お見舞いとリオ(1)
その日、セイディは朝から休暇だった。
というのも、レイラや継母のことを考えていると、仕事でミスを連発してしまったのだ。普段はミスなどしないセイディがミスを連発するということから、騎士たちには余計な心配ばかりをかけてしまった。
それゆえに、セイディは久々に有休を使ったのだ。
(……お義母様やレイラのこと、知らないままじゃダメよね)
かといって、知る術がない。どう足掻いても彼女たちの動向を知ることは出来ない。こちらの行動を予測している可能性があるということは、下手な行動を取ることは出来ないということ。……さて、どうしたものか。
(できれば、お父様の元に行きたい。……お義母様のこととか、教えてくださらないかしら?)
アルヴィドの元に勝手に行くことは禁止されている。そりゃそうだ。相手はセイディを勘当した張本人。何をするかわかったものじゃない。それに、騎士たちはセイディのことを妹分として可愛がってくれている。過保護になるのもある意味当たり前なのだ。
「うぅ、どうしようかなぁ~」
一人きりの食堂で大きく伸びをしてそう零すと、不意に食堂の扉が開く。……誰か、水でも飲みに来たのだろうか?
そう思いそちらに視線を向ければ、そこにはいつもと違うラフな格好のリオがいた。彼はセイディの様子を見て何か思ったのだろう。近づいてくると、目の前の椅子に腰を下ろす。
「どうしたの?」
彼は少し困ったように笑いながらセイディにそう問いかけてくる。彼もまた、セイディのことを心配してくれているのだ。それが痛いほどに伝わってくるため、自分の気持ちを伝えることをためらってしまう。
けれど、ここで言わないと何も変わらない。
そんな風に考えるからこそ、セイディはリオの目をまっすぐに見つめる。
「あの、ですね……」
「えぇ」
「お父様の元に、行きたいなぁって思いまして」
「……え?」
セイディのいきなりの言葉に、リオが戸惑うのがわかった。いつもはにこやかな笑みを浮かべている彼の表情が、何処となく強張っている。
それを見つつ、セイディは肩をすくめた。
「いえ、レイラやお義母様のことを知れないかと思いまして……」
そしてそう続ければ、リオは「あぁ、そうなのね」と言葉をくれる。
「てっきり、何か血迷ったのかと思ったわ」
「……どういう意味、ですか?」
「日々の恨みでも晴らしに行くのかなぁって」
彼は何でもない風にそう言うが、それはそれでかなりの大問題だ。少なくともニコニコと笑って言う言葉ではない。
「そんなの……」
「冗談よ」
しかし、これはどうやら彼なりの冗談だったらしい。それにほっと息を吐いていれば、彼は「セイディがそういう子じゃないことくらい、私は知っているわよ」と続けてくる。
「でも、オフラハティ子爵に会うとしても、誰か同行しなくちゃいけないのでしょう?」
「……まぁ、そうですね」
「……そうねぇ」
セイディの言葉にリオがしばし考える。その後勢いよく立ち上がった。それにセイディが驚いていれば、彼はウィンクを飛ばしてくる。
「私と行きましょう」
彼は何でもない風にそう言う。
いや、それは良いのだろうか? アシェルに怒られないだろうか?
「アシェル様に、怒られませんか……?」
一応そう問いかけておこう。そんな風に思ってセイディがそう問いかければ、彼は「まぁ、怒られる可能性はゼロじゃないわ」とお茶目な表情で言う。……全く大丈夫じゃない。
「けれど、私は自分の意思でセイディの力になりたいのよ。……副団長よりも、セイディの意思を尊重したい」
「……それは」
「とか言っているけれど、正直なところ副団長に怒られるのは勘弁願いたいわね」
そりゃそうだ。
彼は怒らせると大層面倒くさい。それがわかっているので、セイディも行動することをためらっていたくらいなのだ。
「だから、早急に許可をもらいに行ってくるわ」
「……私も、一緒に」
「いえいえ、いいのよ。こういうことは私に任せておきなさい。これでも私は騎士団の頭脳だから」
にっこりと笑ってリオがそう言う。……そういえば、そうだった。リオは騎士団では参謀の立場にもおり、作戦を練るのは彼の仕事だという。普段は雑務に追われているため忘れてしまいそうだが、彼は大層頭がいい。
「交渉術も私の方が上よ。……それに、セイディだってあまり副団長の手を煩わせたくないでしょう?」
「まぁ、そうですね」
「副団長に余計な心配をかけないようにもしておくから。安心して頂戴。……じゃあ、一時間後に寄宿舎の前に、ね」
彼はそれだけの言葉を残すと颯爽と食堂を出て行く。
彼の後ろ姿を見送りながら、セイディは本当にありがたいと思う。ここの人たちはセイディの味方をしてくれている。……セイディが、問題を引き寄せているのにも近いというのに。文句ひとつ言わずに、手伝ってくれている。
(やっぱり、恩返ししなくちゃね)
心の中でその意思を強めながら、セイディはとりあえず着替えに移ることにした。さすがに、ラフすぎるこの格好では街に出るのはいただけない。
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第3巻は今月の20日に発売します。また、第4巻の発売も決定しております……!
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