VSマデリーネ(5)
「……どうして」
ジャックたちを見つめて、マデリーネが戸惑ったような声を上げた。
対するジャックは、ミリウスに視線を向ける。ミリウスは何処か他所を見つめていた。
だからこそ、セイディは理解する。ジャックや魔法騎士たちがここに来たのは、ミリウスの采配なのだと。
「まぁ、詳しい話は後だ。……連行しろ」
ジャックの言葉を合図に、魔法騎士たちがマデリーネを連行していく。
何ともあっけない結末だろうか。心の中でそう思いつつ、セイディはマデリーネの後ろ姿を見つめた。
そして、一つの疑問を思い出す。
「あ、あの、お義母様っ!」
慌ててマデリーネのことを呼べば、マデリーネが足を止めた。なので、セイディは彼女に聞こえる声量で言葉を叫ぶ。
「私の動向、どうやって知られましたか……?」
アシェルとヤーノルド伯爵領に行ったとき。マデリーネやレイラは見計らったように王都に引っ越していた。それすなわち、セイディの動きを理解していたということだ。アシェルもそう言っていたので、それは間違いないはずだ。
「……何のこと?」
セイディの言葉に、マデリーネはきょとんとしたような声音でそう返してくる。
その後、彼女はセイディの方に視線を向けた。その目は、本気でそう思っているらしい。
「あたしはあんたたちの行動なんて、知るわけがないわ」
「……ですが」
「そもそも、あたしがやったのは本当に一部のことだけ。……レイラに言われるがまま引っ越して、アルヴィド・オフラハティを退院させろと言ったのは間違いないけれどね」
それだけを言って、マデリーネは魔法騎士たちに連行されていった。
彼女のその言葉を聞いて、セイディはようやく真実を理解したような気がした。
(……お義母様のお言葉が正しいとすれば――)
黒幕は、マデリーネではないということになる。
「……セイディ」
隣に立っていたミリウスが、セイディの名前を呼ぶ。そのため、セイディは彼の緑色の目をまっすぐに見つめた。それから、ゆっくりと口を開く。
「……レイラの行き先を、当たってみます」
それだけを告げ、セイディは駆けだそうとした。が、すぐにミリウスに手首を掴まれてしまう。驚いてそちらに視線を向ければ、彼はにんまりと笑っていた。
「行き当たりばったりじゃ、間に合わないだろうな」
「じゃあ、どうしろと……」
「一つだけ、頼みの綱があるだろ?」
さも当然のようにミリウスがそう言う。……頼みの綱。その言葉を聞いた時、セイディはハッとする。
(フレディ様ならば……!)
宮廷魔法使いは暇なときは人探しなんかも請け負っていると言っていた。ならば、彼に頼るのも一つの案だろう。
(だけど、暇かどうかは)
しかし、彼が暇という保証はない。そう思いセイディが躊躇っていれば、ミリウスが颯爽と歩き出す。
「宮廷魔法使いに関しては、俺の権限で動かせる。……だから、安心しろ」
「……ですが」
そこまでミリウスに頼るわけにはいかないだろう。そう思ったものの、ミリウスはセイディに視線を向けてくる。彼の目には、強い意思が宿っていた。
「あと少しなんだ。……ここで取り逃がすわけには、いかないだろ?」
彼の言っていることは間違いない。もしも、ここでレイラをみすみす取り逃がしてしまえば、面倒なことになるのは目に見えている。
「セイディが異母妹と向き合う最後のチャンスかもしれない。……だったら、行くしかないだろ」
彼のその言葉は、まるでセイディに発破をかけるような雰囲気だった。
なので、セイディは息を呑んだ後、頷く。
(レイラのことを、止めなくちゃ)
レイラが何を企んでいるのかは、セイディにはよく分からない。かといって、みすみす取り逃がすわけにはいかないのだ。
そこまで考え、セイディはミリウスに続いて場を駆け出した。
(レイラとお義母様は、お互いを利用したつもりになっていた。きっと、そういうことだわ)
あの二人は互いを利用した気になっていて、利用し合っていた。それは間違いないはずだ。
マデリーネはレイラを用済みと判断し、またレイラもマデリーネを用済みと判断した。そう考えると、何となくつじつまが合うような気がした。
「……レイラ」
最低な異母妹だったと思う。異母姉の婚約者を奪い、威張り散らした聖女だった。けれど――結局は、たった一人の妹なのだ。彼女が道を踏み外す前に、止めるのが姉の役目なのではないだろうか?
(そうよ、それで――間違いない)
そう思いつつ、セイディはミリウスに続いて地面を蹴った。目指す先はただ一つ。
――王宮にある宮廷魔法使いの部屋。
そこだ。
次回更新は金曜日を予定しております(o_ _)o))
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