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真実のかけら(1)

 アーリス病院にたどり着くと、真っ先に医師が出迎えてくれた。そして、彼に案内されながらアルヴィドが入院しているという病室へと向かう。


「……なぁ、セイディ」


 何も言わずに歩いていれば、不意にミリウスがそう声をかけてきた。そのため、セイディが「……はい」と少し間を置いて返事をすれば、彼は「……無理は、するなよ」と続ける。


「何かがあったら俺とクリストファーが付いているわけだし、遠慮なく頼れよ」

「……はい。というか、ミリウス様は勝手についてこられただけでは……?」


 彼の言葉に小さな疑問を抱けば、彼は「そうだな」とあっけらかんと答える。


「まぁ、俺も少し気になることがあったからな。……ちょっと、会ってみようかと思って」


 しかし、彼は何でもない風にそういう。


 ミリウスが気になることとは、いったい何なのだろうか?


 セイディがそう思っていれば、医師は「こちらでございます」と言って一つの扉に視線を向ける。その周辺には、警護なのか数名の男性が待機していた。


「殿下のおっしゃった通りに、警護を置いております。……しかし、殿下。あの男性が何か……?」

「いや、こっちの都合だ。……ちょっとした犯罪の重要人物だっていうだけだよ」


 ミリウスはそれだけを告げると、病室の扉を遠慮なく開ける。それに驚きつつもセイディが慌ててその後に続けば、病室の寝台には誰も寝ていなかった。……ただし、一人の男性が窓の外を見つめている。


「……お父様」


 その後ろ姿を見つめ、セイディがそっとそう声をかける。すると、その男性はゆっくりと振り向く。


 あまり、顔色はよくないだろうか。この間のような覇気もなく、ただぼんやりとしているように見える。


「……セイディ、か?」


 そして、男性――アルヴィドがゆっくりとそう声を上げていた。


「……はい」


 だからこそ、そう返事をすればアルヴィドは「……どうして、ここにいるんだ」と問いかけてくる。そして、その視線はミリウスとクリストファーに注がれていた。が、すぐに視線はセイディに戻る。


「……それに、どうしてそんな恰好を」

「……お父様?」

「お前は貴族令嬢だろう。……どうして、そんな質素な格好をしてるんだ」


 ……何かが、おかしい。そんな風に思いセイディが目を見開けば、セイディを庇うようにミリウスが前に立つ。


「……お前、自分が何者かわかるか?」


 低い声でミリウスがそう問いかける。だからだろうか、アルヴィドは「……あぁ、アルヴィド・オフラハティだ」とゆるゆると首を横に振りながら言う。


「じゃあ、こいつのことはわかるか?」

「……多分、セイディ・オフラハティだと思う」


 どうして、アルヴィドはセイディを見つめて「多分」などというのだろうか。


 そんなセイディの疑問は、あっという間に解けてしまった。


「そもそも、セイディは――」


 ――まだ、五歳にも満たない子供……だったと、思うのだが?


 そう言ったアルヴィドの声に、嘘などこれっぽっちも含まれていなかった。


「……え?」


 セイディがアルヴィドの言葉に戸惑えば、ミリウスは「……やっぱり、か」とそっと息を吐く。


「……あ、あの、どういう……?」


 恐る恐るそう言えば、アルヴィドは「……あいつは、どうしたんだ?」と続けて問いかけてくる。……彼の言う「あいつ」とは、セイディの継母のことだろうか? それとも、レイラのことだろうか?


「えぇっと、お義母様のことですか? それとも、レイラのこと……」

「……何を言っているんだ。お前の母であるパトリシアのことだろう」


 セイディの継母の名前はマデリーネだ。


 『パトリシア』などという名前ではない。


「……それは、誰、ですか? 私の継母は、マデリーネという名前です」


 そっとそう訂正すれば、アルヴィドは「……何が、どうなっているんだ」と言いながら頭を抱えていた。


 そして、次の瞬間――アルヴィドの身体が、傾いていく。


「お父様っ!」


 その場に倒れこんだアルヴィドのことを見て、セイディは慌ててそちらに駆け寄ってしまおうとする。だが、ミリウスに止められてしまった。


「……あの」

「お前に、何とかできることじゃない」


 ミリウスが冷静な声でそう告げてくる。それに驚き目を見開けば、彼は「……魔法の類か」と言いながら医師を呼んでいた。


「とりあえず、外で話をするぞ。……クリストファーは、一応ここに残ってくれ。何かあったら知らせてくれ」

「は、はい!」


 セイディの手を引いて、ミリウスが病室を出て行く。


 それに戸惑いつつもセイディがついて行けば、ミリウスがやってきたのは病院の休憩室のような場所だった。


「さて、セイディの父親……アルヴィド・オフラハティの状態について話をするか」


 ミリウスは何でもない風に休憩室のソファーに腰掛け、セイディのことを見据えてくる。


 だからこそ、セイディもミリウスから少し間隔をあけてソファーに腰を下ろした。


「……はい」

「まず、一つ目。アルヴィド・オフラハティは魔法によって操られていた。……ここまでは、大体セイディの予想通りだ」

「……はい」

「次に二つ目。……それが始まったのはセイディが五歳にも満たない時期だ」

「え?」

今月からまた定期更新に戻すと思います(o_ _)o))

次回更新は金曜日を予定しております。

また、今月は第3巻についての告知があります!!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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