表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

203/263

情報収集とアシェル(2)

「えぇっと、いえ、ちょっとどうしているかなぁって、思いまして……」


 心の中に芽生えた嫌な予感を振り払うように、手のひらをぶんぶんと横に振ってそう言う。


 しかし、どうやら神官長は信じていない様子だ。彼はセイディの隣にいるアシェルに視線を向ける。……やはり、彼には嘘や誤魔化しは通じないらしい。


「セイディと一緒に来られた騎士の方ですよね。……本当の理由は、何なのでしょうか?」


 神官長の声は微かに震えている。もしかしたら、レイラはとんでもない行動をしたのかも――と思ったのもつかの間、アシェルはにこやかに笑う。それは、よそ行きの笑みだった。


「いえ、本当に現状を知りたいだけですよ。彼女の父親が王都で入院しているので、連絡を……と思いまして」


 よそ行きの笑みだけではなく、その口調もよそ行きのものだ。丁寧にもほどがある。


 セイディはそう思うが、神官長も貴族であり伯爵。アシェルとは対等な身分である。彼の口調もある意味正しい。


「……さようでございますか」


 さすがの神官長もアシェルにそう言われたら信じることしか出来ないらしい。首を縦に大きく振ると、セイディ、アシェルの順番に見つめてくる。その目は、何もかもを見透かしているかのようだ。


「レイラは、今はここにはいませんよ」

「……え?」

「数日前に、王都に引っ越すといって聖女の職務も投げ出してしまいました。おかげでほかの聖女たちが迷惑しておりまして……」


 神官長がそう言って神殿の方を見つめる。すると、そこには数名の聖女がおり彼女たちはうんうんと首を縦に振っている。その中のほとんど全員に、セイディは面識があった。


「そうなの、ですか……」


 でも、セイディが何かを言う権利はない。そもそも、セイディも聖女の職務を投げ出したに等しいのだ。追放されたと聞けば可哀想かもしれないが、投げ出すのと意味は同じだ。


「……ところで、オフラハティ子爵家はどうなっていますか?」


「レイラは夫人とともに王都に引っ越すと言っていましたが、屋敷はそのままのはずですよ。当主の許可なく彼女たちが勝手に屋敷を売却することは出来ませんから」


 彼の言っていることは正しい。物の所有者の許可なく売却なんて出来るわけがない。そこは、アルヴィドが王都にいることに感謝するべきことだろうか。


(お母様のことを知るために、一度お屋敷に行った方が良いかもしれないわね)


 そう思うが、それはもうしばらく後になるだろう。


 今はとにかく――時間がない。


「アシェル様……」


 そっと隣にいるアシェルに視線を向ければ、彼は何かを考え込んでいるようだった。が、すぐに神官長に視線を向ける。


「ありがとうございました。……では、俺たちはしばらくヤーノルド伯爵領の方をぶらぶらして帰ろうと思います」

「……え?」


 アシェルの言葉はセイディにはまさに寝耳に水だ。聞いていないことを勝手に決められた。むしろ、相談なんてこともされていない。


「……そうですか。できれば、セイディともう少し話がしたかったのですが」

「すみませんが、今こちらにはあまり時間がありませんので……。また後日、セイディだけこちらに送り込みますので」


 おい、送り込むってなんだ。


 心の中でそう思いアシェルをジト目で見つめれば、彼は口パクで「話を合わせろ」と言ってくる。だからこそ、セイディは笑った。誤魔化すように、笑った。


「で、では、神官長。……ごきげんよう」

「……あ、あぁ」


 セイディはここにいた頃「ごきげんよう」なんて言ったことがない。これは単に代表聖女となる際に「こういう言葉遣いをしなさい」と言われ、口にしみついてしまっただけだ。代表聖女としての職務が終わっても、度々口から飛び出てくる。


「……まぁ、帰ってきてくれると幸いだ」


 最後にそう告げられたので、セイディはこくんと首を縦に振る。


 何があっても、ここがセイディの始まりの場所であることに間違いはない。嫌な思い出の方が多いかもしれない。だけど――ふるさとであることに、間違いはない。


 そんなことを思いつつ、セイディはアシェルに引っ張られつつ歩いていく。


 彼は先ほどからじっと何かを考え込んでいるようであり、セイディのことなど気にも留めない。それが、何となく彼らしくない。


(アシェル様、なんだか一刻も早くあそこから立ち去りたいと思われていたような……)


 彼の方がヤーノルド神殿に行こうと言っていたのに、おかしな話だ。


(……っていうか、そもそもレイラとお義母様が引っ越したなんて想像もしていなかったわ)


 でも、それはそれ。今考えるべきは、今後のレイラの動向である。


 とにかく、彼女を捜すことが先決……かも、しれない。


(帝国と癒着している可能性がある以上、今後一ヶ所にとどまる可能性は少ないと考えた方が良いかも……)


 それに、各地を転々とする方がある意味安全だろう。だったら、早いこと王都に戻って彼らを捜さなくては――……。


「……なぁ、セイディ」


 そう思っていると、不意にアシェルに声をかけられた。そのためそちらに視線を向ければ……彼は、真剣なまなざしでセイディを見据えていた。

これにて今年の『たくまし令嬢』の更新は最後になります。本年もありがとうございました!

新年早々第3巻の発売がありますので、そちらもよろしくお願いいたします……!


来年も引き続きのびのびとやっていきますので、お付き合いいただけると幸いです。


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ