一緒に出掛ける相手が、変わりました
「本当に、ほんっとうにごめんなさい!」
「……いえ、気にしていませんから」
翌日の朝。リオはセイディに心の底から謝っていた。理由など簡単である。リオが、共に出掛けることが出来なくなったからだ。
リオ曰く、昨夜実家から手紙が届き母が倒れたので、悪いが一旦帰ってきてほしいと連絡があったそうだ。そのため、本日のお出掛けは無理になったと。それにホッとしたような悲しいような、不思議感覚になりながらセイディは「いえ、本当に気にしていませんから」ということしか出来なかった。
(リオさんの態度から見て、ご家族はいい人みたいだし……。だったら、あんまり無理を言うのもね)
心の中でそう零しながら、セイディはにっこりと笑みを浮かべる。それを見たからだろうか、リオは「今度埋め合わせをするわね!」と言って朝から必死にまとめた荷物を持ち、食堂を出て行った。……相当、母のことが心配なようだ。そんなリオの後ろ姿を見つめていると、ふとセイディは実母のことが気になってしまう。セイディが物心つく前には他界していた母は、いったいどんな人物だったのだろうか。そう思ってしまったのだ。
「……今日一日退屈に戻っちゃったけれど……。いいや、一人で街にでも出向いてみよう」
迷子にならない保証は、ないのだけれど。そう思いながら、セイディが食堂のテーブルを拭いていると、ふと誰かが食堂に入ってくる。いつも通り、誰かが飲み物でも取りに来たのだろう。そう考え、そちらに視線を向けることもしなかったのだが……ふと「セイディ」と声をかけられる。
その声を聞いて、セイディがゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこには――アシェルが、いた。アシェルの服装もいつもの騎士団の制服ではなく、ラフな格好だ。どうやら、アシェルも本日は休暇のよう。
アシェルの服装はかなりラフなものだが、それでもその美しい容姿を存分に引き立てている。すらりとした体格を見ていると、自分よりも綺麗なのではないだろうか? とセイディは思ってしまった。
「はい、アシェル様」
だから、セイディはアシェルに視線を向けてそう返事をする。そうすれば、アシェルは「今日、暇なんでしょう?」と問いかけてきた。いいや、これは問いかけなどではない。暇だという確証を持って、そう言っている。
「まぁ、リオさんと出掛ける予定がなくなっちゃいましたから。暇と言えば暇ですね」
次のテーブルを拭きながらそう答えれば、アシェルは「……じゃあ、俺と出掛けようか」なんて意外過ぎる言葉をセイディに投げかけてきた。
「……えっと」
「いや、リオから頼まれてて。王都を案内してあげてってさ。まぁ、これから買い出しとかに行くこともあるだろうし、知っておいた方が良いと俺も思うから」
「……はぁ」
どうやら、リオは気をまわしてくれていたらしい。しかし、アシェルはリオよりもさらに美形である。そんな美形と並ぶ勇気を、セイディは持ち合わせていない。それに、そもそもやはり――服が、ない。
「えっと、お言葉なのですが、私まともな服がありませんでして……」
「それもリオから聞いている。とりあえず、服を売っている店も紹介するからさ。……いいね?」
美形の念押しは、とんでもなく迫力がある。そう思いながら、セイディはその勢いに押され、顔を引きつらせながら「……はい」と答えることしか出来なかった。セイディは逞しい。しかし……ちょっとだけ、アシェルは苦手かもしれない。なんといえばいいかは分からないのだが、それでも苦手意識を持ってしまったかもしれないのだ。
「それでいい。じゃ、午後から出掛けるから準備をしておいて」
「はい」
アシェルはそれだけを伝えに来たらしく、そのまま食堂を出て行こうとする。しかし、最後に振り返り――。
「ナチュラルに仕事をしているけれど、今日は休暇だからね。今回は見逃すけれど、今度からは容赦なく怒るから」
「……はい」
と、セイディに告げて出て行った。それを聞いたセイディは「……やっぱり、仕事をしちゃだめか」とだけぼやいた。ナチュラルに仕事をしていれば、気が付かれないかと思ったのに。その想像通りほかの騎士たちの何人かはセイディが仕事をしていても、いつものように「頑張れ~」「お疲れ~」と言ってくれるだけだった。だが、やはりアシェルは誤魔化せない。
(……って言うか、そもそもアシェル様が休みの管理をしているのよね。分からないわけがない、か)
心の中で最後にそうぼやき、セイディは午後からの外出に想いを馳せる。……どうなるかは分からないが、王都を案内してもらえるのは素直に嬉しい。そう、思っていた。
早速感想ありがとうございます(n*´ω`*n)ブックマークも5000超えました。過去最高で、作者が勝手にびっくりしています( ゜Д゜)
何かお礼をしたいのですが、現状あまり体調が優れず、何もできません。なので、少し体調が落ち着いたら何か考えたいと思っております。
引き続きよろしくお願いいたします!