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図書室とフレディ(1)

 それから二時間後。


 セイディは王宮にある図書室にいた。


 壁一面に詰まった本、本、本。まるで本の世界に迷い込んだかのような雰囲気に、セイディは息を呑む。


「今から二時間後には施錠させていただきますので。それまでに、済ませていただけると幸いです」


 司書であろう男性がフレディにそう声をかける。


 フレディはそれを聞いて「はいはーい」と軽く返事をしていた。が、セイディからすればそんな場合ではない。


 二時間で済ませる。それは、この膨大な本の中から目的の書物をそれだけの時間で見つけなければならないということだ。


(いや、それ以上にここの書物は持ちだし厳禁だというし、一時間くらいで見つけなくちゃ……)


 読む時間を考えると、探すのにかけられる時間は一時間が限度だろう。


 そう思い、セイディは席に戻る司書の青年に視線を向けた。とりあえず、大まかな配置は聞いておいた方が……。


「セイディ、こっちこっち」


 しかし、そんなセイディの手首をつかんで引っ張り、フレディが歩き出す。


 それに驚きつつも引っ張られる形で本棚の場所に連れていかれる。


「あ、あの……場所を……」

「大丈夫。僕、大体知っているから」


 そう言って、フレディは「国の歴史についてはこっちだったよ」と言いながらすたすたと歩く。


 ……彼は、何でも知っているのだろうか。


 そんなことを考えてセイディが頬を引きつらせていれば、彼は「まぁ、かなり長い間来ていないから、配置が変わっていなければ、だけれど」と念を押すように言う。


「……そうなのですか?」

「うん。でも、ここの本って膨大だから。動かすの大変っていう意味で、あんまり配置換えはされないみたい」


 図書室の階段を上りながら、フレディがそう言う。


 彼のその言葉にいろいろと興味がわくものの、今は時間がない。時間は有限。なんとしてでも、さっさと見つけなければ。


「こっちが自国の資料で、あっちが他国の資料。ヴェリテだったら……そうだなぁ」


 フレディが本棚を見つめながら歩く。


 その横顔はとても真剣なものであり、彼のその顔を見ていると彼の容姿がやはりとても整っていることに視線が行ってしまう。……こんなこと、考えている場合ではないというのに。


 そんなこんなを考えながら、セイディも棚を見つめてみる。


 確かにここら辺には他国についての資料が多いようだ。近隣のルクレチア魔導国、ローズティア王国など。


 指で背表紙を追いながら見つめていると、不意に――見つけた。


(……帝国の、資料)


 それは何処となく古びたような背表紙であり、薄っぺらい。


 ほかの国の資料は大量にあるものの、マギニス帝国の資料に関しては本の数冊しかなかった。しかも、そのすべてが漏れなく薄っぺらい。……大国なのに。


(大国なのに、こんなにも資料がないものなのかしら?)


 そう思って、セイディがその資料の一冊を手に取る。それはどうやら年代別に歴史を綴ったものらしい。年代を見るにまだ新しい。


 だが、何度も読み返されているのか割とボロボロだった。……ゆっくりとページを開いてみれば一番に視界に入ったのは先代の皇帝だという男性の肖像画。


(……この人物が、フレディ様のお父様、なのよね)


 何処となく儚げに見えるその男性には何処となくフレディの面影があるような気がした。とはいっても、確実に似ているとは言えない。多分、彼は母親似なのだろう。


(もうすでに亡くなっているお方とはいえ、いろいろと詳しく載っているのね)


 女好きで皇子や皇女がたくさんいるとか、そのくせあまり気の強くない人だったとか。優柔不断だったとか。


 そんなお世辞にもあまり良いとは言えない内容をぼんやりと見つめていれば、ふと「セイディ?」と名前を呼ばれた。


 なので、顔を上げればそこには疑問符を浮かべたようなフレディがいる。彼はセイディの手元に視線を落とし「……あぁ」と何処となく呆れたような視線を資料に向ける。


「……父上の」


 ボソッとそう零したのを見て、セイディは慌てて資料を閉じた。もしかしたら、彼も思い出したくないことなのかもしれない。リリスがそうだったように、彼にもあまりいい思い出がないのかも。


「あ、あの、すみません。たまたま、目についてしまって……」


 肩をすくめながらそう言うと、フレディは「いや、別にいいよ」と言ってセイディにいくつかの書物を手渡してくれた。


 その本はすべてヴェリテ公国の資料のようであり、彼が探してくれていたのだろう。……自分は、ぼんやりと帝国の資料を眺めていたというのに。


「……私が、探すべきだったのに」


 本を見つめてそう零せば、フレディは「いいよ」と言いながら手のひらをひらひらと振る。


「こういうのは適材適所だ。僕の方が詳しいわけだしね。……セイディは、それを読んで来たら?」


 本を読むために用意されたスペースなのか、机と椅子が設置してある場所を見つめフレディがそう言う。


 だからこそ、セイディはぺこりと頭を下げてそちらに向かおうとした。


「あのさ、セイディ」


 しかし、ほかでもないフレディに止められる。それに驚いて彼に視線を向ければ、彼は「……それ、貸してくれないかな?」と言ってセイディの手元にある帝国の資料を指さした。

次回更新は火曜日を予定しております。


引き続きよろしくお願いいたします……!

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