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お見舞いとリオ(3)

 その後、リオと共に辻馬車を捕まえ、乗り込む。


 馬車の中では他愛もない会話を繰り広げ、二人の間に沈黙が流れることはなかった。


 やはり、リオと一緒にいるのが一番心地いい。そう思いつつ、セイディはふと馬車の外を見つめた。


 空は青々としているものの、まばらに雲が浮かんでいる。が、雨は降りそうにない。


(……お父様)


 何処となく様子がおかしかったアルヴィドのことを思いながら、セイディは「ふぅ」と息を吐いた。


 すると、リオが心配そうな面持ちでセイディを見つめてくる。だからこそ、セイディは首を横に振る。


「いえ、何でもありませんよ」


 静かにそう告げるとほぼ同時に、馬車が止まる。どうやら、アーリス病院にたどり着いたらしい。


 御者に料金を払い、馬車を下りる。そのまま病院の受付でアルヴィドのことを出せば、受付の女性は病室を教えてくれた。その部屋はどうやらこの間とは違う部屋のようだ。


「ありがとうございました」


 それだけを告げ、セイディはリオと共に病室に向かおうとする。だが、不意に受付の女性がセイディのことを呼び留めてきた。


 ……一体、何だろうか。


 そんな風に思って彼女の方に視線を向ければ、彼女は少し言いにくそうに口をもごもごと動かす。そのため、そちらに近寄っていく。


「えぇっと、貴女はオフラハティさんの娘さん……ですよね?」

「はい、そうですが……」


 どうしていきなりそんなことを問いかけてくるのだ。


 微かな疑問を抱き女性に返事をすれば、彼女は少しだけ肩をすくめながら「では、オフラハティさんの奥様のこともご存じで?」と続けて問いかけてきた。


 ……奥様。それは、つまり――。


「……お義母様のこと、です、よね」


 セイディの継母であるマデリーネ・オフラハティのことだ。


 それを悟りこくんと首を縦に振れば、女性は「実は、病院側は彼女に迷惑しているのです」と言って眉を下げる。


 その表情はとても弱々しく、何か嫌なことがあったのは一目瞭然だ。


「何か、ありましたか?」


 ゆっくりとそう問いかければ、彼女は視線を一度だけ逸らすものの、すぐにセイディに視線を戻す。


「実は……オフラハティさんを即時に退院させろと、乗り込んでこられたことが何度もありまして……」

「……え?」

「正直、オフラハティさんは今の状態だと退院することは難しいと抗議はしました。ただ、聞く耳を持ってもらえず……」


 額を押さえながら、女性がそう続ける。……この話を聞くに、マデリーネは何度もここを訪れている。


 数日までヤーノルド伯爵領にいたというが、彼女はそこから足しげくこちらに通っていたのだ。


(……ヤーノルド伯爵領から王都まではかなり時間がかかるわ。それが面倒になったから、こちらに引っ越したのかしら?)


 けれど、それにしてはタイミングが絶妙だ。


 心の中でセイディがそう思って悶々としていれば、女性は「どうか、注意していただきたいのです」と言葉を発する。


 ……正直なところ、マデリーネがセイディの言葉に耳を傾けるとは思えない。しかし、このままでは病院側に迷惑がかかってしまう。ならば、何とかしてマデリーネを止めるのがセイディの役目と言ったところだろうか。


「わかりました。では、出来る限り早めに伝えますね」


 にっこりと笑ってそれだけを告げ、セイディはリオと共にアルヴィドの病室を目指す。


(……お義母様、お父様を退院させて何がしたいのかしら?)


 一瞬そう思ったが、もしかしたら屋敷とか土地の権利が欲しいのかもしれない。そもそも、屋敷は土地などの権利はすべてアルヴィドが持っている。マデリーネにはどうすることも出来ないのだ。


「あら、ここじゃないかしら」


 そんなことを思っていると、ふとリオがそう声を上げる。なので視線を上げれば、その病室は確かに受付の女性に教えられた番号が割り振られていた。


 そのため、セイディは扉をノックする。すると、中から低い男性の声が聞こえてきた。


 そっと扉を開ければ、中にはアルヴィドがたった一人でたたずんでいた。ここは相部屋のようだが、今ここにいるのはアルヴィドだけのよう。


「……セイディ?」


 彼がこちらに視線を向け、驚いたように目を見開く。だからこそ、セイディは病室に足を踏み入れた。


「……お父様」


 少し困ったように首をかしげてそう声をかければ、アルヴィドは少しだけ表情を緩めた。その表情は、何処となく普段の彼とは違う。まるで、心底嬉しいような表情だ。


「……セイディ、大きくなったな」

「お父様」


 にっこりと笑ってそう言うアルヴィドに、今までの横暴さはかけらもない。その所為でセイディが混乱していれば、リオが後ろからやってくる。なので、慌ててセイディは横に寄った。


「……オフラハティ子爵、ですね」

「あぁ、そうだが」

「初めまして、リオ・オーディッツと申します」


 軽めに頭を下げて、リオがそう自己紹介をする。そんな様子を見たアルヴィドは、不快な表情一つ見せない。


 それどころか、笑みを深めるだけだ。


「初めまして、アルヴィド・オフラハティと申します。セイディがお世話になっております」


 そして、彼はそんな言葉を口にする。

次回は月曜日に更新予定です(o_ _)o))

書籍の第3巻の発売日が近づいてきてドキドキしております……。また、明日から一部サイト様では先行配信になりますので、よろしくお願いいたします……!


引き続きどうぞよろしくお願いいたします……!

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