呼び出し?(3)
しかし、セイディとて易々と納得など出来るわけがない。
アシェルと共に出掛ける、それもヤーノルド伯爵領ともなれば泊まりになってしまうだろう。そうなれば、騎士団の仕事は滞るだろうし、メイドの仕事も滞ってしまう。
「で、ですが……アシェル様にも、お仕事が……」
頬を引きつらせながら断りの言葉を探し、そう告げる。
しかし、アシェルは「俺は明日休暇だ」と言って頬杖をついていた。
「そ、そうかもしれませんが……」
「今日の夜に行って、明日の夜にこちらに戻る。それから、明後日は昼からの仕事にしてもらっている」
「え、えぇ……」
それはかなりのハードワークなのでは?
心の中でそう思ったものの、アシェルにとってこれは普通なのだ。そもそも、彼だってセイディに心配されるのは不本意だろう。
「メイドの仕事に関しては休みを取ってもらう。悪いが、これは決定事項だ」
どうやら、もう何を言っても覆らないらしい。
それを悟り、セイディは「……わかりました」と言ってこくんと首を縦に振る。
(あんまり気乗りはしないけれど、これも仕方がないのよね……)
レイラのことを知るためには、ヤーノルド伯爵領に行った方が良いのは目に見えるようにわかっている。
正直なところ、行きたくないという気持ちはあるのだが。
「じゃあ、そういうことだ。一応夕方に出ることになるな」
「……馬車は、別々ですよね?」
「当たり前だろ。……っていうかな、俺は馬で行くからな。セイディは馬車で後からついてくればいい」
……それ、結局セイディが行く意味はあるのだろうか?
心の中でそう思ったが、ヤーノルド伯爵領に詳しいのはセイディの方である。そういう意味で、彼はセイディに同行を求めているのだ。
「というわけだ。俺は準備をするために寄宿舎に戻る。……セイディもついてくるか?」
「……まぁ、私も寄宿舎に戻りますからね」
苦笑を浮かべながら彼の言葉に頷き、立ち上がる。
その後、アシェルと本部の部屋を出て行けば、部屋の前ではリオがいた。彼の手には紙袋が握られており、どうやら買い物か何かに行っていたようだ。
「リオ。この後予定通りセイディとヤーノルド伯爵領に出向くことになった」
「はぁい、分かったわ。行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振りながらリオはそう言う。……なんだか、軽くないだろうか?
(いや、間違いなく軽いわ……)
そう思い頭痛がしてしまいそうになるが、セイディはその気持ちをぐっとこらえ、「行ってきますね」と返事をする。
「あぁ、そういえば副団長。……ジャレッド・ヤーノルドの処分についてなのだけれど」
「そこは団長の裁量しだいだな。……まだ引き出せそうな情報があるのならば、そのままでいい」
「はぁい」
リオはアシェルにそれだけの確認をすると、本部の扉をくぐる。
残されたのは、アシェルとセイディだけ。
「……セイディは、ヤーノルド伯爵領に住んでいたんだよな?」
「えぇ、そうですね」
聖女としてヤーノルド神殿に従事していたため、伯爵領に住んでいた。それは間違いない。
「実家には、戻っていたのか?」
不意打ちの問いかけに、セイディは呆然としてしまう。
「え、えぇ、まぁ……。神殿に泊まり込む日もありましたが、大体は戻っていましたよ」
実家に戻っていて実父であるアルヴィドや継母、レイラの動向について気が付かなかったのはいかがなものだろうか、と自分でも思う。けれど、気が付かなかったのだから仕方がない。……それに。
(もしも、私が勘当されていなかったら……私も一緒に罪を受けたのかもしれないわ)
無知だって、罪に値するのだ。彼らの勝手な行動でも、セイディは罪人の娘とレッテルを貼られていたかもしれない。
……そもそも、祖父母や先祖が大切に発展させてきたオフラハティ子爵家をこの代で絶やすのは、心苦しい……かも、しれない。
「あの、アシェル様……」
そんな風に思い、セイディがアシェルに声をかける。すると、彼は「どうした?」と言葉をくれた。
「……私、なんだかんだ言ってもオフラハティ子爵家にはいろいろと思うことがありまして……」
「あぁ」
「だから、こんな形で終わるのは嫌だなぁって、思ってしまって……」
自分勝手な考えだとわかっている。でも、セイディを愛してくれた祖父母のことを思うと、なかなか冷酷にはなれそうにない。割り切れたら、楽なのに。
「そうか」
「だけど、仕方がないですよね。諦めます」
苦笑を浮かべてそう続ければ、アシェルは何を思ったのだろうか。セイディの頭にポンと手のひらを置く。
「だったら、セイディ自身が何とかすればいいだろう」
「……え?」
それは一体どういう意味?
心の中でそう思ったものの、きっとセイディ自身がオフラハティ子爵家を継げとかそういうことなのだろう。……勘当された身なのに。
「で、ですが……」
「ま、今は前向きに考えられなくていい。……いずれ、時が来たら、だからな」
アシェルはそれだけの言葉を残すと、「置いていくぞ」と言ってさっさと歩きだす。
そのため、セイディはそれよりも先の言葉を聞くことは出来なかった。
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