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借金取り

おひさしぶりです。少々展開に悩んでおりまして、ちょっと更新が不定期になります。ご了承くださいませ。

「あー、どうしようかな……」


 その日、セイディは厨房にて一人悶々としていた。というのも、朝食用の卵が少々足りないのだ。


 普段ならば業者の搬入を待つのだが、生憎と言っていいのか搬入は三日後。卵は朝食の貴重なレパートリーを担える素敵な食材。つまり、三日待つという選択肢が出ない。


「ほかの食材だったらまだしも、ちょっと卵はなぁ……」


 頭を掻きながらセイディはそう呟く。時計の針を見つめれば、まだ王都の店は開いている時間帯だ。ここは、ちょっと街の方に足を運んで卵を買いに行った方が良いだろう。


「よし、行こうっと」


 あんまり勝手な行動はするなとアシェルにきつく言われている。セイディだってそれは守るつもりだし、基本的には彼の言うことに従っている。ただ、今回ばかりは仕方がないのだ。食事は騎士たちにとって大切なもの。自分のものならば我慢できるが、彼らの仕事は重労働にもあたるし、危険が伴う。つまり、食事の量を減らすという選択肢は鼻からない。


 そう思い、セイディは部屋に戻り素早く着替える。幸いにも本日は半休であり、午後からは暇だった。


 そんな中、明日の朝食のメニューをどうしようかと思案し、いっそ厨房で食材を見るか……ということで厨房に来ていた形だ。


「ちょっと、出かけてきますね」


 籠をもってセイディが近くにいた騎士に声をかければ、彼は「……ひとりで、大丈夫ですか?」と問いかけてくる。なので、セイディはすぐそこに買い物に行くだけだと伝えた。


(ここ最近お父様も顔を見せていないし、大丈夫……だと思いたいわ。どうせだし、ヤーノルド伯爵領の方に帰ったと思いたい)


 それはいささか楽観視しすぎかもしれない。そう思ってしまうが、この時間帯ならば人通りも多いし、危険はそこまで伴わないはずだ。


「大丈夫です。すぐに戻ってきますし、人通りの多い道を行きますから」


 にっこりと笑ってそう告げれば、騎士は「……はい」と言って苦笑を浮かべる。


 彼の隣を通り抜け、セイディは足を進めた。


 季節的な問題で日が暮れるのは早い。出来る限り早く買い出しを済ませてしまわなければ。


(あんまりこういうことが褒められたことじゃないことくらい、わかっているんだけれどね……)


 騎士団の備品や食料を買い出しに行くのはセイディの仕事ではない。基本的には騎士が交代で行う仕事だ。


 けれど、セイディはその買い出しに同行することが多く、それゆえに店の場所などはよく覚えていた。ものに関しては銘柄なども覚えているし、一人で買い出しもできるのだ。……周囲が、過保護なだけであり。


 それに、アシェルには何度も言うように注意ばかりを受けている。一人で出歩くなど言語道断だと言われるだろう。でも、何もないのならば一人で出向いた方が良い。彼らの仕事の妨げにはなりたくない。


 人通りの多い道を選びながら、セイディは街に入っていく。いつもの食材屋で必要な数の卵を購入し、適当にほかに必要な調味料なども購入しておく。


(えぇっと、この金額だと……)


 突然だったのでお金はもらってきていない。セイディが一時的に立て替える形となってしまっている。なので、これもいわば騎士団の経費。……無駄遣いは許されない。


(うーん、そういえばタオルが汚くなっていたのよね……)


 近くを通りかかった店で、タオルが売り出されているのを見てセイディはふとそんなことを思う。……だけど、今日は止めておこう。タオルなどならばアシェルに相談してからでも遅くはない。卵のように急に必要なものではないのだ。


 そう思い、セイディは街を出て行った。その時、だった。


「いたぞ!」


 遠くからそんな声が聞こえ、誰かが近づいてくる。それに驚いて思わず逃げ出すものの、その誰かの走る速度には勝てずに手首をつかまれてしまった。


「な、なんですか!?」


 驚いてそちらに視線を向け、そう叫ぶ。そうすれば、そこにはいかつい数人の男性がいた。……明らかに、やばい人たちだ。そう思いつつ、セイディは頬が引きつるのを実感する。


「お前、オフラハティ子爵家の人間だろ?」


 そのうちの一人がそう問いかけてくる。……もしかしたら、実父の差し金かもしれない。そう思い何の返事もせずに彼らをにらみつければ、彼らは「オフラハティ子爵の借金を、返してもらおうか!」と言いながら何やら紙を突きつけてきた。


「……はぃ?」


 いや、それは一体どういうことだ。そう思いセイディはその借用書を見つめる。借りた主は間違いなく『アルヴィド・オフラハティ』。さらには返済期限はとっくの昔に過ぎている。


「……お前、オフラハティ子爵の娘だろ? 父親の借金を返してもらおうか!」


 いかつい男性の一人がセイディに詰め寄ってくる。……金額は、一、十、百、千……。


(五百万とか嘘でしょ⁉)


 予想だにしない大金に、セイディは気絶してしまいそうだった。が、気絶することは許されない。というか……。


「どうして私が返すんですか!?」


 自分が返済せねばならない意味が分からない。だって、自分は――もう、あの家とは無関係なのだから。

いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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