける。同じタイミングで彼女も顔をあげた。なんだか面白くて二人で笑ってしまう。
「なんだか、面白いですね」
ついつい口にした言葉にオフェリアが驚愕の表情を見せる。
「妙にタイミングがあったりして。私たちって相性がいいのかもしれません」
「……そうかも」
彼女は同意した。
「話題を探すより、自分の気持ちの赴くままの会話を心がけたほうがいいのでしょうね」
お茶を一口飲んだオフェリアが、セイディに微笑みかけてくる。
「私は公国から出たことがないのです。王国とはどんなところでしょうか?」
小首をかしげたオフェリアの言葉に、セイディはちょっぴり迷って口を開く。
「いいところではありますよ。自然は豊かで平和だし――」
『平和』というところに、引っかかってしまった。
(今までは確かに平和だった。けど、今は平和と言えるのかしら?)
帝国に狙われている現状は、平和とは言えないはず。
セイディの表情が暗くなる。オフェリアはなにを思ったのか、こほんと咳ばらいをした。
「……この世は、理不尽なことばかりですよね」
オフェリアの態度は改まっていた。
彼女は目を伏せ、もう一度祈るように手を組んだ。
「私がどうこう言える問題ではありません。ただ、私は平和が一番だと思っております」
「オフェリアさん」
「私にできることは、ただ祈ることだけ」
祈りの仕草を見せるオフェリアに、悲壮感はなかった。
彼女は自らの役割に誇りを持っているのだ。祈ることも必要だと分かっているから。
「この祈りが通用するかはわかりません。でも、しないよりもしたほうがいいと思うのです」
セイディも同じ考えだ。指をくわえてみているだけなんて、絶対に嫌だ。
「帝国の皆さまがどんな考えを持っていらっしゃるのか。私には見当もつきません」
「はい」
「人それぞれの考えがあって、人それぞれの信念がある。正義だってある。違う思考の者がぶつかるのは当然のこと」
オフェリアの金の瞳がセイディに向いた。わずかな時間だったが、彼女の瞳に暗い影が差す。
「っと、こんなことを語っても仕方がありませんね。セイディさんならわかっているでしょうし」
「……いえ、改めて聞くと思うことがありましたから」
苦笑を浮かべる。オフェリアは大きくうなずいた。
「帝国の目的さえわかったなら、公国が協力することも可能でしょう。……王国のみなさまがいらっしゃったのは、協力を求めるためなのでしょう?」
隠しても無駄だろう。けど、自分が勝手に口を滑らせるわけにはいかない。
あいまいな笑みを浮かべると、オフェリアはセイディの考えを理解したようで、追及してこなかった。
「すべては公爵さまの判断です。私にできることはありませんが、お話を聞くことくらいはできますから」
「そのときは、お願いします」
軽く頭を下げる。オフェリアがうなずくと部屋の扉がノックされた。
オフェリアが返事をすると、現れたのは侍女服に身を包んだ一人の女性だ。彼女は目を伏せている。
「公爵閣下がお戻りになりました」
「わかりました。――というわけで、セイディさん。お茶会はお開きになりそうです」
ティーカップに残ったお茶をオフェリアが飲み干す。
対するセイディはクッキーを食べて、お茶も飲みほした。クッキーを残すなんて考えはセイディにはない。
「オフェリアさん。ありがとうございました」
立ち上がって礼をする。オフェリアは軽く瞬きをしたものの、口元を緩めた。
「こちらこそ、ありがとうございました。ですが、きっとまたすぐに会えると思いますわ」
「……そうですね」
「またお茶をしましょうね」
手を振ったオフェリアに向って、セイディも手を振り返す。
「あなた、セイディさんを公爵閣下の元に案内してあげて頂戴」
「かしこまりました、オフェリアさま」
指示を受けた侍女が視線をセイディに向ける。
「よろしくお願いしますね」
「はい」
侍女に続いて部屋を出ていく。
最後に室内を振り返ると、オフェリアは笑っていた。心なしかエルも見送ってくれているようだった。