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マデリーネの正体(1)

 それからというもの、セイディは度々アルヴィドの元を訪れるようになった。


 彼を許したか、否か。そこを問いかけられると難しいのだが、セイディが訪れると彼はほんの少し表情を緩めるの。それが好きだった。


 だからこそ、セイディは今まで消えてしまった時間を埋めるかのように、アルヴィドに様々なことを話した。


 この日は、ミリウスがセイディと共に病院にやってきた。というのも、彼がセイディを引っ張ってきたのだ。


「殿下。わざわざ、こちらにいらっしゃらなくても……」


 さすがにアルヴィドもミリウスがここに来ることをよくは思わなくなってきたらしい。なんといっても彼は王弟で騎士団長。仕事は多いだろうに。


 そういう意味を込めてアルヴィドがミリウスの来訪を断っているのが、セイディにもよくわかった。だが、彼は首を横に振ると口元を緩める。


「これも、ある意味仕事だからな」


 そして、彼はそう言うのだ。


 これが仕事とは、一体どういうことなのか。一瞬そう思ったが、まだ解決していないことはたくさんある。マデリーネのこと、レイラのこと。それらを解決しない限り、セイディだっておちおち眠ってなどいられない。


 その後、三人で他愛もない話をし、セイディは腕時計を見る。……そろそろ、寄宿舎に戻らねばならない時間帯だ。


「じゃあ、お父様。私、そろそろ戻りますね」

「あぁ。……殿下、どうか娘をよろしくお願いします」


 アルヴィドが深々とミリウスに頭を下げる。アルヴィドのそんな姿を見ても、ミリウスは特に声を上げない。ただ深く頷くだけだ。


 この日は半休だったので、午後からこちらに来ていた。明日は一日仕事なので、こちらに来ることは出来ないだろう。


 セイディがアルヴィドに会いに来るのは、半休の日。もしくは休日の日だ。いつもは退屈して何をするか必死に考えるのだが、最近では何の迷いものなくここに来ている。差し入れとして王都の美味しい店の焼き菓子なんかを持ってくるのも、忘れない。……裏を返せば、セイディが食べたいだけともいう。


「お父様、少しずつですが元気になられていますね」


 病室を出て、ゆっくりとそうミリウスに声をかける。そうすれば、彼は「……あぁ」としばしの間をおいて返事をくれた。


 その間が何となく気味悪くて、セイディはそっと彼の顔を見上げる。彼の横顔は、とても美しい。見惚れてしまいそうなほどに。


「……なぁ、セイディ」

「はい」

「お前は、現実をわかっているのか?」


 不意に、ミリウスが真剣な顔でそう問いかけてくる。……現実を、分かっているのか。その問いかけに返せる答えは一つしかない。


「わかって、いる……つもり、です」


 アルヴィドといつまでもこんな風にかかわれることはない。彼はそれを諭しているのだ。


 アルヴィドは重罪人となってしまった。退院すれば牢に入ることになってしまうだろう。いくら意識がなかったとはいえ、ジャレッドの末路を見ればそうなるのは確定事項だ。


「でも、今だけは。……今だけは、少しだけこうやって過ごしていたいんです」


 家族に愛されてこなかった。家族と呼べるのは祖父母とエイラとジルだけだった。けれど、心のどこかでは夢見ていたのかもしれない。……一家だんらんというものを。


「そうか。わかっているのならば、いい」


 ミリウスはそれ以上何も言わなかった。それをありがたいと思いつつ病院を歩いていれば、後ろから「セイディさん」と声をかけられた。そこにいるのは、この病院の看護師だ。


「……どう、なさいました?」


 ゆっくりと振り返ってそう問いかければ、看護師は一つの布を取り出してくる。そして、それを開くと――そこには、美しい青色の宝石がはめ込まれたピアスがあった。


「……これは?」


 ピアスを見つめながら、セイディが尋ねる。すると、彼女は少し眉を下げた。が、意を決したように口を開く。


「こちら、オフラハティさんの奥様の忘れ物です」

「……え?」

「つい昨日、こちらにいらっしゃいまして……。そこで、これを落として行かれたのです」


 セイディがそのピアスを手に取る。美しい宝石は、サファイアだろうか? アクアマリンだろうか? 心の中でそう思うものの、微かに魔力を感じる。……そうだ。これは、宝石に見えるが宝石じゃない。


「……セイディ」


 隣にいたミリウスが、そう声をかけてくる。だからこそ、セイディは大きく頷く。看護師には「預かっておきますね」とにこやかに告げ、病院を早足で立ち去っていく。


「これ、魔法石ですよね」


 病院を出て行った後、馬車の中でミリウスにそう問いかける。すると、彼はそのピアスに軽く魔力を送る。淡く光るそれは、青色から黒色へと変色した。


「そうだな。……しかも、これはかなり面倒な代物かもしれない」

「……薄々、予感はしています」


 この魔法石は――いわば、人を操る魔力がこもっているのだ。


 それを理解したセイディとミリウスは、大きく頷き合った。

次回更新も明日を予定しております(o_ _)o))


書籍は第3巻が20日に発売しますので、どうぞよろしくお願いいたします……!


引き続きよろしくお願いいたします!

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