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婚約破棄は、突然に

「セイディ・オフラハティ! 僕はキミとの婚約を破棄する。キミがそんな女性だったなんて、見損なったよ」

「……はぁ」


 とある日の昼下がり。リア王国の中心部にあるヤーノルド神殿にて、この神殿に従事している聖女の一人であるセイディは、この神殿の神官長の息子であるジャレッド・ヤーノルドに婚約の破棄を告げられていた。ジャレッドは震える指でセイディを指し、忌々しいとばかりに睨んでいる……が、そこに迫力などない。


 そのため、セイディは適当に返事をしたのだ。……それに、問題はジャレッドよりも彼の隣に寄り添うセイディの腹違いの妹、レイラ・オフラハティの存在だった。レイラはセイディとは違い、緩くウェーブのかかった青色の髪と、大きな愛らしい青色の瞳を持っている。その顔立ちは庇護欲をそそるものであり、男性ウケが大層よかった。


 それに対して、セイディは痛んだ茶色の髪と、おっとりとして見える真っ赤な瞳を持っていた。しかし、その容姿は何処か気品高く、高貴な印象を与える。その理由など、誰も知る由がない。


「セイディはレイラを実家で虐めていたそうじゃないか。僕は、レイラからそれを聞いた。だから、キミとは結婚できない!」

「……はぁ」


 ジャレッドの言っている言葉は、真実とは異なる。どちらかと言えば、レイラがセイディを虐めていた。だが、庇護欲をそそる容姿と愛らしさを持つレイラは、常日頃から「お義姉様に虐められているの……」と周りに伝え、周りの同情を引いていた。大方、今回もその延長なのだろう。


「それから、セイディの聖女の力は偽物だ。それも、レイラが僕に教えてくれた。……まったく、次期神官長である僕が、小汚い女に騙されるところだた……」


 そう言って、ジャレッドは「はぁ」とため息をつく。それに対して、セイディは考える。……今の話を端的にまとめれば、セイディはジャレッドとの婚約を破棄された挙句、聖女の地位まで取り上げられるのあろう。……まぁ、それはそれで構わないのだが。


「お義姉様。これからは偽物の聖女だったお義姉様の代わりに、私が聖女の座に就きますわ。なので、お義姉様は安心して罪を認めてくださいませ……!」


 いつものように、レイラは上目遣いでセイディにそんなことを告げる。その瞳はウルウルと潤んでおり、セイディはこっそりと「またか」とだけ思っていた。レイラはこの秘技「おねだり」でセイディのものを数多く奪ってきた。……だが、この様子だと今日でその日々も終わりのようだ。


「分かりましたわ。このセイディ、大人しく婚約の破棄を受け入れ、聖女の座も引退することにします。……ただ、これから苦労すること、覚悟した方が良いのでは?」


 だからこそ、セイディはゆっくりと一礼をしてそう言った。それを負け惜しみと受け取ったのだろう、ジャレッドは「ふん、知らないな」とだけ言うとレイラの身体を引き寄せる。


「僕はレイラを新しい婚約者として迎え入れる。……キミは、レイラを虐めた罪を一生をかけてでも償うんだな」


 一気に気が強くなったな。そう思いながら、セイディはもう一度一礼をして神殿の祈りの間を出ていた。セイディの気分は、とても清々しかった。

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