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VSマデリーネ(1)

 それから三日が経った頃。


 セイディが騎士団の寄宿舎の玄関を掃除していると、何となく嫌な空気を感じた。


(……何かが、来る)


 直感がそう告げてくる。そのため、セイディは玄関を出て行った。


 この空気を、セイディはよく知っている。アーネストやジョシュアが醸し出す空気と、似ているのだ。


 そして、何よりも。……この間の、マデリーネからの手紙。あれを考えるに――。


 そんな風に考えつつ、セイディは騎士団と魔法騎士団の寄宿舎の前にある広場へと向かった。


 広場の中央には、一人の女性がたたずんでいる。関係者以外立ち入り禁止の区域ではあるものの、彼女はまるでそこにいるのが当然とばかりに堂々とたたずんでいた。


 彼女はセイディに気が付き、わざとらしく口角を上げる。その目をゆっくりと細めながら、セイディを見据える。


「久しぶりね」


 彼女――マデリーネ・オフラハティはセイディのことを見つめて、そう声をかけてきた。


 だからこそ、セイディはぐっと息を呑む。持ってきてしまった箒を持つ手が、何故か震えた。


「……お義母様」


 マデリーネのことを、呼ぶ。すると、彼女は「ふぅ」と息を吐いて手に持っていた扇を音を立てて閉じた。


「セイディ」


 マデリーネがセイディの名前を呼ぶ。その声は不思議なほどに甘ったるく、背筋がゾクゾクと震えてしまう。


 ……マデリーネはセイディのことを名前で呼ぶことは滅多になかった。しかも、こんな風に甘ったるく呼ぶことなんて――。


「……なんの、つもりですか」


 身構えて、箒をマデリーネに向ける。そうすれば、マデリーネはころころと笑った。その視線は斜め下に向けられており、何処となく憂いを帯びているようだ。


「……セイディは、わたくしの……いいえ、あたしの真の目的を、知ってしまったのよね」


 ゆるゆると首を横に振りながら、マデリーネがそう言う。


 彼女の目が、セイディのことを射貫く。鋭い目つきだ。けれど、これくらいで怯むセイディではない。


「……帝国の魔法使いであることは、真実なのですね」


 静かな声でそう問いかける。


 その言葉を聞いたマデリーネは、こくんと首を縦に振った。


 その後、顔を上げる。……その目には、恐ろしいほどの狂気が宿っているようにも見えてしまう。……でも、立ち向かわなくては。それだけは、分かる。


「えぇ、あたしは帝国の魔法使いマデリーネ。貴女は理解しているでしょうから全部吐いてあげるわ」


 やれやれとばかりに肩をすくめながら、マデリーネはセイディに語りだす。


 自分が帝国に情報を流していたこと。アルヴィドのことを操っていたこと。そして、レイラを利用し聖女の情報も手に入れていたということ。


「……どうして、そんなことをするのですか」


 ゆっくりとそう尋ねる。マデリーネに出逢わなければ、アルヴィドだって幸せに生きていられただろう。セイディだって、辛い目に遭わずに済んだはずだ。


「どうして? そんなの、簡単よ」


 マデリーネが胸を張る。セイディを見下すような姿勢になったかと思えば、彼女は艶っぽい唇から言葉を発した。


「――あたしは、自分の娘を皇后にする。その目的だけで、何十年も頑張ってきたのよ」


 自分の娘。この場合、その言葉が示すのは――。


「レイラ、ですか」


 まっすぐに彼女のことを見つめて、そう告げる。すると、マデリーネは頷いた。


 彼女のその様子を見て、セイディの口からは静かに「最低……」という言葉が零れていた。


 そんな自分勝手な欲望のために、セイディとアルヴィドの人生は踏みにじられて来たのか。


 怒りが身体中に浸透し、何とも言えない感情がふつふつと湧き上がってくる。


 だからこそ、セイディはゆっくりとマデリーネの方に近づいた。


「どうして、どうして、お父様だったのですか?」


 一歩を踏み出しながら、セイディはそう問う。


 マデリーネの目的からするに、誰でもよかったとも取れる。が、話を聞くにマデリーネはアルヴィドに狙いを示して近づいてきている。……誰でもよかったとは、到底思えない。


 セイディの迫力をも見ても、マデリーネは怯まない。口角を上げ、セイディのことを見下ろしてくる。


「そりゃあ、簡単よ。あの男が、ヴェリテ公国の聖女パトリシアと懇意にしていたからよ」


 その言葉に、セイディは目を見開いてしまった。……彼女は一体、何を言っているのだろうか?


「お母様……」

「あら、どうやらセイディは自分の母親の正体に気が付いたのね」


 ころころと笑いながら、マデリーネがそう言ってくる。


「聖女パトリシアは、帝国にとっても脅威になる存在だった。……だから、始末する必要があったのよ」

「そう、ですか」

「でも、最悪なことに娘が生まれてしまった。しかも、その娘は聖女パトリシアの力を受け継いでいた」


 やれやれとばかりに、マデリーネは肩をすくめた。美しく妖艶なマデリーネが、悪魔にしか見えないのはきっと気のせいではない。


「一つだけ、聞いてもよろしいでしょうか?」


 また一歩、一歩を踏み出しつつ、セイディはマデリーネを見つめる。


 彼女の返答を待たずに、セイディは口を開いた。


「どうして、私のことを始末しなかったのですか?」

この作品ではお久しぶりです……震え声。

約1ヶ月ぶりになってしまいました。すみません汗


あと、この間に何故か新連載を始めております。

『あなたのための私は、もう居ない。』というものですので、どうぞよろしくお願いいたします。


また、休載している間にコミックスの第1巻の予約も開始しました。こちらもどうぞよろしくお願いいたします……!

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