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マデリーネの正体(4)

 アシェルの後に続いて、王宮への道のりを歩く。王宮に入れば、時間が時間なので王宮の中は閑散としていた。


 セイディの前を歩くアシェルは何のためらいもなく歩いていく。そんな彼の背中をぼうっと見つめながら歩いていると、不意に目の前から見知った顔の人物が歩いてきた。彼はセイディの顔を見て、ぱぁっと表情を明るくする。まるで、大型犬のようだ。


「セイディ!」


 彼はアシェルを無視して、セイディの方に駆けてくると――その手をぎゅっと握ってくる。最近はあまり彼と会っていない。が、その馴れ馴れしさは何も変わっていなかった。いや、むしろ悪化している。


「……リアム様」


 セイディは彼の名前を呼ぶ。そうすれば、彼はにっこりと笑った。


 リアム・ラミレス。彼は魔法騎士団に所属する魔法騎士の一人だ。生まれは伯爵家であり、女性にだらしないというのがセイディの初期の印象だった。


 だが、そんな彼は最近真面目になりつつある……らしい。まぁ、それはジャックから聞いた話なので、真実なのかはわからないが。


「いやぁ、偶然だね。……何? 何処かに行くの?」


 ニコニコと笑みを浮かべて、彼はそう言う。そのため、セイディは頬を引きつらせる。視線を前に向ければ、アシェルがこちらを向いていた。……彼を待たせるのは、忍びない。


「えぇっと、私、ちょっとミリウス様に用事がありまして……」


 出来る限り彼を傷つけないようにと、断りの文句を考える。すると、彼は一瞬きょとんとしたものの「あぁ」と言って声を上げていた。……あ、何となく嫌な予感がする。


「そういえば、団長と一緒にいたね。一緒に行こうか?」


 やっぱり、嫌な予感が当たってしまった。


 そもそも、セイディの目の前にはアシェルがいる。何処からどう見ても彼が案内役だろうに。


「え、えぇっと……アシェル様が、いらっしゃるので」


 こういうタイプははっきりと拒絶しないと変に勘違いをして、付きまとってくる。それを知っているからこそセイディがはっきりと断れば、彼は肩をすくめていた。


「ちぇっ~。まぁ、いいや。じゃあね、セイディ」

「……え、はい」


 しかし、こうも簡単に引くとは思わなかった。その所為でセイディがきょとんとしていれば、リアムは何を思ったのだろうか。セイディの耳元に唇を寄せてくる。


「――俺の情報が必要だったら、いつでも力になるよ」


 その後、彼はそれだけを囁いてひらひらと手のひらを振って場を立ち去った。


 だからなのだろうか。……セイディの心臓が、変な音を立てている。


(リアム様の情報網は、確かなものよ。……だから、力になってくださるのはありがたいはずなのに)


 何なのだろうか。この不気味な感覚は。


 そこまで考えたものの、すぐにハッとしてアシェルの方に駆け足で近づく。彼はセイディのことを心配そうに見つめていた。


「……申し訳ございません」

「いや、別にいいぞ。……別に、そこまで急いでいるわけでもないしな」


 それだけを言って、彼はまた前に進み始めた。それに、セイディは続くことしか出来ない。


 アシェルはそのまま歩き、とある一つの扉の前で立ち止まった。そこは騎士団の本部ではない。かかってるプレートからするに……魔法騎士団の本部である。


「団長、入るぞ」


 扉をノックして、アシェルがそう声をかける。そうすれば、中から「いいぞ」というのんきな声が返ってきた。この声は、間違いなくミリウスである。……だが、この場合許可を取るべきはミリウスではなくジャックなのではないだろうか?


(って、そんなこと気にしていても無駄よね……)


 そう思いなおし、セイディはアシェルの後に続いて魔法騎士団の本部に入る。魔法騎士団の本部は、騎士団の本部とは違いきれいに整頓されている。セイディも何度か来ているが、いつもこんな感じである。団長の性格が顕著に表れているようで、面白い。


「……殿下、これはどういうことですか?」


 セイディとアシェルが中に入ると、ジャックが怪訝そうな視線でこちらを見つめてくる。今日の彼は眼鏡姿であり、いつもと違う雰囲気だ。


「いや、俺も知らないってば。……つーか、何でもかんでも俺に結び付けるの、やめてくれるか?」

「一つだけ言っておきますと、それは殿下の日頃の行いが悪いんですよ」


 ジャックの遠慮のない言葉に、ミリウスが唇を尖らせる。それを見たジャックは「可愛くない」と言ってミリウスの頭をファイルでたたいた。


「……じゃあ、誰だったら可愛いんだ?」


 ちらりとミリウスの視線がセイディに注がれる。彼の視線の意味が分からずにセイディがきょとんとしていれば、ジャックは露骨にむせた。


「ちょ、大丈夫ですか……?」


 慌ててセイディが彼の方に駆けよれば、彼は「げほっ」と余計にむせた。……セイディの所為ではない、決して。


「え、えぇっと……」

「い、いや、大丈夫だ。……こっちの、都合だ」


 こっちの都合もそっちの都合もないだろう。


 心の中でそう思うが、セイディは決して突っ込まない。こういう場で突っ込んだら負けなのだ。

書籍は第3巻まで発売しております(第3巻は新刊になります)ので、どうぞよろしくお願いいたします……!(また、第4巻の制作も決定しております)


引き続きどうぞよろしくお願いいたします……!(次回更新は火曜日を予定しております)

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