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元婚約者の現状(1)


 ☆★☆


 王都からいくつかの貴族の領地を挟んで西側にあるヤーノルド神殿。そこは、元々小さな神殿だったものの、ここ数年でかなり発展した神殿だった。その発展は誰のおかげだったのか。それは、今となっては謎……になるわけもなく。


 セイディと婚約を破棄して十日後。ジャレッドは後悔していた。


「あっ、ジャレッド様! 今度新しい髪飾りを買おうと思うのです。プレゼント、してくださいますよね……?」


 そう言って、ジャレッドに上目遣いでおねだりをしてくるのは、ジャレッドの現婚約者であるレイラ・オフラハティである。末端貴族オフラハティ子爵家の令嬢である、現在ヤーノルド神殿で従事している聖女の一人。それが、レイラ。だが、レイラの聖女としての力はとても弱く、他の聖女たちから不満が出ていることをジャレッドは知っていた。


「……いや、そんな余裕は今ないんだ。それよりもレイラ。キミはもう少し聖女としての自覚を持ち、頑張ってくれなければ……」

「まぁ、ジャレッド様は私に意地の悪いことをおっしゃるのですね。……私、悲しいですわ」


 ……意地悪なんかじゃない。そう思うが、反論するとさらに面倒なことになると分かっているため、ジャレッドは何とも言わない。


 たった十日。されど十日。それだけで、ヤーノルド神殿の権力は削がれ始めていた。その理由は簡単である。権力を持つ支援者が「セイディ嬢がいないのならば、もうここに寄付する意味はない」と言い、寄付を打ち切ったからである。支援者たちはセイディを気に入っていた。それを、ジャレッドは「媚びへつらった結果気に入られていた」と思っていたものの、今ならばわかる。


 ――セイディは、その実力で気に入られていたのだと。


「……レイラ。すまないが、父上に呼び出されているんだ。一旦、失礼する」

「は~い」


 ジャレッドの言葉に、レイラは爪を弄りながら答える。そして、そのまま軽い足取りで立ち去って行った。その様子を見ていた聖女たちが、バカにしたようにレイラを見ていたことにジャレッドは気が付いていた。だが、怒りなどわかない。レイラが好きで、セイディのことを邪魔だと思っていたころならば違っただろう。しかし、レイラへの恋心はもうすでに廃れていた。


(……どこで、間違えたんだろうな)


 そう思うが、もうすでに間違えた場所など分かっている。レイラの甘い言葉に騙され、セイディを神殿から追放したことや婚約を破棄したことだ。それは、分かっている。だが、分かっていても……どうすることも出来やしない。


「父上、失礼いたします」

「……ジャレッド」


 神官長の部屋に向かえば、そこでは少々やつれたヤーノルド神殿の神官長。つまりはジャレッドの父が机に手を置き、椅子に神妙な面持ちで腰かけていた。そして「お前は何と言うことをしてくれたんだ!」とここ十日ですっかり聞きなれてしまった言葉を今日も浴びせられた。


「セイディ嬢がこのヤーノルド神殿にとってどれだけ大切だったかも知らず、勝手に婚約を破棄して追放してしまうなど……」

「そ、それは、ですからレイラの言葉が正しいと思い……」

「言い訳などもう聞かん」


 神官長はそれだけを言うと、ジャレッドを手招きする。その後、とある一枚の紙をジャレッドに手渡してきた。その紙に書かれていた文字を見た瞬間……ジャレッドは血の気が引くような感覚に襲われた。そこには、ジャレッドを廃嫡し、縁を切ると書かれていたからだ。


「幸いにも、お前には弟がいる。次期神官長はアイツだ」

「そ、そんな! 僕はこの神殿の為を思って……!」

「お前だって本当のことは分かっているんだろう! ……だが、このままではあまりにもお前が可哀想だ」


 その言葉に、ジャレッドはホッと一息をつく。どうやら、廃嫡は免れそうだ。ジャレッドはそう思ったものの、神官長の視線は厳しい。さらには、「チャンスを与えるだけだ」としか言わない。


「これから半年以内に、セイディ嬢を神殿に連れ戻してくること。そして、きちんと謝罪をし許してもらうこと。それだけだ。い、い、な?」

「で、ですが、セイディはレイラを虐めて……」

「それが出来んのならば、お前は廃嫡だ」

「ま、待ってください!」


 廃嫡など、されたらたまらない。そう思ったジャレッドには、もうプライドなどなかった。父の言うことを、聞くしかない。きっちりとセイディに謝り、許してもらい、神殿に帰ってきてもらう。それが、ジャレッドが廃嫡を免れるたった一つの条件。


「わ、分かりました。僕は、セイディ嬢をなんとしてでも連れ戻してきます!」

「……それでいい」


 ジャレッドはそれだけを言い、神官長の部屋を出て行く。その足取りは重く、それを見た神官長は「……どこで、間違えたんだ。私は」などとぼやいていた。その言葉は、ジャレッドに届かない。それは、百も承知だった。

日刊ランキング(総合)にて、表紙入り(5位)しました(n*´ω`*n)誠にありがとうございます! 引き続きよろしくお願いいたします!


次回から第二章になります。ヒーローたちとセイディの距離が……? って感じです。よろしくお願いいたします!

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