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地を這うような

 リオのその言葉にアルヴィドは明らかに怯んでいた。ほんの少し唇を震わせ、セイディに縋るように視線を向ける。


(これくらいで、怯むならば来なかったらいいのに)


 そう思ってしまい、セイディはリオの顔を見上げた。そうすれば、彼は一瞬だけセイディに笑みを向けると、すぐにアルヴィドに向き直る。その眼光は今までセイディが見たことがないほどに鋭い。


「……私、貴方みたいな自分勝手な輩が大嫌いなの」


 地を這うような低い声でそう言われ、アルヴィドが明らかに怯える。その目には明らかな恐怖が宿っており、セイディはごくりと息を呑んだ。


 今のリオの態度は殺気を向けられていないセイディでさえ怯んでしまいそうなものだ。その証拠に近くにいた騎士たちさえも息を呑んでいるのがよく分かる。


「さっさと帰りなさい。……そうじゃないと、私何をするかわからないわ」


 アルヴィドのことを強くにらみつけながら、リオはセイディを抱き留めていない方の手で剣のさやに触れた。


「だ、男爵家の子息ごときが、私に……」


 しかし、アルヴィドとて易々と帰るわけにはいかなかったのだろう。リオにそう告げた。


 それは火に油を注ぐ結果となったらしく、彼は剣の切っ先をアルヴィドの首元に当てた。その動きはとても素早く、目で追うことが難しいレベルだった。


「……言ったわよね、これが最終忠告よ。……帰れ」


 いつものような高い声じゃない。本当に腹の底から出しているような低い声に、近くの騎士たちが震えあがる。


 それはアルヴィドとて同じだったらしく、逃げ出すように寄宿舎を後にした。


 そんなアルヴィドの様子を眺めながら、セイディは「……リオ、さん」と彼の顔を見上げる。


「どうしたの?」


 次にセイディに視線を向けた時には、リオは普段のリオだった。それにほっと息をつくものの、セイディからすればまぁ微妙な気持ちになってしまう。


 アルヴィドから守ってくれたのは素直に嬉しい……と思う。でも、セイディはアルヴィドと向き合うつもりだった。追い返してしまっては、元も子もないじゃないか。


「いえ……私、向き合うつもりで……」


 そっと視線を逸らしてセイディがそう言えば、リオは「あぁ、やり方間違えちゃったわねぇ」と言いながらころころと笑う。


「ついつい、ね。あの男が貴女に触れようとしたから……ついつい怒りが抑えきれなくて」

「そ、そういう問題、じゃ……」


 実際、怒りが抑えきれないからといって相手に剣の切っ先を向けてしまえば大問題だ。そんなことをしていればリオの立場が危うくなる。そんな心配をするセイディの考えを理解していたのか、リオは「別に、普通に怒っているときはあそこまでしないわよ」と言いながら肩をすくめる。


「貴女のためだから、あんなにも怒っただけよ」

「……私のため、ですか?」

「本当に鈍いわねぇ。……とりあえず奥に引っ込みなさい。……次は、手加減してあげるから」


 どうやら、次があるらしい。まぁ、アルヴィドとてこれくらいではあきらめないだろうから、それはある意味当然なのだろうが。


 そう思いながらセイディが一人考え込んでいれば、後ろから「リオ」と声が聞こえてくる。そこには、何処となく疲れ切ったようなアシェルがいた。


「リオ。お前、一般人に剣を向けるな。……問題になるぞ」


 彼は額に手を当てながらそう言う。……どうやら彼はセイディと同じ心配をしているらしい。


 それに対してリオは「いやねぇ、そんな問題になるようなことはしないわよ」と言いながら手をひらひらとさせていた。


「いざとなったら……上手に始末しておいてあげるわ」

「そういう問題じゃない」


 アシェルとリオは物騒な会話をさも当然のようにするものの、セイディからすれば「それはそれで問題なのでは……?」という感じである。


(お父様、己の身が可愛いのならばどうかこちらに来ない方がよろしいですよ……)


 セイディは内心でそう零す。


 アルヴィドは生粋の貴族である。そのため、騎士に殺気を向けられることはなれていない。だからこそ、あんなにも怯んだのだろう。


(まぁ、そんなことを思ったところでお父様は……)


 間違いなく、こちらに来るのだろうが。


 アルヴィドは妻――セイディの継母――に逆らうことが出来ない。何処となく気弱な彼は気の強い妻の言いなりなのだ。


 もしも、アルヴィドがこちらにやってくることに継母が関わっていたのならば。間違いなく、そう簡単にあきらめはしないだろう。……まったく、面倒である。


「……まぁ、いい。リオ、今後はセイディの側に居てやれ」


 しかし、すぐ近くから聞こえてきたアシェルのその言葉にセイディは目を開く。リオは何でもない風に「はぁい」と言っているが、セイディの側に居るなど仕事が溜まって仕方がないだろう。


「そ、その、お仕事は……」


 遠慮がちにアシェルにそう声をかければ、彼は「クリストファーが本部に入ったからな。別に問題はない」と言いながら首を横に振っていた。


「二人体制になったところで、今まで通りというわけだ。ついでに団長を捕まえればいい」

「……ははは」


 それはそれで、重労働なのでは? そう思ったものの、セイディは口に出さなかった。

次回更新は火曜日を予定しております(o_ _)o))


引き続きよろしくお願いいたします……!

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