マデリーネの正体(2)
「とりあえず、これは鑑定の方に回しておく」
ミリウスがそう言って手を差し出してくるので、セイディはその手のひらの上にマデリーネのものだというピアスを置く。
青色の宝石だった部分はどす黒くなっており、それほどまでに強力な魔法石ということなのだろう。
(……お義母様は、一体どこで魔法石を手に入れられたの?)
魔法石はマギニス帝国でしか採掘できない逸品だ。輸出もせず、観光客にも販売しない。帝国の人間しか手に入らない物である。
そう考えれば、可能性として思い浮かぶのはマデリーネも操られていた。もしくは――マデリーネが『帝国の人間』であるということ。
(お父様は、お義母様は帝国に近い街に住んでいたとおっしゃっていたわ……)
もしも――いや、これは考えない方向で行こう。
そう思い、セイディはミリウスと共にアーリス病院を出て行く。そのまま馬車に乗り込み、騎士団の寄宿舎へと戻っていく。
「……ったく、面倒な代物だな」
馬車の中で、ミリウスがそう零す。彼の手には魔法石のはめ込まれたピアスがある。それを指で弄びながら、彼は魔法石を眺めていた。
……鑑定に回すのならば、そんな風に遊んでいてはいけないのでは?
そう思ったが、彼にそんなことを言っても無駄である。そもそも、彼だってそれくらいは重々承知の上のはずだ。つまり、分かっていて遊んでいる。……尚更、質が悪い。
「ミリウス様。……あまり、そうやって遊ばれるのは――」
一応セイディが注意しようとしたときだった。ピアスにはめ込まれた宝石部分が――いきなり割れた。パリンと音を立てて木っ端みじんになり、それらは馬車の床に散らばっていく。
「……俺じゃないぞ?」
ミリウスがそう言葉を告げてくる。それくらい、セイディだって知っている。魔法石は今『勝手に』割れたのだ。
「何らかの魔法が、かかっていたのでしょうか?」
床に散らばった魔法石の欠片は、まるで空気となるかのように蒸発していく。これは、証拠を残さないためだろう。
「そうだな。多分、そういうことだ」
自身の手の中に残ったピアスの部分を見つめながら、ミリウスがそう零す。魔法石がはめ込まれていた部分は空洞になっており、不自然すぎる。
ミリウスの手の中に残ったその部分をぼうっとセイディが見つめていれば、彼はそのピアスの台座部分を大切そうにポケットの中にしまい込んだ。
「ミリウス様?」
「一応、これは鑑定に回しておく。……だが、しくったな」
彼が頭を掻きながらそんな言葉を零す。一体、何をしくったというのだろうか。
「……一応、解除魔法を使っておくべきだったかな。……そうすれば、あのままだったかも」
「あ」
確かに、それはそうかもしれない。セイディには魔法を解除する魔法が使えないため、そんなもの鼻から頭になかった。が、ミリウスがそう言うということは、彼は使えるということなのだろう。
「ジャックにバレたらうるさいな……。黙っておくか」
「いずれ、バレると思いますよ」
「そりゃそうか」
けらけらと彼は笑う。けれど、絶対にこれは笑いごとではない。
セイディはそう思いつつ、蒸発し空気になっていく魔法石の欠片を見つめていた。……手に取ってみようか。そう思い手を伸ばそうとしたが――その手を、ミリウスに掴まれてしまった。
「やめておけ」
彼は至極真面目な表情でそう言ってくる。
「……ですが」
「人を操る魔法がかかっていた魔法石だぞ? 絶対にろくなことにはならない」
確かに彼の言うことは当然だ。もしも、それがセイディの体内に入ってしまえば――ろくなことにはならない。
でも……。セイディがそう思っていれば、魔法石の欠片は一つ残らず消えてしまった。……本当に、惜しいことをした。
「まぁ、台座からでも何かわかるだろ。……ジャックみたいな優秀な魔法騎士は、なんとでもする」
「……人任せですね」
「そうそう。……それに……いや、何でもないな」
にんまりと笑いながら、ミリウスがそう言った。……彼は、一体何を伝えようとしていたのだろうか。
心の中でそう思うものの、それをセイディが知る術はない。追及する元気も、なかった。
(なんとか、お義母様の正体を知らなくては……!)
今は、とにかくマデリーネのことだ。彼女のことを何とかしない限り――いい未来は、セイディの元には訪れない。
彼女がアルヴィドを操っていた犯人なのか。はたまた――彼女も操られていたのか。
そこは定かではないが、彼女と向き合わなければならないときは、刻一刻と迫っていた。それだけは、セイディにもよく分かってしまった。
明日で連続更新は終わりです(o_ _)o))
また、書籍の第3巻は明日発売になります。一応5巻以降も出せたらなぁと思う気持ちはありますので、どうぞよろしくお願いいたします!(また、早売りしている書店様もあるようです)
引き続きどうぞよろしくお願いいたします……!




