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真実のかけら(2)

 ミリウスのその言葉に、セイディは素っ頓狂な声を上げてしまった。


 それに対し、ミリウスは「驚くのも無理はないだろう」と言いながらセイディをまっすぐに見据えてくる。


「だが、先ほどアルヴィド・オフラハティは言っていただろう? セイディはまだ五歳にも満たない子供だと」

「……はい」


 その言葉はしっかりと聞いている。だからこそ頷けば、ミリウスは「ジャレッド・ヤーノルドのことを見ても分かるように、魔法で操られている間の記憶はないと考えて妥当だ」と言葉をくれた。


 ……それは、つまり。


「……あの、お父様って、ずっと操られていたということですか?」


 恐る恐るそう問いかければ、ミリウスは「そうだと思う」と告げてくる。


「確かに元々あんまり貴族には向いていない人物だっただろうな」

「……はぁ」


 ミリウスの言葉は容赦ない。けれど、セイディも祖父母が常々「アルヴィドは貴族に向いていない」と言っていたのを何故かよく覚えていた。なので、その言葉には同意できる。


「その、一つだけ、お尋ねしても」

「あぁ」

「お父様を操っていた人物を特定することは、可能でしょうか?」


 まっすぐにミリウスの目を見てそう問いかければ、彼は少し考えたのち「無理、かもしれないな」と言いながら天井を見上げる。


 ……そうか。無理なのか。


「だが、魔力の感覚からしてそこまで強い術者ではない。アーネストのような人物……つまり、帝国の人間である可能性は低いだろうな」


 彼が至極真剣な面持ちでそう言ってくれる。


 だが、その言葉には疑問点しかない。帝国の人間が術者ではないとすれば、一体誰だというのだろうか。


(そうなれば、帝国の人間から魔法を教えてもらった……と考えるのが、妥当なのかも)


 その可能性にたどりつくものの、セイディの頭は混乱してしまう。


 いきなり実父が実は操られていましたと言われたところで、理解できることはない。そう思いながら眉を顰めていれば、ミリウスは「ジャレッド・ヤーノルドにしろ、操りやすい奴だろうからな」と言いながら肩をすくめる。


「あぁいうプライドは高いのに気弱なタイプは、操られやすい。アルヴィド・オフラハティにしろ、格好の獲物だっただろうな」

「そう、ですか」


 その言葉は納得できる……はず、なのに。


 何処となく違和感が胸の中でくすぶっていく。……どうして、アルヴィドだったのだろうか。だって、アルヴィドのようなタイプはほかにもいる。さらにいえば、高位貴族を操った方が本当にメリットが大きいはずなのだ。


(……やっぱり、怪しいのは――)


 ――マデリーネ・オフラハティ。セイディの継母だろうか。


 そう思い目を伏せていれば、遠くからクリストファーの「団長!」という声が聞こえてきた。


「ちょっとクリストファーの方に行ってくる。……ここで、待っていてくれ」


 軽く頭を撫でられ、ミリウスがクリストファーの方に向かう。


 撫でられた場所の髪の毛が乱れているような気がして、軽く直す。でも、今はそれよりも考えるべきことが山積みだ。


(本当に何もかもがめちゃくちゃだわ。それに、不気味なほどに私の周りばかり……)


 どうして、自分の周りばかりでそんなことが起こるのだろうか。


 そんなことを思って目を伏せていれば、不意にアルヴィドが『パトリシア』という名前を口にしていたことを思い出す。


(パトリシア。……それは、私のお母様の名前)


 それはセイディの生みの母の名前だろう。名前も何も覚えていない実母の情報を、微かに手に入れることが出来た。だが、今はそれに歓喜している場合ではない。


 そんなことを考えながらぼんやりと天井を見上げていると、不意に遠くから「……お嬢様?」と声が聞こえてきた。その声を、セイディはよく覚えている。


 だからこそ慌ててそちらに視線を向ければ、そこには――オフラハティ子爵家の侍女であるエイラが、いた。


「エイラ……?」


 恐る恐るその名前を呼べば、彼女は「お嬢様!」と言ってセイディの近くにかけてきてくれた。


「お嬢様! ご無事だったのですね……!」

「えぇ、私、そう簡単に死ぬような人間じゃないから」


 エイラの大げさな言葉にセイディが肩をすくめていれば、彼女は「ですが、どうしてこちらに……?」と疑問を口にしてきた。


「……お父様が倒れたって聞いて、こちらに来たの」


 少しためらったが真実を答えれば、エイラは「お嬢様はなんとお優しいのでしょうか……!」と言いながら目元を拭う。


「きっと、貴女様のお母様も貴女様がこんなにもお優しい方だと知れば、喜ばれます……!」


 嬉しそうにうんうんと頷きながらエイラがそう言うので、セイディは意を決して「……あのね」と彼女に声をかける。


「どうなさいました?」

「……私の、お母様のことなの」


 ゆっくりとその言葉を口に出せば、エイラの顔が一瞬にして強張る。


 多分、これは聞いては行けないことだったのだろう。そう思いながらも、セイディは「……お父様が、私のお母様の名前はパトリシアというのだと、呟かれていたわ」と真剣な面持ちで告げる。


「それは、本当?」


 かみしめるようにそう問いかければ、エイラは表情を曇らせる。一分、二分、三分。微妙な沈黙が場を支配したが、エイラはゆっくりと顔を上げた。


「それは、本当でございます」


 そして、彼女はしっかりとそんな言葉をくれた。

次回更新は火曜日を予定しております(o_ _)o))


また、来週の木曜日に第3巻に関する告知をしようと思っております。活動報告等に載せますので、覗いていただけると幸いです(ちなみにTwitterが一番早いです)


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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