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図書室とフレディ(3)

 恐る恐るといった風にセイディがそう告げれば、フレディはにっこりと笑って「嫌だ」という。


 だからこそ、セイディは「はぁ」と露骨にため息をついてしまった。


 今、セイディはフレディに抱きしめられているに近い状態だ。いくら何でもこんな状況を人に見られてしまったら勘違いされてしまう。


 助けてもらったことに関しては感謝しているが、それ以上の感情はないというのに。


 そう思うものの、どういったら解放してくれるかがよく分からない。そのため、セイディが俯いてじっと黙り込んでいれば、彼は何を思ったのだろうか。セイディに対して「最近、暗い顔が多いよね」と声をかけてくる。


「……そうで、しょうか?」

「うん、強かなキミらしくない表情だ」


 そう見えていたのならば、また表情を整えなくては。


 そんな風に思い、セイディは自分の頬をむにむにと揉む。


 あんまり暗い表情は見せたくない。その気持ちだけが、先行していた。


「あのさぁ、セイディ」

「……はい」


 そうしていれば、フレディがふと声をかけてくる。それに反応するように返事をすれば、彼は「別に、暗い表情が悪いわけじゃないんだよ?」と告げてくる。


「僕は暗い表情が悪いと言っているわけじゃなくてね。キミにそんな表情をさせる輩を何とかしたいって思っているんだよ」


 ニコニコと笑いながらフレディがそう言う。


 彼のその表情は、本気でそう思っているかのようにも見えてしまった。


「……ですが、迷惑では」


 じっと下に視線を向けてそう言うと、彼は「……あのねぇ」と言いながらセイディの身体をパッと放す。


「キミに迷惑だなんて言ってきた輩が、いたの?」

「……そういう、わけでは」

「じゃあ、頼ればいいじゃんか。……迷惑だって突っぱねられたわけじゃないんだったら、それでいいじゃない」


 確かにそれは一理ある。でも……いや、違う。


(頼れるときは頼った方が良いのよね。それに、皆さま、今までだって私のことを助けてくれたじゃない)


 それはきっとフレディだって一緒なのだろう。


「……あの、フレディ、様」

「うん」


 彼に声をかけて、視線を彷徨わせる。なんと言おうか。そんな風に悩んでいれば、ふと「あの」と何処からか声をかけられた。


 そちらに視線を向ければ、司書がいる。


「申し訳ないのですが、片づけたいので一旦退室してくださいますか……?」


 本当に申し訳なさそうにそう言う彼に対し、セイディは「手伝いましょうか……?」と声をかける。しかし、彼は「いえ、これはこちらの責任なので……」と眉を下げるだけだ。


「行こうか、セイディ」


 対するフレディはあっけらかんとそう言って図書室を出て行こうとする。もちろん、セイディの手を引いて。


「……あ、ありがとう、ございました!」


 図書室で叫ぶのはあまりいいことではないとわかっている。けれど、一応お礼は言っておかなければ。


 その一心で司書に向かって比較的大きな声でそう言えば、司書の彼はぺこりと頭を下げていた。


 それからしばらく歩いて、王宮の図書室を出て行く。


 フレディと二人で歩いていると、周囲からの視線が痛い。それは一体どうして?


(今までは彼が美形だったからだけれど……)


 フレディが帝国からの刺客だったというのは、王宮では常識と化している。つまり、この痛い視線はフレディの思惑を探っているという意味もあるのかもしれない。


(もしも、あの後ずっと彼がこんな視線に晒されていたのだとしたら……)


 居心地は、あまりよくないだろう。


 ミリウスがある程度のフォローをしてくれているとはいえ、それさえも妬む人はいるかもしれない。


 王族のお気に入りなど、誰もがなりたい立場なのだから。


「ねぇねぇ、セイディってば」


 そんな風に考えていたからなのか、フレディに名前を呼ばれたことに気が付けなかった。


 そのため、セイディは「申し訳ございません……」と慌てて謝る。すると、彼は「謝ってほしいわけじゃ、ないんだけれどなぁ」と言いながら肩をすくめる。


「とりあえず、寄宿舎の方まで送るよ」

「……い、いえ、そこまでしていただくわけには……」

「僕がセイディと一緒に居たいからやっていることなんだけれどね。つまり、下心満載」


 にっこりと笑って言う言葉ではないだろう。


 内心でそう思うものの、もしかしたら彼もこの痛い視線の数々に疲弊しているのかもしれない。


 だから、少しでもセイディと一緒にいることで、気を紛らわせているのかもしれない。


 そう思ったら、何となく邪険にすることが出来なかった。


「では、よろしくお願いいたします」


 そんな風に思うからこそそう言えば、フレディはにっこりと笑っていた。その笑みがあまりにも美しくて――セイディは思わず見とれてしまう。


「それに、もうちょっと話していたいしね」


 見惚れるセイディを他所に、フレディはそれだけを言ってまた歩き出す。


 なので、セイディも彼の後に続いて歩き始めた。


 途中、フレディが思い出したように天井を見上げたのは――意味が、分からなかったが。

次回から別キャラクターとセイディのお話です(n*´ω`*n)


引き続きよろしくお願いいたします……!

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