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お見舞いとリオ(2)

 それから一時間後。着替えたセイディは寄宿舎の前にいた。


 今日身に纏っているワンピースは最近購入したものだ。あまり衣服には気を遣わないセイディだが、代表聖女となってから人の目が気になるようになってしまった。そのため、いくつかワンピースや靴などを購入したのだ。……とはいっても、そこまで高価なものではない。貴族というよりは、庶民が使うような店での購入品だ。


 そんなことを考えていれば、不意に遠くからリオが駆けてくる。時計を見れば待ち合わせ時刻の五分後。時間に律儀な彼が、珍しい。そう思ったが、アシェルの説得に時間がかかったのだと考えれば妥当。むしろ、早いくらいだ。


「ごめんなさいね。副団長の説得に時間がかかってしまって……」


 リオは苦笑を浮かべながらそう言う。が、彼の口ぶりからするに説得は成功したのだろう。


 だからこそ、セイディはぺこりと頭を下げる。


「お手数、おかけしました」


 彼にそう告げれば、彼は「気にしないで頂戴」と言いながら目の前で手をぶんぶんと横に振る。


「さぁて、じゃあ、行きましょうか」

「……いや、あの、休憩は?」

「そんなもの必要ないわ。私、これでも体力があるから」


 先ほどまでアシェルの説得を頑張ったうえに、駆けてきたのだ。相当疲れていると思ったが、どうやら彼はそこまで疲れていないらしい。セイディは目を丸くしてしまうが、この場合さすがは騎士というべきなのだろう。ある意味感心だ。


「さて、行き先は病院だったわね」

「はい」


 リオの言葉にこくんと首を縦に振り、セイディは彼と並んで歩きだす。


 途中、王宮に勤める使用人たちとすれ違ったが、皆が皆ぎょっとしたような表情を浮かべる。多分、あの衣服に無頓着なセイディがまともな格好をしているためだろう。……予想なんて普通に出来る。


「ところで、セイディ」


 歩いている最中。ふとリオに声をかけられ、セイディは彼の顔を見げた。そうすれば、彼はにっこりと笑う。その笑みは大層きれいだ。


「今日は、随分と可愛らしい格好をしているじゃない」


 どうやら、リオもセイディの変化に気が付いたらしい。そのため、セイディは苦笑を浮かべて誤魔化そうとした。が、彼を誤魔化すのは至難の業ということは、十分に理解している。もちろん、無理だった。


「どういう心境の変化? 好きな人でもできたの?」


 ……しかし、どうしてそういう風に受け取るのだろうか。


 心の中でそう思いつつ、セイディは「ははは」と乾いた笑いを零す。


「いえ、代表聖女になってから、どうにも人の目が気になってしまって。なので、『光の収穫祭』が終わった後に買っていたのです。……まぁ、メイド服の方がずっと多いので、しまい込んだままでしたが」


 実際、セイディはメイド服を身に纏っているときの方がずっと多い。


 リオもそれを理解してくれていたらしく、にっこりと笑いながら「よく似合っているじゃない」と言葉をくれる。


「衣服に無頓着だったのに、いきなりおしゃれをするから驚いちゃったわ」

「……そんなに、私って衣服に無頓着でしたか?」

「えぇ、そりゃあもう。……初めの頃、副団長にワンピース買ってもらっていたくらいじゃない」


 確かにそんなことはあった。この間のヤーノルド神殿に出かけた際も、身に着けていたワンピースはアシェルに買ってもらったものだ。……彼と出かけるのだから、あれを着ていた方が良いというのは理解していた。


「まぁ……そう、かもしれませんね」


 リオの言葉にそう返せば、彼はうんうんとばかりに頷く。


 だが、すぐにハッとして「まぁ、今はそれどころじゃないわね」と言って肩をすくめていた。


「オフラハティ子爵に会っても、大丈夫?」


 その後、彼はそう問いかけてくる。……確かに、アシェルも普段だからこそ反対したのだろう。それは、分かる。でも。


「はい、大丈夫です。……それに、お父様とも向き合わないといけないと思っていますから」


 目を伏せて、セイディはそんな言葉を零す。


 それに、今のアルヴィドならばセイディの話もまともに聞いてくれると思ったのだ。今までの彼ならば継母やレイラの言いなりだったが、今の彼ならば――セイディの言葉に耳を傾けてくれる。そんな確証があった。


「そう。……貴女は、強いわね」

「……え?」


 リオが不意に零した言葉に、セイディは驚いてしまう。けれど、リオは何処か遠くを見つめていた。


「私も、いずれは向き合わないといけない人がいるの。……だけど、怖くて向き合えない」

「……それ、は」

「なーんて、しんみりするのは私じゃないわね。とりあえず、辻馬車でも捕まえましょうか」


 先ほどのしんみりとした空気を打ち消すかのように、リオが笑ってそう言う。


 だから、セイディは頷くことしか出来なかった。


(リオさんが向き合うべき相手って……)


 それは一体、誰なのだろうか。そう思ったが、これはセイディが口出し出来ることではない。


 それは理解していたので、セイディは口を静かに閉ざした。

第3巻は今月の20日発売します(先行配信は14日となるそうです)ので、書籍版もよろしくお願いいたします……!(頑張って加筆しました!)


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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