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情報収集とアシェル(1)

「うわぁ、変わってない……!」


 馬車の窓からヤーノルド伯爵領を見つめながら、セイディはそう零す。


 窓の外を流れるヤーノルド伯爵領は、セイディがいた頃と何も変わっていない。


 豊かな自然の先の先。そこにあるのは――少し前までセイディが従事していたヤーノルド神殿だった。


(……神官長、元気にしていらっしゃるかしら?)


 ジャレッドがああなってしまい、気落ちしていなければいいけれど。幸いにもジャレッドには年の離れた弟がおり、跡取り問題は特にない。けれど、嫡男として育ててきた息子が罪人になったショックは計り知れないだろう。


(……まぁ、神官長の性格だと、ジャレッド様のことはもうすでに割り切っていそうね)


 でも、そう思いなおす。


 そのまま馬車が走り、まず一番にやってきたのは――やはりというべきかヤーノルド神殿だった。


 馬車から降りてヤーノルド神殿の入り口に立てば、すぐそばに一人の聖女がいた。彼女はセイディの顔を見ると、目をぱちぱちとさせる。まるで、お化けか何かを見たかのような態度だな。心の中でそんな失礼なことを思っていれば、彼女は「……神官長!」と言って神殿の中に駆け込んだ。


 そして、それを見計らったかのように神殿の中からアシェルが現れる。彼は開口一番に「遅かったな」と言ってくる。


 そりゃそうだ。馬車と馬。どちらが早いのかなど子供でも分かる。


「遅くなって、申し訳ございませんでした」


 決してセイディのせいではないが、一応謝っておこう。そう思い軽く謝罪をすれば、アシェルは「全く気持ちがこもっていないな」と言いながら笑う。


「アシェル様は、一足先に来られていたのですよね?」


 ふと気になったことを問いかければ、彼は「あぁ」と肯定の返事をくれた。


「しばらくここら辺を見て回りつつ、先ほどこっちに来た。一応神官長に会っておこうかと思ってな」

「……見て回っていたのですか」

「何か問題があるか?」


 そう言われても、アシェルほどの美形がこんな田舎にいたら……噂になってしまうのではないだろうか?


 心の中でセイディはそう思ったものの、口には出さない。ただぎこちない笑みを浮かべ「いえ、何でも」というだけだ。


「……目は何か言いたいことがあると言っているんだが?」


 セイディの頬をぐにーっとつかみながらアシェルがそう言う。


 彼の目は軽く怒っているように見える。……隠し事をされるのは、確かにあまりいい気分にはならない。


「……い、いえ、こんな田舎にアシェル様は似つかわしくないなぁって」


 さすがにいつまでも頬を掴まれるのは辛いので、セイディはあっさりと白状する。


 すると、アシェルは「似つかわしくないとか似合うとか、どうでもいいだろ」と言いながらため息をつく。


 けれど、田舎の情報網は早いのだ。こんなことを言ってはなんだが、多分人だかりができるのも時間の問題だと思う。


「大体、田舎の情報網舐めない方が良いですよ? 何かやらかしたら一瞬で広まりますから」

「……まぁ、覚えておく」


 いい噂は広まらないのに、悪い噂ばかり広まるのもなんだかいろいろと思ってしまうが。


 そんなことを思いつつセイディがアシェルと会話をしていれば、神殿の奥から一人の男性が顔を出した。何処となくジャレッドの面影がある彼は、セイディの顔を見ると「……セイディ、か?」と確認してきた。彼は目を腕でごしごしとこすっている。


 幽霊でも見たかのような態度である。


「えぇ、お久しぶりです、神官長」


 一応挨拶をしておこうとセイディがそう言うと、神官長はセイディの方に駆けてくると――今にも土下座しそうな勢いで頭を下げる。


「セイディ、本当に悪かった! うちのバカ息子が……!」

「い、いえ、その……」


 もしかしたら、神官長にとってセイディのことは胸のつっかえになっていたのかもしれない。今更になってその可能性に気が付き、セイディは自分の浅はかさに反省する。


 婚約破棄されて、追放されて。清々したと思っていた。が、こういう風に気に病んでくれていた人がいるのだ。それに、今の今まで気が付けなかった。


「それにしても、今年の代表聖女はセイディだったと聞いている。……本当に、立派になったな」


 今度は涙ぐみながら神官長はそう言う。彼は厳格な性格ではあるが、懐に入れた者には何処までも甘くなれるのだ。


 セイディにとっても、彼は第三の親代わりだった。第一、第二の親代わりは実家の執事ジルと侍女のエイラである。


「ところで、突然来て、何か用があったのか……?」

「……あ、そうでした」


 そういえば、ここに来たのはレイラの情報収集をするためだった。それを思い出し、セイディは「……実は、レイラのことで」と控えめに声をかける。そうすれば、神官長の眉間のしわが深くなる。


「……レイラが、どうしたんだ?」


 あ、これは何か彼女はやらかしているな。


 一瞬そう思ったが、彼女には様々なやらかしの前科がある。ジャレッドを誑かしたのはもちろん、仕事をしないなどからほかの聖女に多大なる被害が行っているのだ。

多分次が年内最後の更新になると思います(o_ _)o))


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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