表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

233/262

国境沿いの街(2)

 そんなことを思ったものの、セイディの表情は明るい。


 気を許せる人たちと一緒にいることが出来るのは、やはり心が安らぐのだ。


「じゃあ、行きましょうか」


 リオがそう言ってゆっくりと歩きだすので、セイディも続いた。最後にクリストファーがちょこちょことついてくる。


(それにしても、とってもきれいな街ね)


 魔力で光るイルミネーションがそこら中にあしらわれている。それは雪と合わさって、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 色とりどりのイルミネーションと、真っ白な雪。それはここが北国であるということを、否応なしに思い知らされる。


(たった少し離れた立地というだけで、世界は様変わりするのね)


 そう思いつつ、セイディは辺りを見つめる。この街の名前は『オブリ』というらしい。先ほど地図を見た際に、書いてあったのはしっかりと記憶に焼き付いている。


「……セイディさん」


 ふと、後ろから声をかけられた。セイディがそちらに視線を向ければ、予想通りクリストファーがいる。


 彼はセイディのワンピースをちょんと掴んでいた。……あざとい。


「ちょっと、いいですか?」

「……えぇ」


 なにか、あったのだろうか?


 心の中でそう思いつつ、セイディはリオを呼び止める。彼はクリストファーの真剣な面持ちを見て、表情を引き締めていた。


「さっきから、猫の声がするんです」

「……猫?」

「はい。なんていうか、何かを呼んでいるような……?」


 多分、彼自身もよく分かっていないのだ。それを、セイディは察する。


「不安そうに、鳴いているような気がして……」


 彼が眉を下げて、そう言ってくる。


 だからこそ、セイディも耳を澄ませてみた。……感覚を過敏にして、そっと目を瞑る。


『にゃぁ』


 確かに、猫の泣き声が微かに聞こえてきた。


「……確かに、猫の鳴き声がしますね」


 目をゆっくりと開けて、同意する。


「そ、その、こんなこと言うのは何なんですけれど、猫のほう、行ってみませんか……?」


 クリストファーが控えめにそう告げる。だから、セイディとリオは顔を見合わせた。


「……リオ、さん」


 セイディがリオの名前を呼ぶ。すると、彼はあっけらかんと「いいわよ」と言ってくれた。


「まぁ、どうせ昼食を摂る時間はたっぷりあるわけだし。……多少、寄り道してもいいんじゃない?」


 彼がウィンクを飛ばして、そう言ってくる。その瞬間、クリストファーの表情がぱぁっと明るくなる。


「ありがとうございます」

「いいのよ。……じゃあ、案内できる?」

「はい!」


 リオの言葉に、クリストファーがこくんと首を縦に振る。それから、目を瞑っていた。大方、耳を澄ませて鳴き声の方向を探っているのだろう。


「……こっち、ですかね」


 そう言ったクリストファーが、歩き出す。セイディとリオは、静かにそれに続いた。


 クリストファーの案内で、街を歩く。そうすれば、少しずつ人通りは少なくなっていった。


(なんていうか、不気味ね)


 心の中でそう思いつつ、セイディが視線を上げた。そのとき――黒猫が、いた。


「にゃぁ」


 黒猫はまるで「ついて来い」とばかりに、セイディたちの前を駆けていく。


「……待って!」


 クリストファーが、走って黒猫を追いかける。セイディとリオも、一瞬だけ顔を見合わせて駆けだした。


(一体、どこまでっ……!)


 いくつもの通りを抜ける。薄暗い路地を抜けた先。


 そこにあったのは……開けた場所。


 雪が降り積もったそこには、ベンチと凍てついた噴水がある。幻想的な光景を醸し出すそこには、一人の女性がベンチに腰かけていた。


「……エル、ごめんなさいね」


 黒猫が女性の膝の上に飛び乗る。そのまま「にゃぁ」と鳴けば、女性が顔を上げた。


 ……美しい女性だった。綺麗な顔に、慈愛に満ちた表情を浮かべている。


(……聖女)


 セイディの中にある光の魔力が、共鳴したような気がした。なので、察する。……目の前の女性は、正真正銘の『聖女』なのだと。


「初めまして」


 彼女が鈴のなるようなきれいな声で、セイディに視線を向ける。かと思えば、リオ、クリストファーの順番で見つめた。


「たくさんの人を連れてきたのね、エル」

「にゃぁっ!」


 女性の声に反応するように、黒猫が鳴く。かと思えば、黒猫は女性の上で毛繕いを始めた。……マイペースなようだ。


「あなた、は……」


 セイディがそっと女性に声をかけた。瞬間、周囲に強い風が吹き抜ける。吹雪のような冷たい空気の中、セイディが次に目を開けると……彼女の側に、一人の男性がいた。


「……ったく、お前、無茶するな」


 男性が、女性にそう声をかけている。口調は乱暴なのに、何処となく優しい声音だと思った。


「よぉ、リア王国からのお客さん」


 片手を挙げた男性が、セイディを見据える。……彼の美しい目が、細められた。


「……あなたは、誰ですか?」


 セイディの口が自然とそんな言葉を呟いた。そのとき、女性が美しく微笑む。


「私はオフェリアと言います。……このヴェリテ公国の、聖女の一人です」

次回更新何ですけれど、多分水曜日か木曜日辺りになると思います。

お仕事が溜まっててんやわんやしているので……。


また、書籍版第4巻も発売中です! 各サイトさまではランクインしているようで、とても嬉しく思います(n*´ω`*n)


どうぞ、よろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ