VSマデリーネ(4)
その鮮やかな動きに、セイディは見惚れてしまった。
だが、見惚れている暇などない。そう思い、セイディは慌ててマデリーネとミリウスの方に駆けよっていく。
「ちょ、あ、あんた、誰っ!」
マデリーネがそう声を荒げる。しかし、ミリウスの正体に気が付いたらしく、彼女の顔が見る見るうちに蒼くなっていく。
ちょっと、哀れかもしれない。
「……とりあえず、全部聞かせてもらった」
普段よりも数段低いミリウスの声が、セイディの耳に届く。一体、彼は何処から聞いていたのか。それは定かではないものの、もしかしたらその言葉通り最初から聞いていたのかも――。
(だったら、助けてくださったら……って、そうもいかないか)
きっと、ミリウスはセイディのことを思ってこうしてくれたのだ。
それがわかるからこそ、セイディは地面に押し付けられたマデリーネを見つめる。
その後、ミリウスにマデリーネを解放するようにとお願いした。
「……この女、何するかわかんないけれど?」
確かにミリウスのその言葉は正しい。でも、この状態でまともに話が出来るとは思えなかった。
「この状態だと、まともにお話が出来ませんから。……それに」
そこまで言って、セイディがマデリーネに視線を向ける。彼女の顔色は真っ青であり、挙句冷や汗を垂らしている。……本気で死ぬかもしれないという危機感を抱いた顔である。
「もう、お義母様は戦意喪失といった風ですから」
マデリーネの様子を見て、セイディはそう告げた。
すると、ミリウスも納得したらしくマデリーネを解放する。彼女はぶるぶると子犬のように震えていた。
「……こ、こんなことして、ただで済むとは……!」
けれど、何処までも抗う気らしい。それを悟りつつ、セイディは肩をすくめる。その諦めの悪さだけは、認めるべきかもしれない。なんて、上から目線が過ぎるかもしれないが。
「お義母様」
地面に這いつくばるマデリーネと視線を合わせて、セイディはゆっくりと口を開こうとする。自身のその手をぎゅっと握りしめると、彼女の身体が露骨に震えた。もしかしたら、先ほどぶたれたことを根に持っているのかもしれない。
「……私は、お義母様のことが大嫌いです」
静かに、セイディはそう告げた。
「嫌いで、嫌いで、憎たらしいです。……今までは、大嫌いとしか思っていませんでした」
「……」
「ですが、真実を知って、今度は憎たらしくなりました。……私やお父様の人生を踏みにじったこと、お祖母さまやお祖父さまの思いを裏切ったこと。……いろいろと、思うことはあります」
「……な、によ」
「貴女が解雇した使用人のことも、あります」
目を瞑って、今までのことを思い出す。マデリーネとセイディの思い出は、ろくなものがない。そもそも、思い出と呼べるものなのかも怪しいのだ。
そう思いつつ、セイディはマデリーネに視線を向けた。レイラにそっくりの顔が、恐怖からか歪んでいる。
「……だけど、もう一つだけ、聞きたいことがあります」
そこまでで言葉を一旦区切って、セイディはマデリーネを見つめる。彼女の目の奥は揺れている。
「――レイラは、貴女にとってただの道具でしたか?」
あんなにも可愛がっていたのに、利用できなくなれば容赦なく捨てようとしたマデリーネ。それだと、あまりにもレイラが可哀想じゃないか。
「……それ、は」
「お義母様は、レイラのことをとっても可愛がっていらっしゃいました。……用済みだからって、利用できないからって、切り捨てるなんてひどすぎませんか?」
セイディがそう言えば、マデリーネはぎゅっと唇を結んだ。もしかしたらだが、彼女にも母親としてレイラを想う気持ちがあるのかもしれない。いや、あってほしい。そうじゃないと、さすがにレイラが可哀想すぎるから。
「お義母様」
そっとマデリーネに優しく声をかける。
すると、マデリーネはバンっと地面をたたいた。
「うるさいわ。……そもそも、あの子さえ優秀だったら。あの子が優秀だったら……! 全部、全部上手くいったのに……!」
「お義母様」
「あの子が悪いの。あの子が優秀じゃないから。あたしの期待に応えてくれないから。……あんな子、あたしの子じゃない……!」
マデリーネの言葉はとても震えていた。まるで、その言葉は真実じゃないとでも言いたげだ。
それを悟りつつ、セイディは「ふぅ」と息を吐く。マデリーネは、結局なんだかんだ言いつつもレイラが可愛いのだ。
レイラが、マデリーネをどう思っているかは別として。
(一番面倒なのは、レイラっていうところかしら)
そう思いつつ、セイディはマデリーネのことを見つめる。そうしていれば、不意に周囲から数人の足音が聞こえてきた。そちらに視線を向ければ、そこにはジャックと数名の魔法騎士がいる。彼らはマデリーネに何やら紙を突きつけていた。
「マデリーネ・オフラハティ。お前にはいろいろな重罪の容疑がかかっている。……少し、同行してもらう」
魔法騎士たちを代表したように、ジャックがそう言う。
どうして、彼らがここにいるのか。それは定かではないものの――彼らが何となく、疲れ果てているように見えるのは気のせいではないだろう。
次回更新は火曜日を予定しております(o_ _)o))
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(こそっとお知らせしますと、本日新連載を始めております。『関係の改善は、望みませんので、』というお話です。こちらもよろしければよろしくお願いいたします……!)