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図書室とフレディ(2)

「え?」


 彼の行動の意味が分からず、セイディがきょとんとする。


 そうすれば、フレディは「いや、ちょっと気になることが、あって……」と歯切れ悪く言う。


 普段の彼ならばこんな風に言わないだろうに。


 ちょっとした違和感を感じながらも、セイディは「……どうぞ」とだけ言って帝国の資料を手渡す。


「……ありがと」


 少し儚げに笑って、フレディがそう言う。


 ……何となく、消えてしまいそうな雰囲気だった。


(いや、そんなわけがないわよね)


 しかし、そう思いなおしてセイディはフレディに教えられた机と椅子が設置してある読書スペースに向かう。


 歩を進める中、ふと後ろを振り返れば――フレディは真剣な面持ちで帝国の資料をめくっていた。


 その手つきは何処となく早急であり、もしかしたら何か明確な目的があるのかもしれない。


(フレディ様にも、知りたいことがあるのね)


 帝国の出身だと言うからには、帝国のことなど大体知っているのかと思っていた。


 さらに言えば彼の身分は皇弟なのだ。詳しい事情を知っていてもおかしな身分ではない……と思ったのだが。


(まぁ、フレディ様やリリスさんのことを思うと……そうは、思えないわよね)


 そう思いなおして、セイディは椅子に腰かけた。


 ちくたくと時計の針が進む中、セイディはヴェリテ公国の資料から欲しい情報がないかと探す。


 けれど、大体載っているのはヴェリテ公国の公爵家についてであり、セイディの欲しい『聖女の情報』はあまり載っていない。


(当然と言えば、当然なのかもしれないけれど……)


 聖女の情報はその国の戦力に直結する。つまり、易々と他国に漏らしてはいけない情報ということだ。


 が、リア王国やヴェリテ公国のような聖女国家はほんのちょっぴりの情報を出す。それを狙っていたのだが……見つかる気配はない。


(お母様のこと、何か知れたらよかったのだけれど……)


 眉を下げながら、そう思う。


 クリストバルやアルヴィドの言葉を信じるのならば、セイディの母はヴェリテ公国の聖女パトリシアとなる。


 ヴェリテ公国でも特に力の強い聖女だと、クリストバルは言っていた。ならば、ほんの少しくらい載っていても……と思ったのだ。


(そもそも、お母様のことを知るためには、やっぱり公国へと行くべきなのかしら……?)


 クリストバルにされた提案を思い出し、セイディはそう思う。


 だが、首をぶんぶんと横に振ってその考えを捨てた。ここでこの王国を去ってしまえば、恩をあだで返す形になってしまう。


 もうしばらくは、この王国に恩を返さなければ。


「はぁ」


 時計の針を見つめれば、司書が施錠すると言っていた時間まであと三十分ほどだった。


 ……そろそろ、片づけを始めるか。


 そんな風に思ってセイディは立ち上がって、フレディが資料を取り出してきた場所に向かう。


 こういう場所の資料は必ず元の場所に戻さなければならない。幸いにも資料には番号が振ってあり、その通りに戻せば元通りになるような仕組みになっていた。


 そのため、セイディは何のためらいもなく資料を戻していく。……なんだか、片づけみたいだな。心の底でそう思う。


(そういえば、寄宿舎にある雑誌の置き場も一度整理した方が良いかも……)


 仕事のことを思い出しながら、セイディは最後の一冊を元の場所に戻した。


 そのときだった。


「――えっ!?」


 何故か、目の前の本棚が倒れてきた。それに驚いて身を引こうとするものの、驚きからかうまく避けられない。


「セイディ!」


 もうすぐで、身体に本棚が当たってしまう――というところで、誰かに腕を引っ張られる。


 だからこそ、何とか直撃は免れた。もちろん、何冊かの本が身体に当たったのは認めるが。


「いったぁ……」


 思わずそう言葉を漏らせば、頭の上から「大丈夫?」という声が聞こえてきた。


 その言葉に驚いて顔を上げれば――至近距離にフレディの顔があった。


「……え?」

「……ちょっと不安定だったのかもなぁ」


 彼はぎこちなく笑いつつ、そういう。


 大きな物音に気が付いてか、司書が駆けつけてきた。彼は「あー」と言いながら頭を抱える。


「す、すみません……! 実はそこの本棚、少し不安定でして……」


 よくよく見れば、この本棚は二つの本棚が積んである形らしかった。そして、上側の部分が倒れてきたようだ。


「どうも、前回の整理の際にしっかりと接続し忘れていたようで……」


 司書が本棚を見つめながら、ぺこぺこと頭を下げながらそう言う。


 ……まぁ、怪我がないからよかったかも……しれない。


「いえ、大丈夫です。……今度、気を付けていただけると」


 ぎこちなく笑いながらセイディがそう言えば、司書は「はい……」と言いながら項垂れる。


 それから、顔を上げてフレディに視線を送る。彼は何故かにっこりと笑っていた。


「いやぁ、セイディに怪我がなくて本当によかったよ」


 彼はそう言いながら笑う。


 確かに、助けてくれたことに関してはお礼を言うべきなのだろう。


 それくらい、セイディにだってわかっている。


 だけど――。


「あの……」

「うん?」

「そろそろ、放していただけないでしょうか?」

火曜日は体調不良にてお休みさせていただきました……。申し訳ございません。


引き続きよろしくお願いいたします……!(ブクマ15000超えました! ありがとうございます……!)

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