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邸宅(1)

 食事を終え、クリストバルに指定された場所へと向かう。


 途中までリオとクリストファーに送ってもらった。断ろうとしたが、ここはリオが譲らなかったのだ。


『あなたが迷子になる確率を少しでも減らしたいのよ』


 そう言われてしまうと、受け入れることしかできなかった。


 そして、今。セイディの目の前には大きな邸が建っていた。


「ここ、よね」


 丸印がついているのは間違いなくここだ。


 しかし、門は固く閉ざされており、敷地は静まり返っている。人が住んでいるとは思えない雰囲気だった。


「けど、きちんと管理はされているみたい。庭は整えられているし……」


 人の気配はしないが、誰かがしっかり管理をしているようだ。


 二階建ての邸宅を見上げていると、音を立てて門が開いた。


「やぁ」

「……クリストバルさま」


 門の先には、この公国のトップであるクリストバルがいた。


 直々のお出迎えだった。


「ごめんね。今、この邸宅には僕しかいなくて」


 クリストバルは笑みを浮かべ、セイディに敷地に入るように言ってきた。


「あの」

「別に変なことをするつもりはないよ。安心して」


 そういう心配をしているわけではないのだが――。


「私のようなよそ者と二人きりなど、クリストバルさまは大丈夫なのでしょうか?」


 護衛も使用人もいないようだ。セイディがなにかすると彼は思わないのか。


「そっちの心配か。別に大丈夫だよ。僕は日ごろから結構自由に行動しているし」


 それはそれで大丈夫なのか。今度は別の不安が生まれた。


「まぁ入って。見せたいものがあるんだ」


 ここまで来たのだから、断るのも変な話だ。


「では、失礼いたします」

「いらっしゃい」


 彼に断りを述べて、敷地内に足を踏み入れる。


 一般的な貴族の邸宅に比べ、庭はこぢんまりとしていた。すぐに邸宅の玄関にたどり着き、クリストバルが扉を開ける。


「ここの所有者、今は僕なんだ。管理人のを派遣したりしているのも僕だよ」


 邸宅内に足を踏み入れる。一番に視界に入ったのは、大きな螺旋階段。


 周囲を見渡す。特段変わった部分はない。


(ここはクリストバルさまの別荘とか……?)


 しかし、先ほどの彼の口ぶりでは元々別の人間が所有していたもののよう。


 公爵ともあろう人間が、別の人間が所有していた邸宅を買い取るものだろうか?


(いえ、それは偏見に過ぎないわね)


 軽く頭を振って、考えを打ち消す。


「こっちだよ」


 彼はセイディの考えなど知りもしない。その証拠にセイディの行動を気にすることもなく、邸宅内を進んだ。


 セイディは慌てて彼を追う。彼が立ち止まったのは、螺旋階段のすぐ近くにある扉の前だった。


「僕がキミを呼び出したのは、キミと話がしたかったから」


 クリストバルがドアノブを回した。室内に入るように促され、セイディは部屋に入ってみる。


 変哲もない部屋だ。ソファーとテーブルが部屋の中央にあり、壁際はほとんど棚で埋まっている。


「……これって」


 棚と棚の間にあるモノに、セイディは目を奪われた。


 呆然と声をあげると、クリストバルがすぐ隣に立つ。


「キミにこれを見せたかった」


 唇が震えた。


「……これは、パトリシアの肖像画だよ」


 クリストバルの言葉にうなずいた。


 白い額縁に飾られたその肖像画は、セイディをくぎ付けにした。


 長い茶髪は緩く波打っている。真っ赤な瞳には強い意志が宿っている。顔立ちはセイディにそっくりだ。


 ただ、年齢は今のセイディよりは上だろう。


「パトリシアは元々ここに住んでいたんだ。と言っても、一時的にだけどね」


 なにも返せなかった。視線はじっと肖像画に向いている。


「彼女がいなくなったあと、公爵家はこの邸宅を買い取ったんだ」

「……どうして、買い取ったのですか?」

「保護のため」


 迷いない言葉だった。


「――なんて言っているけど、実際は僕のわがままだよ」


 クリストバルが室内のソファーに腰を下ろす。頬杖をついて、セイディを見つめた。


「僕は彼女にあこがれていたんだ」


 きれいな瞳が伏せられた。物悲しそうな雰囲気にセイディは息を呑む。


「はじめて会ったとき、僕は彼女の凛とした振る舞いに心を奪われた。僕は彼女に確かにあこがれていたんだ」

「……あこがれ」

「恋や愛なんて陳腐な言葉では表せなかった。僕の気持ちは一種の執着だった」


 淡々とクリストバルが語る。


 自然と耳を傾けてしまう。そんな話し方だった。


「彼女がいなくなったと知ったとき、僕は彼女の痕跡のあるものを集めたんだ。……ばかげているよね」

「クリストバルさま」

「こんなことをしたってパトリシアの姿をまた見ることなんてできないのに。僕にとって、彼女は救いだったんだ」


 一体なにが彼をここまで突き動かすのだろうか。


 セイディには彼ほどの強い執着を持ったことがない。そのせいで、気持ちがわからない。


「特別だった。あこがれていた。……なのに、僕は肝心なときに彼女の役には立てなかった」

もうちょっと計画的に更新したいんですが、予約を忘れるんです。一気にするのも面倒なんです(ダメ人間)

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