マデリーネの正体(5)
セイディがそんなことを考えていれば、不意にジャックが咳ばらいをする。どうやら、話を変えるらしい。
「ま、まぁ、とにかく。……ちょうどいいからついでにお前にも説明しておく」
ジャックがセイディを見つめて、そう声を上げる。なので、セイディは頷いた。
「このピアスの台座に付いていたという宝石だが……あれは、魔法石で間違いなさそうだ」
彼がピアスの台座を手に取り、まっすぐに……いや、ほんの少し視線を逸らしながらセイディを見つめてくる。
何となく、彼が挙動不審に見えてしまう。が、今はそんなことどうでもいい。
「微かに魔力が台座に移っている。あと、この台座からわかることだが……。まぁ、これの生産地は帝国だろうな」
「……つまり」
「これは帝国で帝国の民に向けて売られているものだと考えて、妥当だろう」
ジャックは大きく頷いてそう告げた。……台座からも、生産地がわかるのか。そう思ったが、もしかしたら台座にも微かに魔法石が使われているのかもしれない。魔法石はとても美しい宝石のような容貌をしているのだ。台座にあしらわれても、おかしくはない。
(帝国の民に向けて売られているということは……やっぱり、お義母様は……)
あのメモのことなども考えるに、マデリーネは帝国の人間なのだ。操られている可能性も考慮する必要はありそうだが、大方彼女が黒と決めつけて間違いないはず。
「……それだけか?」
ミリウスがジャックに視線を向けてそう問いかける。そうすれば、ジャックは「あぁ、そうですね」と淡々と言葉を返した。
それを聞いたからなのか、ミリウスが椅子に腰かけると退屈そうにあくびをする。
「面白くないな。……もっとわかるかと思ったのに」
「殿下が魔法石を持ち帰っていれば、あと少しはわかったでしょうね」
「……うわぁ、俺の所為か」
ジャックとミリウスの言い合いを聞きつつも、セイディは必死に考えを張り巡らせる。
(まず、どうしてお義母様は私に『覚悟しておきなさい』なんて手紙を送ってこられたの?)
もしも、彼女がセイディと接触しようとしているのならば――その理由がいまいちよく分からない。
(それに、お父様を一刻も早く退院させたいのは……どうして?)
大方土地とか屋敷の権利が欲しいのだと思っていた。でも、もしかしたら――アルヴィドを始末したいのでは?
その可能性にたどり着き、セイディは顔から血の気が引くような感覚に襲われた。
アーリス病院は警護がしっかりとした病院である。あの場で始末することは難しい。そもそも、魔法に関する病院である。あそこで行動に移すのはリスクが高すぎる。
(……本当に、もう何が何だか)
しかし、そう思ってしまう。頭の中が混乱して、上手に答えを導きだせない。これは、どうしようか。
「あぁ、そう言えば。セイディたちは一体どうしてこっちに来たんだ? 急用か?」
そう思っていれば、不意にミリウスが声をかけてくる。それにハッとして、セイディは口を開いた。
「実は、お義母様からのお手紙らしきものが、届いて……」
セイディはマデリーネからのものらしきメモについて話す。そうすれば、ミリウスの眉間にしわが寄った。……こんな真面目な表情の彼は、レアかもしれない。
「覚悟しておけ、か」
「……殿下?」
ミリウスの表情に、ジャックが声を上げた。彼は怪訝そうにミリウスを見つめている。
「まぁ、無視しておくに越したことはない。……とりあえず、報告だけはありがたく受け取っておく」
彼はそう言うと、立ち上がり魔法騎士団の本部を出て行ってしまった。残されたのは、セイディとジャック。それからアシェル。
「……おい、お前」
ぼんやりとミリウスの後ろ姿を見つめていれば、ジャックに声をかけられた。それに驚きつつ彼に視線を向ければ、彼は「はぁ」と露骨にため息をついた。
「こんなことを言ったらなんだが、お前は本当にトラブルを引き寄せるな」
それは、今言う必要があることなのだろうか?
一瞬そう思ったが、実際ジャックの言葉は真実なので何も言えない。
「……まぁ、そうですね」
肩をすくめて、そう言葉を返した。
「なんというか、お前の周りにトラブルが呼び寄せられているようにも感じてしまうな」
「私も、そう思っています」
ジャックの言葉には同意するほかない。セイディの周りで起こる不可解な出来事の数々。それは――まるで、セイディを狙っているかのようにも、感じられてしまう。
「……まさか、ね」
けれど、そんなことは考えたくない。そう思い、そっと視線を逸らした。
しばらくお休みをいただいておりましたが、続きを掲載していきます(o_ _)o))
引き続きよろしくお願いいたします……!