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VSレイラ(1)

 ぱちぱちと目を瞬かせるレイラは、セイディを見つけハッとする。


 彼女の手にはきらりと刃先が光る短剣が握られている。……大方アルヴィドを、始末するつもりだったのだろう。


 それを悟りつつ、セイディはレイラの方に一歩を踏み出した。


「……レイラ、久しぶりね」


 ゆっくりとそう声をかければ、彼女は頬を引きつらせた。その可愛らしい顔には色濃く焦りが映っている。それを見つめつつ、セイディはまたレイラの方に一歩を踏み出す。


「……お義姉様」


 レイラがセイディのことを呼ぶ。その言葉に対し、セイディはこくんと首を縦に振る。すると、レイラは短剣の切っ先をセイディに向けてきた。


「ど、どうして、お義姉様がここにいるのよ……! そ、そもそもここは何処……!?」


 焦ったような口調と、震えた手。


 彼女は大方強がっているだけなのだ。そう思い、セイディは「ふぅ」と息を吐く。視線だけで周囲を見渡せば、木の陰にミリウスが見えた。どうやら、彼はセイディとレイラの時間を邪魔するつもりはこれっぽっちもないらしい。ある意味、感謝だ。


「レイラ」

「な、なによ……!」


 彼女のぱっちりとした大きな目が、セイディを映す。彼女の目の奥はひどく揺れており、見方によってはセイディがレイラのことを虐めているようだ。……全く、さすがは庇護欲をそそる容姿をしているというべきか。


「ここが何処かは、この際省いておくわ。……レイラは、アーリス病院で何をしようとしていたの?」


 じっと彼女の目を見つめて、セイディはレイラにそう問う。そうすれば、レイラが露骨に視線を逸らした。


「それに、オフラハティ子爵家の借金も、どういうこと? お義母様に聞きそびれたから、レイラに聞くけれど」


 やれやれとばかりに肩をすくめ、レイラを見据える。レイラは一瞬だけそっと視線を逸らしたものの、すぐにセイディを見つめる。その視線は鋭いものであり、まるで凍てついた空気のように冷たい。


「……借金に関しては、教えてあげる。あのお金は全部私が使ったわ」


 レイラが淡々とそう答える。けれど、あの額のお金をたった一人で使えるのだろうか?


「本当のことを、言って頂戴」


 凛としてレイラのことを見つめ続ける。セイディのそんな真剣な態度が面白かったのか、レイラは笑った。唇の端を上げ、セイディに対しにんまりと笑う。


「いいえ、私が全部使ったの。……だって、私には夢があるのだもの。その夢のためのいわば投資よ」

「……夢?」


 セイディがぼんやりとレイラの言葉を繰り返せば、レイラはしっかりと首を縦に振った。その目が何処となく虚ろに見えるのは気のせいではなさそうだ。


「私はね、マギニス帝国の皇后になるのよ。……だって、お母様がおっしゃっていたもの。私はいずれはマギニス帝国の皇后になる存在だって」

「……そう」

「だから、私は自分を飾らなくちゃならないの。ドレスにしても、アクセサリーにしても、とっても高価なものが必要なのよ」


 うっとりとして、両手で自身の頬を押さえながらレイラはそう言う。その姿はまるで恋する乙女のようにも見えてしまった。


「私はこんなちっぽけな国で終わるような人間じゃないの。私は特別なの。だから、私はマギニス帝国で皇后の座に就くのよ」

「そのために、聖女の情報も流したの?」

「えぇ、そうよ。この王国を上手いこと侵略出来たら、私は立役者として皇后になれるもの」


 その場で大きく手を広げ、レイラがにっこりと笑う。そのうっとりとした表情とその仕草。それらは合わさると果てしない狂気を生んでいるようにも、見えてしまう。


「貴女は、この国に愛着はないの?」

「そんなものあるわけがないわ。だって、私、こんなちっぽけな国で終わりたくないもの」


 セイディの問いかけにまるで当然とばかりにレイラはそう答えた。つんと澄まし、斜め上を向きながら。その仕草はとても可愛らしい。けれど、言っていることはめちゃくちゃだ。


「……じゃあ、どうしてジャレッド様を私から奪ったの?」

「そんなもの簡単よ。お義姉様がいたら、私の計画は成功しないわ。だから、いなくなってもらうほかなかった。でも、追い出すにはそれっぽい理由が必要。……そのために、婚約破棄をさせたの」


 ころころと笑い、レイラはそう続けた。かと思えば、呆れたように視線を下に向ける。次々に変わる彼女の表情は愛嬌があるとでも言えるのだろうか。いや、この場合そんな風に言えるわけがない。


「だけど、まさかお義姉様がここまでタフだとは思わなかったわ。予定ではそこら辺で野垂れ死んでいるはずだったのに」

「……生憎ね」


 どうやら、マデリーネとレイラの計画は同じようで根本が違うらしかった。


 マデリーネはセイディを利用出来る限り、利用しようとしていた。が、レイラは邪魔だと思っていた。そのため、レイラはセイディを始末しようとしていた。……全く、二人してハチャメチャな計画を練るものだ。


(同じ目的ならば協力すればよかったのに)


 そう思ったが、この自分勝手な二人には無理な話なのだろう。そんなことを思い、セイディはもう一度レイラを見据える。


 ……呆れて開いた口がふさがらないとは、まさにこんな感じなのだろう。

次回更新は何もなければ火曜日になると思います(o_ _)o))


引き続きよろしくお願いいたします……!

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