簡単に言うけれど
「う~ん、どうしようかな……」
クリストバルと再会した翌日。セイディは騎士団の寄宿舎の前で一人悶々としていた。
というのも、本日は半休だった。そのため、何かしようと思ったのだが……何もすることが思い浮かばないのだ。
やりたいこと、したいことはある。けれど、それはセイディの一存ではできないこと。
だから、結果的に何もすることがない。
(……王都にある図書館に行ってみてもいいのだけれど)
そう思ったものの、この間のこともあるので勝手に外出するのは憚られた。
だったら、誰か一緒に行ってくれれば。そんなことも思ったものの、それもできない。
リオは仕事だし、アシェルも仕事。クリストファーも本日はパトロールに出てしまってる。ミリウスは相変わらず行方不明。ジャックならばまだ……と思わないこともないが、彼のスケジュールなど知りようがない。リアムは論外。
(うーむ、本当にどうしようかな……)
心の中でそう思いつつ、セイディは唸る。
しかし、やっぱり何も出てこない。……これが、詰みということか。
「こういうときに交友関係が広かったらなぁ……」
そんなことをセイディが呟いたときだった。不意に後ろから「やっほう」と声が聞こえてきた。
「うわっ!」
その声に驚いてセイディがびくりと身体を震わせれば、声をかけてきた人物は楽しそうに「やった、成功した」と言って笑い声を上げる。……まったく、悪趣味にもほどがあるだろう。
「……フレディ様、悪戯はよしてくださいませ」
微かに怒りを含んだ声でそう言って振り返れば、その人物――フレディは「ごめんごめん」と言いながら笑っていた。……これっぽっちも反省していないらしい。
「いやぁね。セイディが神妙な面持ちで何か考えているみたいだったから、声をかけるのはちょっとなぁって思っていたの」
「……いや、声かけましたよね?」
「だって、交友関係が広かったらとか、気になることを言うんだもん」
やたらと可愛らしくフレディがそう言う。
普通の男性がしたら似合いもしない可愛い口調も、美形のフレディがすれば似合ってしまう。……本当に、世の中は顔面格差社会だ。
「どこか行きたいの?」
「……いえ、そういうわけでは」
彼の問いにそっと視線を逸らしてそう答える。
実際、行きたい場所はある。一人で行動するのに不安がないとも言えない。違う。不安だらけだ。
「僕でよかったら、同行するよ?」
セイディの言葉を思いきり無視して、フレディは顔を覗き込んできてそう言う。
……はた迷惑な。
(……でも、この際背に腹はかえられないものね)
この際、フレディに同行してもらうのもいいかもしれない。
そう思って、セイディは彼の目をまっすぐに見つめる。……相変わらずきれいな目だった。
「えぇっと、ちょっと、行きたい場所がありまして……」
「うんうん」
「けれど、一人で行動したら絶対に迷惑になると、思いまして」
アルヴィドが入院中とはいえ、絶対に何も起こらないとは限らない。借金取りだっているし、継母やレイラのことだってある。
「それで、交友関係が広かったら誰か一緒に……と思いました」
淡々とそう言えば、フレディは「僕、今日休暇だから、付き合うよ」とニコニコと笑って言う。
「で、何処に行きたいの?」
フレディは楽しそうにそう言う。
その言葉を聞いて、セイディは「まぁ、いいや」と思った。
フレディとの関係はまた前のようなお茶飲み仲間に戻りつつある。ならば、大丈夫だろう。
「図書館に、ちょっと」
「……図書館?」
「はい、ヴェリテ公国のことについて、少々調べたくて」
眉を下げながらそう言うと、彼は「またなんで?」ときょとんとした表情で問いかけてくる。
全部を話すことは出来ない。そう思い、セイディは「ちょっと、気になることがあるのです」と答える。
「……そっか」
フレディは深追いをしてこなかった。
心の中でそれに感謝をしていれば、彼は「でも、それよりも多分いい場所があるよ」と言って人差し指を立てた。……いい場所。
「ヴェリテ公国のことだったら、王宮にある図書室にある本の方がいろいろと載っていると思うよ」
何でもない風に彼はそう言うが、それはどうなのだろうか。
そもそも、セイディは王宮の図書室に入る権利を持っていない。あそこは機密書類も保管してあるというし、ただのメイドが入れる場所ではない。
「ですが、私は入れな――」
「僕が殿下に交渉してきてあげる」
「えぇっ!」
いや、それはさすがに迷惑では……そう思ってセイディが目をぱちぱちと瞬かせていれば、フレディは「じゃ、ここらへんで待ってて」とだけ言い残し何処かに歩いて行こうとする。
しかし。
「あの、ミリウス様は本日も行方不明でして……!」
さすがに行方不明の人物を捜していたら日が暮れる。
そう思ってセイディがそう叫べば、フレディは「だーいじょうぶ!」という。……何が大丈夫なのだ。
「僕、殿下の居場所大体わかるから」
「……えぇ」
「殿下の魔力特殊だからねぇ。ちょっとたどれば、あっという間だ」
彼はそんな言葉を残して颯爽と歩き去っていった。
それを聞いたセイディの思うことはただ一つ。
(本当に、魔法の悪用……)
それだけだ。
次回更新は金曜日の予定です。
また、しつこいようですが第3巻が来年の1月20日に発売します。そして、第4巻の制作も決定しました。ぜひ、よろしくお願いいたします……!(第3巻も頑張って加筆修正しました!)
引き続きよろしくお願いいたします……!