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恩返し

 アルヴィドとほんの少し向き合ってから大体二週間が過ぎた。


 あれ以来、アルヴィドはセイディの前に姿を現していない。どうやら、リオの脅しが彼にとてもよく効いたようだ。


(かといって、油断するわけにもいかないのよねぇ……)


 いつアルヴィドが訪ねてくるかわからない以上、セイディは常に気を引き締めていないといけない。それはひどく疲れるものの、どうしても必要なことなのだと自分自身に言い聞かせる。


「セイディ。大丈夫?」


 そんなことを思っていれば、隣にいたリオに声をかけられた。


 リオはアシェルに命じられ、半日ほどセイディにつくことになった。残りの半日は別の騎士がついてくれている。


 『光の収穫祭』が終わったためか、この時期は騎士団や魔法騎士団はゆるふわっとした空気らしい。今が一番平和な時期なのだとリオは笑いながら教えてくれたものだ。


「そういえば、もうじき新人の募集なのですよね」


 不意に思い出してリオにそう問いかければ、彼は「えぇ、そうよ」と言いながら窓を拭く。せっかくリオがいるのだから、普段は出来ない仕事をしよう。そう思い、セイディはリオと二人で窓ふきに勤しんでいた。


 騎士団や魔法騎士団の新人募集は冬にある。そして、冬の間に選考を済ませ、合格者が春に新人騎士や新人魔法騎士として入団するのだ。


 去年はクリストファーとルディ、それからオーティスが合格者だったと聞いている。


「毎年、どれくらいの人が合格するのですか?」

「そうねぇ。ばらつきはあるけれど、三人から六人ってところよ。前年度に辞めた人数が多いときは、その分多くとることにしているのだけれど」


 どうやら、騎士団には騎士団の事情があるらしい。そんなことを思いながら、セイディは窓を拭く。ちなみに、高い場所はリオが拭いてくれている。セイディは低い位置を担当していた。


「……そういえば、セイディ。これはいつかは言わなくちゃいけないことだったんだけれど」


 ふとリオが真剣な声音で何かを告げてくる。それに驚いて彼を見上げれば、彼は「騎士団や魔法騎士団は、二十五歳で大体みんな辞めるわ」と言ってきた。


 それはセイディも知っていることだ。家庭を持てばそれだけ騎士や魔法騎士として勤めることは難しくなる。だからこそ、二十五歳前後でみな辞めていくのだ。それくらいが、男性の結婚適齢期だから。


「……えぇっと」

「つまり、団長や副団長はもうじき辞めるっていうことよ」


 リオのその言葉に、セイディは目を見開いた。


 確かにアシェルやミリウスは二十三歳、今年で二十四歳だと聞いている。つまり、彼らはあと一年でここからいなくなるのだ。


(……なんていうか、不思議ね)


 今まで散々世話になってきた相手が、いきなりいなくなるのかと思う寂しさを覚える。けれど、彼らには彼らの事情があるのだ。特にアシェルは嫡男であるし、ミリウスは王弟だ。長々とここに在籍するのは難しいということだろう。


「……あの、リオ、さん」

「なぁに」


 セイディが声を出せば、リオは優しく言葉を返してくれる。そのため、セイディは「……私、恩返しがしたいです」と彼の目をしっかりと見つめて言う。


「……恩返し?」

「はい。お二人が辞めるまでに、私、なんとか……その」


 恩返しと言ったまではいいが、実際何をすればいいかがわからない。そんなことを思いセイディが目を伏せれば、リオは「必要ないわよ」と言いながら笑う。


「……ですが」


 リオの言葉に納得できないでいれば、彼は「……そんな、張り切るようなことじゃないわ」と言いながらゆるゆると首を横に振る。


「団長も副団長も、貴女にしてほしいことは一つだけ」


 まるで、何もかもをわかったような口調だった。


 それに驚きながらもセイディがリオのことを見つめれば、彼は口元を緩める。


「――貴女が、幸せになることよ」


 そして、彼は何でもない風にそう告げてきた。


 ……セイディが、幸せになること。それのどこが恩返しになるのだろうか。


 そう思っていたセイディの気持ちはリオにしっかりと伝わっていたらしく、彼は「副団長は、貴女のことを妹分として扱っているでしょう?」と言いながら笑う。


「……はい」

「妹分の幸せが、副団長にとって一番の幸せよ」


 窓に視線を向けながらリオがそう告げてくる。……そう、なのか。


「それに、団長は団員たちの幸せが一番の幸せだと思っているわ。……貴女もメイドとはいえ、私たちの仲間だもの」


 しかし、その言葉は少し照れてしまうかもしれない。


 仲間だと言われたことは、純粋に嬉しい……の、かもしれない。


 だからこそ、セイディは「……はい」と小さく言葉を返す。


「さぁて、ここら辺は終わりね。……そろそろ、移動しましょうか」


 最後の窓を拭き終えた時、リオは笑ってそう言葉をかけてくれた。そのため、セイディは頷く。ちょうどセイディも窓を拭き終えたところだった。


「じゃあ――」


 リオが歩き出そうとするので、セイディは不意に彼の騎士服の袖を引っ張る。


 それから、彼の顔を見て言う。


「あ、あのっ! リオさんやみなさんにとっても……私の幸せって、恩返しになりますか?」

次回更新は金曜日を予定しております(o_ _)o))


引き続きよろしくお願いいたします……!

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