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道なり(1)

お久しぶりです。

本日から『たくまし令嬢はへこたれない!』の第2部を始めます!


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

 カタカタと音を立てて走る馬車。しかし、さすがは普段王家が使用している馬車というべきか、座席はふかふかで全く苦ではない。


 ……何が苦なのかと問われれば、答えなど一つに決まっている。


(いや、どうしてこうなったの……?)


 身を縮こませながら、騎士団の寄宿舎でメイドとして働いているセイディは――今までのことを思い出す。





 元婚約者に婚約を破棄され、実家を勘当されたこと。その後、騎士団でメイドを募集しているということを知り、応募したこと。


 たくさんの出逢いやいざこざがありつつも、仕事を全うしてきたこと。


 中にはメイドの仕事ではないものもあったものの、今となってはそれもいい思い出だ。


 さらには、少し前には実家のオフラハティ子爵家のいざこざも解決した。


 そして、売地となっていた実家の敷地を見たとき……セイディは実家に仕えてくれていた古い使用人と再会。そこで、実母からの手紙を受け取り、リア王国の隣国であるヴェリテ公国行きを決めたのだ。


 そこまではよかった。メイドを辞めてでも、実母のことを知るために公国に行こう。


 そんな気持ちを騎士団長のミリウス・リアに告げると――彼はあろうことか、一緒に行くと言い出したのだ。


 何でも、近々公国で国際的な会議が開かれるそうだ。ミリウスはそこにリア王国の代表として、出席すると。


 もちろん、セイディはたかがメイドなので、そんなところに同席することはできない。が。


「どうせ世話係はいるしな。王宮のメイドや侍女を連れて行ってもいいが、お前のほうが気心知れてるし?」


 そんな言葉で、解決されてしまった。





 というわけで。公国に行く時期をミリウスたちと同じ時期に決め、こうして馬車に乗せてもらっている。


 もちろん、交通費が浮くという点では万々歳だ。ただ、純粋に喜べるかと問われれば、答えは否で……。


(というか、どうして私がミリウス様のお隣……?)


 普通、ミリウスの隣はジャックだろうに。そう思いつつ視線を上げれば、セイディの真正面に腰掛ける騎士団の副団長アシェル・フェアファクスと視線がばっちりと合う。


「どうした」

「い、いえ……」


 彼はなんてことない風にそう問いかけてくるが、セイディからすればいたたまれない。


 ……どうして、自分はこんな美形たちに囲まれているのか。


(隣を見ても、前を見ても、斜め前を見ても、美形、美形、美形。……目が潰れる)


 絶対にここで平凡な容姿をしているのはセイディだけだ。それに関しては、どれだけの金額をかけてもいいと思える。


「もしかして、酔ったか?」


 その可能性に気が付いたように、セイディから見て斜め前に腰掛ける魔法騎士団団長、ジャック・メルヴィルがそう声をかけてきた。


 そのため、セイディはぶんぶんと首を横に振った。


「あぁ、その可能性ありましたね。俺たちは長旅に慣れているとはいえ、セイディはそうでもないでしょうし……」

「だ、大丈夫です。これっぽっちも酔っていません!」


 なんだかセイディ一人のために休憩まで取りそうな状態なので、セイディは必死に否定する。


 まさか、自分一人のために休憩を取らせるわけにはいくまい。


「……あー、俺は、気分が悪いかも」


 セイディがそう思っていれば、隣に腰掛けるミリウスがそう声を上げる。しかし、目の前の二人はセイディに向けた言葉とは全く違う言葉をミリウスに投げつけていた。


「そう言ってサボるつもりですね?」

「大体、団長がそう簡単に酔うわけないだろ」


 ジャック、アシェルの順番でそう言って、ミリウスを睨みつける。


 対するミリウスはそっと視線を逸らしていた。どうやら、図星らしい。


「っていうか、移動時間もお前らと一緒とか、嫌なんだけれど……」


 ミリウスが項垂れながらそう声を上げる。その声には覇気がなく、完全に参っている。


 こんな彼は珍しい。そう、思う。


「だって、殿下ですから。殿下がここから飛び降りて逃走する可能性がありましたので」

「……さすがにそこまでしないけど。俺だって私情と公務は割り切ってるし」

「だけど、以前団長は……」

「あー、お前の話は長い。却下。マジで酔う」


 耳をふさぎながらそう言うミリウスに、セイディはくすっと声を上げて笑ってしまう。


(……まさか、まだこうやっているなんて)


 いろいろあって、メイドを辞めるという選択肢は確かにあった。


 でも、今、自分はこうやって大切な人たちの側にまだいることが出来る。


 ……それは、とても嬉しくて。幸福で。何よりも――この幸せを、守りたいと思った。


「……わぁ、雪!」


 ふと窓の外を見つめて、セイディがそう声を上げた。リア王国は冬が終わりつつあるが、北国であるヴェリテ公国はそうではない。まだまだ寒い時期だし、雪だってたくさん降っている。


「なんていうか、この時期にまだあるのって、新鮮ですね」


 ニコニコと笑いながら外の景色を見つめていると、不意にジャックが「はぁぁ」とため息をついたのがわかった。


 ……どうか、したのだろうか。

本日から20日までは毎日更新する予定です(タブンネ)間に合わなかったらごめんなさい。


書籍第4巻は20日に発売予定です! ……もうすでに並んでいる書店様もあるとか。


たくさんの方にお手に取っていただけますように。


では、また明日。

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