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道なり(3)

(……いや、どうしろと?)


 セイディが心の中でそう思う。


 ちらりと視線を向ければ、ジャックは窓の外を見つめている。ミリウスは大きくあくびをしていた。


 そんな彼らから視線を逸らして、セイディも窓の外を見つめた。窓の外では、アシェルが辺境騎士団の騎士たちと話している。


 その姿が何だかとても眩しく見えるのは、気のせいじゃない。


(……ヴェリテ公国では)


 一体、どんなことが待っているのか。


 目を閉じて、そんなことを考える。


 公国のトップであるクリストバル・ルカ・ヴェリテ。彼はセイディに公国に来てほしいと言っていた。公国の大聖女であるパトリシアの血を引く、セイディに。


 でも、セイディはそれを断った。確かな身分と財を用意すると言われても、頷けなかった。


 それはきっと、まだまだリア王国でやりたいことがあったからなのだろう。それは、わかる。わかるけれど……自分のやりたいこととは、一体何なのだろうか。


(そんなのが、わからないなんてね……)


 よくよく考えれば、今までの自分は周囲に身を委ねすぎていた。


 今更ながらにそれに気が付いて、ふっと口元が緩む。もっと、自分の意思で動くべきだったのかもしれない。


 まぁ、後悔したところで役には立たないのだけれど。


 そう思っていれば、馬車にアシェルが戻ってくる。彼は御者に命じて、もう一度馬車を出す。


「一応公国への通行許可は下りた。……ここから先は、公国だ」


 アシェルが窓の外を見つめて、そう言う。だから、セイディはこくんと首を縦に振った。


「とりあえず、スケジュールの確認だが。とりあえず、俺たちはヴェリテのトップ、クリストバル・ルカ・ヴェリテ公爵と面会することになっている」


 ジャックが手帳を見つめながら、すらすらとそんな言葉を紡ぐ。


「陛下がわざわざ作ってくれた時間だ。……こちらとしても、無駄にすることは出来ない」


 生真面目なジャックらしい言葉ではないだろうか。


 心の中でセイディはそう思うものの、セイディの隣に腰掛けるミリウスは相変わらず大きなあくびをしていた。


 ……緊張感が足りない。


「団長、緊張感が足りない」

「……へいへい」


 どうやら、アシェルもセイディと同じことを思っていたらしい。彼はミリウスのことを睨みつけて、強い言葉でそうたしなめる。


 が、やはりというべきかミリウスにはどこ吹く風らしく。彼は頬杖をついて、窓の外を見つめるだけだった。


「ったく。……セイディは、実の母親について調べるんだっけか」


 ふと、アシェルの視線がセイディに向けられる。なので、セイディはこくんと首を縦に振った。


「そうか。……だが、基本的には俺たちの中の誰かと行動してもらう。……迷子になったら、困るからな」

「いや、迷子って……」


 と、反論しようとしたが、止めた。


 実際、セイディが一人で公国内をうろちょろしていれば、迷子になるのは確実だろう。なんといっても、方向音痴な部分もあるから。


「基本的には俺かリオと共に行動してもらう」

「……はい」


 ここは、大人しく納得しておこう。


 それに、アシェルやリオならば特に緊張せずに済みそうだ。


(リオさんは、別の馬車で着いてきているのよね)


 この馬車に乗っているのはセイディ、ミリウス、アシェル、ジャックである。


 そして、もう一台の馬車にリオ、クリストファー、フレディ。それから何故かリアムが乗り込んでいる。


 それから最後の便には各々の荷物が積み込まれていた。


「さて、後の詳しいことは、公爵邸についてから話す。……ほかの奴らにも、聞いてもらったほうがいいだろうからな」


 アシェルはそうして会話を締めくくった。


 その瞬間、馬車の中の空気が和らいだような気がした。やはり、アシェルが話すと空気がピリリとするのだろう。


「それにしても、寒いな」


 ふと、ミリウスがそんな言葉を口にする。


「……確かに、そうですね。北国、甘くみていました」


 セイディが同意して、こくんと首を縦に振る。そんな二人を見てか、ジャックが「……殿下たちはですねぇ」と声を上げたのがわかった。


「のんきでいいな。今から重大な会議があると、分かっているんですかね」

「知るか。……俺は思ったことを口に出しただけだ」

「……もうちょっと可愛げのある回答を、してくれませんかね」


 ジャックがそんなことを言ってミリウスを睨む。


「あ、そういえば、団長。陛下からしっかりと仕事ももらってきたから、それもするぞ」


 不意に、アシェルがそんな言葉を口にした。その瞬間、馬車の中の温度が二度ほど下がったような気が、した。


「確かに、俺もいくつか任務を貰って来た。……良かったですね、殿下。暇にはなりませんよ」

「……はぁ?」

「そうですね、ジャック様。……セイディも巻き込んで、しっかりと団長を捕まえておかなくては」


 ……いや、そこにセイディを巻き込む必要はあるのだろうか?


(いや、絶対にないわよね……)


 絶対に、自分はとばっちりだ。


 心の中でそう思いつつ、セイディは項垂れた。……ミリウスを捕まえておくというのは、それほどまでに重労働なのだ。

書籍第4巻は明後日発売予定です(o_ _)o))

また、もうすでに並んでいる書店さまもあるようです。

どうぞ、よろしくお願いいたします……!

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